眠りの巫女と野良狐

なんだかんだ、仲良くなります。

18

「人間の寿命はせいぜい百年ほどではないのか？　それも老けもせずにずっとそのままの見た目でいるのは……謎だと前から少し気になっていた。お前は一体何者だ？」

　影雪の言葉に業華は目を細めると、わずかに口角を上げた。
　
「神か仏か、あるいは化け物か、誰にどう呼ばれようと興味はありませんね。ただ、肉体を超越した存在……とだけお伝えしておきます」

　影雪はますますわからないといった感じで姿勢を低くし、業華を見る。

「なんだそれは」
「詳しく話したところであなたの頭では理解に及ばないでしょう、残月ざんげつならいざ知らず」

　業華の口から出た名前に、影雪は不満そうに顔を顰める。
　その様子を認めた業華は、あきれたようにため息をついた。

「まったく、まだ仲良くできていないのですか。あなたもいつまでも放浪人のようにさまよっているわけにはいかないでしょうに。長きに渡り遣い人をしている残月のことです。あなたがこちらに来ていることも、薄々勘づいているのではありませんか」
「……知らん、どうでもいい」

　自分のことになるとたちまち不機嫌になる影雪は、聞き分けのない子供のようだった。

「そんなことよりも、空間の歪みとやらは大丈夫なのか？」
「道となっている鳥居は確認してきましたが、特に変わった様子はありませんでした。……まあ、心当たりはありますので」

　業華は最後は自分にだけ聞かせるように、小さな声で言った。
　しかし聴覚の優れた影雪は、それを受け取めていた。
　とはいえ、その意味を聞いたところでまたはぐらかされるに違いないと思った影雪は、結局ぼんやり業華を眺めるだけだった。

「しかしあなたが空間の歪みを気にしているとは意外でしたね、何事にも無関心だと思っていましたので」
「……夢穂が、気にしていたから」

　少し気まずそうに視線を逸らしながら口にする影雪に、業華は鳩が豆鉄砲でも食らったかのようにきょとんとしていた。