眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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眠りは世界を救う、のでしょうか?

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 呉服屋さん、と聞いてイメージするのは、ところ狭しと並んだ着物だろうか。
 しかし、夢穂が入った家にはそんなものはなかった。
 向かって左側に、いくつか四角いテーブルとイスが見える。その壁際には背の低い棚があり、小さなカッパの置物が並んでいた。
 対する右側は殺風景だ。
 踊り場のようにがらんとした床の上に、ぽつんと丸イスが置かれているだけだった。
 呉服屋というより古民家カフェのような雰囲気に近い。

 一体どこに着物があるのだろう?
 予想外の室内に、夢穂がきょろきょろと視線を動かしていると、カッパ童が奥の暖簾のれんを覗き込んだ。
 夢穂と影雪は店の入り口に立ったまま、その背中を眺めていた。
 
「これをお願いします、今から一仕事しますので」
「はいはい、わかりましたよ」

 どうやら暖簾の先には他のあやかしがいるようだ。
 家族か、従業員と呼べるものかはわからないが、とにかくカッパ童は胸に抱えていたきゅうりを渡すと、振り返って再び夢穂と影雪の前に来た。

「さてさて、夢穂殿は何色がお好きでございますか?」

 腰を低くし聞いてくるカッパ童に、夢穂はうーんと少し考えた。

「緑が好き、かな? 私が住んでるところ、すごく自然が綺麗だから」
「それはようございますね、影雪様も、よろしゅうございますか?」
「ああ、夢穂ならなんでも似合うと思う」

 それを聞いたカッパ童は、なるほどといった様子で含み笑いをした。

「これはなんと、お熱いことで」
「え? いやいや、影雪は何も考えずに言ってるだけで、そういうんじゃ」
「咄嗟に出る言葉こそ、本音だと思いますよ。影雪様が嘘をつけない性分なのは、みんな知ってございますしね」

 その台詞に、夢穂は思うところがあった。
 そんなに、影雪は有名なのだろうか?
 そういえばこのあやかしといい、先ほどの奇うさぎといい、影雪を様づけで呼んでいた。
 店の客だから敬称をつけていたのかと思ったが、どうやら他に理由がありそうだ。
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