52 / 175
眠りは世界を救う、のでしょうか?
9
しおりを挟む
呉服屋さん、と聞いてイメージするのは、ところ狭しと並んだ着物だろうか。
しかし、夢穂が入った家にはそんなものはなかった。
向かって左側に、いくつか四角いテーブルとイスが見える。その壁際には背の低い棚があり、小さなカッパの置物が並んでいた。
対する右側は殺風景だ。
踊り場のようにがらんとした床の上に、ぽつんと丸イスが置かれているだけだった。
呉服屋というより古民家カフェのような雰囲気に近い。
一体どこに着物があるのだろう?
予想外の室内に、夢穂がきょろきょろと視線を動かしていると、カッパ童が奥の暖簾を覗き込んだ。
夢穂と影雪は店の入り口に立ったまま、その背中を眺めていた。
「これをお願いします、今から一仕事しますので」
「はいはい、わかりましたよ」
どうやら暖簾の先には他のあやかしがいるようだ。
家族か、従業員と呼べるものかはわからないが、とにかくカッパ童は胸に抱えていたきゅうりを渡すと、振り返って再び夢穂と影雪の前に来た。
「さてさて、夢穂殿は何色がお好きでございますか?」
腰を低くし聞いてくるカッパ童に、夢穂はうーんと少し考えた。
「緑が好き、かな? 私が住んでるところ、すごく自然が綺麗だから」
「それはようございますね、影雪様も、よろしゅうございますか?」
「ああ、夢穂ならなんでも似合うと思う」
それを聞いたカッパ童は、なるほどといった様子で含み笑いをした。
「これはなんと、お熱いことで」
「え? いやいや、影雪は何も考えずに言ってるだけで、そういうんじゃ」
「咄嗟に出る言葉こそ、本音だと思いますよ。影雪様が嘘をつけない性分なのは、みんな知ってございますしね」
その台詞に、夢穂は思うところがあった。
そんなに、影雪は有名なのだろうか?
そういえばこのあやかしといい、先ほどの奇うさぎといい、影雪を様づけで呼んでいた。
店の客だから敬称をつけていたのかと思ったが、どうやら他に理由がありそうだ。
しかし、夢穂が入った家にはそんなものはなかった。
向かって左側に、いくつか四角いテーブルとイスが見える。その壁際には背の低い棚があり、小さなカッパの置物が並んでいた。
対する右側は殺風景だ。
踊り場のようにがらんとした床の上に、ぽつんと丸イスが置かれているだけだった。
呉服屋というより古民家カフェのような雰囲気に近い。
一体どこに着物があるのだろう?
予想外の室内に、夢穂がきょろきょろと視線を動かしていると、カッパ童が奥の暖簾を覗き込んだ。
夢穂と影雪は店の入り口に立ったまま、その背中を眺めていた。
「これをお願いします、今から一仕事しますので」
「はいはい、わかりましたよ」
どうやら暖簾の先には他のあやかしがいるようだ。
家族か、従業員と呼べるものかはわからないが、とにかくカッパ童は胸に抱えていたきゅうりを渡すと、振り返って再び夢穂と影雪の前に来た。
「さてさて、夢穂殿は何色がお好きでございますか?」
腰を低くし聞いてくるカッパ童に、夢穂はうーんと少し考えた。
「緑が好き、かな? 私が住んでるところ、すごく自然が綺麗だから」
「それはようございますね、影雪様も、よろしゅうございますか?」
「ああ、夢穂ならなんでも似合うと思う」
それを聞いたカッパ童は、なるほどといった様子で含み笑いをした。
「これはなんと、お熱いことで」
「え? いやいや、影雪は何も考えずに言ってるだけで、そういうんじゃ」
「咄嗟に出る言葉こそ、本音だと思いますよ。影雪様が嘘をつけない性分なのは、みんな知ってございますしね」
その台詞に、夢穂は思うところがあった。
そんなに、影雪は有名なのだろうか?
そういえばこのあやかしといい、先ほどの奇うさぎといい、影雪を様づけで呼んでいた。
店の客だから敬称をつけていたのかと思ったが、どうやら他に理由がありそうだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?
ぽんちゃん
BL
日本から異世界に落っこちた流星。
その時に助けてくれた美丈夫に、三年間片思いをしていた。
学園の卒業を目前に控え、商会を営む両親に頼み込み、婚活パーティーを開いてもらうことを決意した。
二十八でも独身のシュヴァリエ様に会うためだ。
お話出来るだけでも満足だと思っていたのに、カップル希望に流星の名前を書いてくれていて……!?
