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なんだかんだ、仲良くなります。
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「ほう、夢穂がねぇ、それはそれは」
つまり、空間の歪み云々ではなく、夢穂のことを気にしているだけなのではと業華は察したが、あえてそれ以上は言わなかった。
するとまさしくそれを証明するかのように、影雪があぐらをかいた足を揺らし、瞳を右往左往させ始めた。
「……夢穂なら本殿にいますよ」
影雪は驚いたように耳と尻尾を伸ばした。
「お前は心も読めるのか?」
「読まなくてもあなたの場合は仕草や行動に出ますので」
この寺社の主として、住職と神主どちらの責務もこなす業華は、一日の終わりに必ずこの大観音の御前で瞑想をする。
そして夢穂は――。
「夢穂は深夜零時、新しい一日が始まるその時に必ず眠りの神にご祈祷しています。そうしなければ、この世から眠りが消え生き物はみな息絶えてしまいますからね」
業華の真剣な眼差しに、影雪は空気が張り詰めるのを感じた。
しばしの沈黙の後、業華は場を和ませるように普段通り柔らかく微笑んだ。
「あなたなら夢穂のご祈祷を見届けられるかもしれませんね」
「どういう意味だ?」
「行ってみればわかりますよ。ここを出て渡り廊下を抜ければ夢穂の部屋があるでしょう? あの建物の一番奥ですよ。あなたなら鼻が利くので近くまで行けば迷子にはならないでしょう」
「わかった、行ってみる」
影雪は腰を上げると、踵を返し襖に手をかけた。
そして何かを思い出したように、業華を振り返った。
「詳しいことは知らんが、お前は化け物ではないと思うぞ」
そう言い残し、影雪は銀河色の尻尾を揺らしながら部屋を後にした。
「……まったく、そういうところですよ」
勝手気ままなくせに、どうにも嫌いになれないと。
業華は少し寂しそうに、しかしどこか救われたような喜びのにじんだ瞳をしていた。
つまり、空間の歪み云々ではなく、夢穂のことを気にしているだけなのではと業華は察したが、あえてそれ以上は言わなかった。
するとまさしくそれを証明するかのように、影雪があぐらをかいた足を揺らし、瞳を右往左往させ始めた。
「……夢穂なら本殿にいますよ」
影雪は驚いたように耳と尻尾を伸ばした。
「お前は心も読めるのか?」
「読まなくてもあなたの場合は仕草や行動に出ますので」
この寺社の主として、住職と神主どちらの責務もこなす業華は、一日の終わりに必ずこの大観音の御前で瞑想をする。
そして夢穂は――。
「夢穂は深夜零時、新しい一日が始まるその時に必ず眠りの神にご祈祷しています。そうしなければ、この世から眠りが消え生き物はみな息絶えてしまいますからね」
業華の真剣な眼差しに、影雪は空気が張り詰めるのを感じた。
しばしの沈黙の後、業華は場を和ませるように普段通り柔らかく微笑んだ。
「あなたなら夢穂のご祈祷を見届けられるかもしれませんね」
「どういう意味だ?」
「行ってみればわかりますよ。ここを出て渡り廊下を抜ければ夢穂の部屋があるでしょう? あの建物の一番奥ですよ。あなたなら鼻が利くので近くまで行けば迷子にはならないでしょう」
「わかった、行ってみる」
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そして何かを思い出したように、業華を振り返った。
「詳しいことは知らんが、お前は化け物ではないと思うぞ」
そう言い残し、影雪は銀河色の尻尾を揺らしながら部屋を後にした。
「……まったく、そういうところですよ」
勝手気ままなくせに、どうにも嫌いになれないと。
業華は少し寂しそうに、しかしどこか救われたような喜びのにじんだ瞳をしていた。
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