眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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「姉ちゃーん!」

 八重太の手から離れた米俵が音を立て床に山盛りになる。

「こんにちは八重太くん、こんなにお米どうしたの?」
「おいらたちの世界でも穀物をしっかり摂ろうって残月様が! だから今栽培に力入れてんだ、すんげーうめえから姉ちゃんも食ってくれよな!」
「そうだったのね」

 しかしつい最近始めたところで、すでにここまでの収穫があるとは、植物の発育がよすぎる。それはあやかしの力が満ちている土地ならではの特権だろう。

 霊園での匂い袋の件があってから、八重太はすっかり夢穂に懐いてしまった。
 だから会うなり飛びつく光景も日常的になりつつあったが。
 八重太がちょうど目の前に来る胸に顔を埋めるようにぐりぐりすれば、所有予約をしている者が黙ってはいない。
 小さな狸の背後に覆いかぶさる狐の影。
 普段は脱力感しかないが、スイッチが入ると世界一強い。たぶん。

「夢穂、今夜は狸そばがいいと思い」
「やめなさい、大人気おとなげないわね」

 影雪に背中の襟を持ち上げられた八重太は、借りてきた猫のようになっていた。
 
 そんな騒がしさをもろともせず、台所の掃除をしていた業華が、不意に何かを思い出したように顔を上げた。

「夢穂、そういえば今日は」
「ごめんくださーい!」

 業華の声に重なるように、外から元気のいい挨拶が聞こえる。
 それを耳にした夢穂は「あっ」と小さな悲鳴を上げて青ざめた。
 慌ただしく頭から抜け落ちていた約束を、たった今思い出したからだ。
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