6 / 175
はじめまして、野良狐です。
5
しおりを挟む
「しかしこちら……人の食事など口にしたことがないでしょう? 腹を壊しても知りませんよ」
割烹着を脱いで法衣だけになった業華は、すでに正座していた夢穂と対面する形で腰を下ろした。
それから夢穂と業華は、命に感謝を示すように目を閉じて手を合わせた。
「……ねえお兄ちゃん、あやかしって普段何を食べてるの?」
「気になるなら本人に聞いてみればいいですよ、影雪は大丈夫です、悪いあやかしではありませんので」
業華を通してあやかしの生態を聞こうとした夢穂だったが、軽く受け流され口をへの字に曲げた。
ちらりと視線を横にずらすと、よだれを垂らさんばかりの勢いで食事を食い入るように見る影雪がいる。開いた口からは獣らしく尖った牙が覗いている。
黙って真顔でいれば美形なのに。だからこそ残念だと夢穂は思った。
「……えぇと、えい、せつ……は、いつも何を食べてるの?」
問いかけると影雪は急に冷静な表情になり、夢穂を見た。
ぴこぴこ動く銀色の耳と尻尾はなんとも愛嬌があるが、やはりその顔は腹が立つほど綺麗に整っている。
「肉と魚と、野菜だ」
「あれ、そうなの? なら私たちと変わらないのね、お兄ちゃんは肉と魚は食べないけど」
「これはなんだ?」
影雪が指差したのは、自分の前に用意された先ほどの煮込み料理だ。
「こんな匂いは初めてだ」
「そっか、調味料とかがないのかな? 野菜と肉しか入ってないからたぶん食べられそう」
ね。と夢穂が言い終わる前に、お椀に思いきり顔面をつけた影雪が熱さに悶絶した。
食べ方を知らないのに気持ちが先走って口をつけてしまったらしい。
「ちょっと、大丈夫!?」
「……あつい」
「当たり前でしょ、ほら水で冷やして、ちゃんと使える手があるんだからお椀を持って」
「ふうふうしてから箸で食べるのよ」と教える夢穂だが、そもそも箸の使い方がわからないので困り果てた。
「じゃあとりあえずおにぎりだけ食べる?」
あきれたように息をつきながら海苔がついた三角おにぎりを手にする。
それを渡そうとした瞬間、影雪は夢穂の指ごとおにぎりにかぶりついた。
割烹着を脱いで法衣だけになった業華は、すでに正座していた夢穂と対面する形で腰を下ろした。
それから夢穂と業華は、命に感謝を示すように目を閉じて手を合わせた。
「……ねえお兄ちゃん、あやかしって普段何を食べてるの?」
「気になるなら本人に聞いてみればいいですよ、影雪は大丈夫です、悪いあやかしではありませんので」
業華を通してあやかしの生態を聞こうとした夢穂だったが、軽く受け流され口をへの字に曲げた。
ちらりと視線を横にずらすと、よだれを垂らさんばかりの勢いで食事を食い入るように見る影雪がいる。開いた口からは獣らしく尖った牙が覗いている。
黙って真顔でいれば美形なのに。だからこそ残念だと夢穂は思った。
「……えぇと、えい、せつ……は、いつも何を食べてるの?」
問いかけると影雪は急に冷静な表情になり、夢穂を見た。
ぴこぴこ動く銀色の耳と尻尾はなんとも愛嬌があるが、やはりその顔は腹が立つほど綺麗に整っている。
「肉と魚と、野菜だ」
「あれ、そうなの? なら私たちと変わらないのね、お兄ちゃんは肉と魚は食べないけど」
「これはなんだ?」
影雪が指差したのは、自分の前に用意された先ほどの煮込み料理だ。
「こんな匂いは初めてだ」
「そっか、調味料とかがないのかな? 野菜と肉しか入ってないからたぶん食べられそう」
ね。と夢穂が言い終わる前に、お椀に思いきり顔面をつけた影雪が熱さに悶絶した。
食べ方を知らないのに気持ちが先走って口をつけてしまったらしい。
「ちょっと、大丈夫!?」
「……あつい」
「当たり前でしょ、ほら水で冷やして、ちゃんと使える手があるんだからお椀を持って」
「ふうふうしてから箸で食べるのよ」と教える夢穂だが、そもそも箸の使い方がわからないので困り果てた。
「じゃあとりあえずおにぎりだけ食べる?」
あきれたように息をつきながら海苔がついた三角おにぎりを手にする。
それを渡そうとした瞬間、影雪は夢穂の指ごとおにぎりにかぶりついた。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる
gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
『後宮薬師は名を持たない』
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
ことりの古民家ごはん 小さな島のはじっこでお店をはじめました
如月つばさ
ライト文芸
旧題:ことりの台所
※第7回ライト文芸大賞・奨励賞
都会に佇む弁当屋で働くことり。家庭環境が原因で、人付き合いが苦手な彼女はある理由から、母の住む島に引っ越した。コバルトブルーの海に浮かぶ自然豊かな地――そこでことりは縁あって古民家を改修し、ごはん屋さんを開くことに。お店の名は『ことりの台所』。青い鳥の看板が目印の、ほっと息をつける家のような場所。そんな理想を叶えようと、ことりは迷いながら進む。父との苦い記憶、母の葛藤、ことりの思い。これは美味しいごはんがそっと背中を押す、温かい再生の物語。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる