眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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エピローグ

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「そ、そうだ、沙子がテスト前で部活が休みだから、お見舞いのお礼を持ってくるって……それに美菜もついてくるって言ってたのに……」

 ちらりと横目で見てみても、当然現実は変わらない。
 室内には狐のみならず他のあやかしまで集結している。
 さすがにコスプレパーティーでごまかすには、少々無理がある気がしてきた。

「おーい、いないのーっ?」

 庭園の方からまたも聞こえる少女の声に、夢穂はひたすら焦りを覚える。

「どうしようっ、とにかくみんな隠れて! 早くしないと私の友達に見られちゃうわよ!」

 動揺しているのは夢穂だけで、あやかしたちは平然としている。

「悪いことしてるわけじゃあるまいし、逃げも隠れもする必要はねえだろ」
「あなたたちにはないかもしれないけど、私が困るのよ~!」

 これ以上おかしな親戚がいると噂されては困る。円満な学園生活に支障をきたすか否かの瀬戸際は、人間の夢穂にとっては重大なことだ。
 すでに見られている影雪は仕方ないとして、夢穂はとりあえず一番早く帰れそうな獄樹から追い出すことにした。
 鎖かたびらから生えた漆黒の羽越しに、背中を両手でめいっぱい押す。

「何しやがるんだこら、まだ夢穂の握り飯を食ってねえぞ!」
「そんなものは後でいくらでもあげるから、今はその立派な羽でお空をひとっ飛びして帰ってちょうだい!」

 夢穂が異議を申し立てる獄樹を、部屋の外まで押しやった時だった。
 ぱたぱたと無邪気な足音が耳に入ったのは。
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