眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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なんだかんだ、仲良くなります。

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「……いや、特には。ただなんとなく眠れない日が多かった。俺だけではなく他の奴らもそう言っていた」
「それって、影雪の……あやかしの世界の眠りが乱れてるってこと?」
「よくわからんが、全体的に空気が暗いというか……イライラしている奴らも多くなった気がするな」

 夢穂は口元に手をやり、思考を巡らせた。
 眠りの安定は命あるものすべての健やかな心身を作る。そして生き物の健康は世界の安泰へと繋がる。
 裏を返せば、眠りが不安定になると世界を破滅に導きかねないということだ。
 
「もしかして、それと空間にゆがみが生じていることが関係してるんじゃ」
「そうなのか? 単に眠れないだけで?」

 夢穂はこの影雪の何気ない一言が非常に頭にきた。怒りでわななき、恨めしそうに影雪を睨みつけた。
 
「今眠りなんかって思ったでしょ!? 眠れないくらいで世界がどうこうなるなんて大袈裟だって! 眠りが足りないとつまらないことで喧嘩したり仕事も手につかなかったり社会がちゃんと回らなくなるんだからね! ひどくなれば正常な判断だってできなくなるんだから、不眠を甘く見ないで!」

 鬼の形相で詰め寄り捲し立てる夢穂に、影雪は肩を縮めたじろいだ。

「もう、みんな恋愛成就だの商売繁盛だの、そっちの方ばかりに興味を持って眠りのことなんておざなりなんだから」

 ふんっと影雪から顔を背け、大股開きでずんずん進んで行く夢穂。
 確かに眠りはあるのが当たり前で、普段は意識もしない地味な話かもしれない。
 しかし夢穂はそれがいかに大切かわかった上で、自分の役割に誇りを持っている。
 だから眠りを軽視されるような発言にはいい気がしないのだ。
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