公爵家の嫡男であるシュヴァリエ様との身分差に悩む流星。
一方、シュヴァリエは、生涯独り身だと幼い頃より結婚は諦めていた。
大商会の美人で有名な息子であり、密かな想い人からのアプローチに、戸惑いの連続。
公爵夫人の座が欲しくて擦り寄って来ていると思っていたが、会話が噛み合わない。
天然なのだと思っていたが、なにかがおかしいと気付く。
容姿にコンプレックスを持つ人々が、異世界人に愛される物語。
女性は三割に満たない世界。
同性婚が当たり前。
美人な異世界人は妊娠できます。
ご都合主義。
ハバナイスデイズ!!~きっと完璧には勝てない~
415
キャラ文芸
「ゆりかごから墓場まで。この世にあるものなんでもござれの『岩戸屋』店主、平坂ナギヨシです。冷やかしですか?それとも……ご依頼でしょうか?」
普遍と異変が交差する混沌都市『露希』 。
何でも屋『岩戸屋』を構える三十路の男、平坂ナギヨシは、武市ケンスケ、ニィナと今日も奔走する。
死にたがりの男が織り成すドタバタバトルコメディ。素敵な日々が今始まる……かもしれない。
幼馴染はとても病院嫌い!
ならくま。くん
キャラ文芸
三人は生まれた時からずっと一緒。
虹葉琉衣(にじは るい)はとても臆病で見た目が女の子っぽい整形外科医。口調も女の子っぽいので2人に女の子扱いされる。病院がマジで嫌い。ただ仕事モードに入るとてきぱき働く。病弱で持病を持っていてでもその薬がすごく苦手
氷川蓮(ひかわ れん)は琉衣の主治医。とてもイケメンで優しい小児科医。けっこうSなので幼馴染の反応を楽しみにしている。ただあまりにも琉衣がごねるととても怒る。
佐久間彩斗(さくま あやと)は小児科の看護師をしている優しい仕事ができるイケメン。琉衣のことを子供扱いする。二人と幼馴染。
病院の院長が蓮でこの病院には整形外科と小児科しかない
家は病院とつながっている。
国一番の美女を決めるミスコン(語弊)にエントリーしたら優勝しそうな件…………本当は男だし、なんなら皇帝の実弟なんだが、どうしよう?
黒木 鳴
キャラ文芸
とある時代、華胥の国にて麗しく、才媛たる美女たちが熱い戦いを繰り広げていた。国一番の美女を決めるそのミスコン(語弊)に傾国という言葉が相応しい美貌を誇る陵王はエントリーした。そして優勝しそうになっている。胡蝶という偽名で絶世の美女を演じる陵王は、実は女装が趣味なナルシスト気味な男性であり、しかも皇帝の実弟というどえらい立場。優勝する気はなかった。悪戯半分での参加で途中フェードアウトするつもりだったのに何故か優勝しそうだ。そもそも女じゃないし、正体がバレるわけにもいかない。そんな大ピンチな陵王とその兄の皇帝、幼馴染の側近によるミスコン(語弊)の舞台裏。その後、を更新中。
【全33話/10万文字】絶対完璧ヒロインと巻き込まれヒーロー
春待ち木陰
キャラ文芸
全33話。10万文字。自分の意志とは無関係かつ突発的に「数分から数時間、下手をすれば数日単位で世界が巻き戻る」という怪奇現象を幼い頃から繰り返し経験しているせいで「何をしたってどうせまた巻き戻る」と無気力な性格に育ってしまった真田大輔は高校二年生となって、周囲の人間からの評判がすこぶる良い長崎知世と同じクラスになる。ひょんな事からこの長崎知世が「リセット」と称して世界を巻き戻していた張本人だと知った大輔は、知世にそれをやめるよう詰め寄るがそのとき、また別の大事件が発生してしまう。大輔と知世は協力してその大事件を解決しようと奔走する。
また、猫になれたなら
秋長 豊
ファンタジー
この町では、猫が石に変えられる。それは全て、石男と呼ばれる邪物の仕業だった。石男を滅ぼすため、猫の神様”にゃんこ様”は人間を猫に憑依させ、猫戦士として戦わせていた。そんなさなか、高校2年生の空雄(そらお)は白猫に憑依されてしまう。猫戦士の体は24時間でリセットされるため、事実上死ねない体となった。「人間に戻りたければ石男を殺せ」それが、にゃんこ様が告げた言葉だった。人間に戻ることを強く願った空雄は、黒猫の戦士流太や他猫戦士たちとともに石男を滅ぼすために拳を握る――
果たして空雄たちは無事、人間に戻ることができるのか……!?
本格猫パンチバトル×ちょっぴり切ないファンタジー作品!!(少し恋愛あり!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる