眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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愛のために戦いましょう。

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「お待ちなさい! それですべてが元通りになるとは限りません……下手をすれば眠りそのものが消え、この世が滅ぶのかもしれないのですよ!」
 
 眠りの神の絶命、それが人間やあやかしの手により成された後、平和が訪れる保証はない。
 多くを救うため、わずかを犠牲にする。
 世界と夢穂……数を重んじるならば、それは天秤にかけるまでもなかった。

「それがどうした?」

 耳を疑った業華は、ゆっくりと後ろを振り返った。
 背中合わせに立っていた影雪は、いつの間にか業華を真正面から捕らえていた。

「俺は世界より、夢穂が大事だ」

 影雪の言葉は的確だ。
 余計なことを考えない分、晴れやかに、素直な思いだけが見えてくる。
 だから自分を見失わない。

「神に刃向かうのがそんなに怖いか? 業華、お前が本当に守りたいものはなんだ?」

 訴えるような真剣な眼差しは、業華の心を貫いた。
 もう、千年以上耐えた。
 泣き方を忘れるほど、多くの眠りの巫女を見送ってきた。
 今度ばかりは他者ではなく、自らに耳を傾けていいだろうか。
 自由な野良狐を見ていると、業華はそんな気持ちになった。
 
「……あなたは本当に、どうしようもなく勝手ですねぇ」
「そんなこと、今に始まったことではないだろう」

 解き放たれたように、寧静ねいせいの笑みを浮かべる。
 一縷いちるの望みがあるなら、そこに賭けてみたい。
 重い腰を上げた業華は、奈良時代ぶりに修羅になることを決めた。
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