眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
130 / 175
歪みの原因はそれでしたか。

27

しおりを挟む
「影雪……あなた、ここに残ったら」

 疑問とも肯定とも取れない語尾で、夢穂が言った。
 その視線は依然、夜空を見上げたままだ。

「どうして、そんなことを言う?」

 影雪は隣で膝を抱えた夢穂に視線を落とす。
 夢穂の横顔は、花火により光と影を繰り返していた。

「だって、ここが影雪の元の世界なんでしょう? 素敵なところじゃない、こんな場所から逃げ出すなんて、もったいないわよ」

 夢穂は努めて平気なふりをして、リンゴ飴を舐めた。味はほとんどしなかった。

「俺はもう逃げたいわけではない」

 なら、と夢穂が言う前に、影雪の声が重なる。

「どこでもいい、夢穂がいるなら、そこが俺の居場所になる」

 夢穂の喉が乾く。 
 甘いものを食べすぎたせいかな、と、自分をごまかすように考えた。

「一分一秒でも、夢穂と離れていたくない」

 影雪が、変わらなければよかったのに、と夢穂は思った。
 あの朝、無粋に布団に潜り込んできた、影雪のままならよかったのに。
 そうすればこの気持ちも、影雪の気持ちも、知らないふりを決めて、笑ってさよならを言えたのに。
 しかし影雪は変わってしまった。
 たった数日間で、見違えるほど成長してしまった。自らの心の変化も感じ取ってしまえるほどに。
 恋ほど不安定なものはない。
 ましてやその相手が、違う種族で異世界の住人など、眠りの巫女としての役割を忘れかねなかった。
 いや、実際に何度も忘れた。
 このままここで影雪と暮れせたらと、血迷った考えまで浮かんだ。

 躊躇うように見上げた影雪は、雪のような肌を朱に染め上げていた。
 その瞳は濡れたような煌めきを持ち、星の瞬く夜空のようだった。
 「夢穂」と囁くように呼ばれ、伸びてきた手が頬に添えられれば、目を逸らすことは叶わない。
 影雪の端正な顔が近づくと、夢穂はなすすべもなく瞼を落とした。
 しかし、そんな夢のような一時ひとときは、長くは続かない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ
キャラ文芸
 三国志×学園群像劇!  平凡な少年・リュービは高校に入学する。  彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。  しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。  妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。  学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!  このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。 今後の予定 第一章 黄巾の乱編 第二章 反トータク連合編 第三章 群雄割拠編 第四章 カント決戦編 第五章 赤壁大戦編 第六章 西校舎攻略編←今ココ 第七章 リュービ会長編 第八章 最終章 作者のtwitterアカウント↓ https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09 ※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。

【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

gari
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。  ※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。    一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。

神送りの夜

千石杏香
ホラー
由緒正しい神社のある港町。そこでは、海から来た神が祀られていた。神は、春分の夜に呼び寄せられ、冬至の夜に送り返された。しかしこの二つの夜、町民は決して外へ出なかった。もし外へ出たら、祟りがあるからだ。 父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。 町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。

黄龍国仙星譚 ~仙の絵師は遙かな運命に巡り逢う~

神原オホカミ【書籍発売中】
キャラ文芸
黄龍国に住む莉美は、絵師として致命的な欠陥を持っている。 それは、右手で描いた絵が生命を持って抜け出してしまうというものだ。 そんなある日、住み込み先で思いを寄せていた若旦那が、莉美に優しい理由を金儲けの道具だからだと思っていることを知る。 悔しくてがむしゃらに走っているうちに、ひょんなことから手に持っていた絵から化け物が生まれてしまい、それが街を襲ってしまう。 その化け物をたった一本の矢で倒したのは、城主のぼんくらと呼ばれる息子で――。 悩みを抱える少女×秘密をもった青年が 国をも動かしていく幻想中華風物語。 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。 ◆大変申し訳ありませんが、予告なく非公開にすることがあります。 ◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。 ◆アルファポリスさん/エブリスタさん/カクヨムさん/なろうさんで掲載してます。 〇構想執筆:2022年、改稿投稿:2024年

思い上がりも程々に。地味令嬢アメリアの幸せな婚約

ごろごろみかん。
恋愛
「もう少し、背は高い方がいいね」 「もう少し、顔は華やかな方が好みだ」 「もう少し、肉感的な方が好きだな」 あなたがそう言うから、あなたの期待に応えれるように頑張りました。 でも、だめだったのです。 だって、あなたはお姉様が好きだから。 私は、お姉様にはなれません。 想い合うふたりの会話を聞いてしまった私は、父である公爵に婚約の解消をお願いしにいきました。 それが、どんな結末を呼ぶかも知らずに──。

黒帯ちゃんは、幼稚園の先生

未来教育花恋堂
キャラ文芸
保育者はエプロン姿が常識です。でも、もし、エプロンを着けない保育者がいたら・・・。この物語の発想は、背が小さく、卵のようなとてもかわいい女子保育学生に出会い、しかも、黒帯の有段者とのこと。有段者になるには、資質や能力に加えて努力が必要です。現代の幼児教育における諸問題解決に一石を投じられる機会になるように、物語を作成していきます。この物語はフィクションです。登場する人物、団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...