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はじめまして、野良狐です。
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業華に促され、布団をたたみ押し入れにしまうと、夢穂は浴衣の寝巻きから紺色のセーラー服に着替え、姿見の前で胸元にある臙脂色のスカーフを整えた。
鉄と深緑が混同したような色でできた厳粛な趣の神社は、並んだ寺院と自然の風景に馴染んでいる。
夢穂の部屋がある神社と寺院は隣接し、渡り廊下のような短い橋で繋がっており、そこを抜けるとすぐに広い居間が見える。
他にもいくつか和室があるが、この敷地内に暮らしているのは夢穂と業華だけだ。
何人か勤めている僧侶や巫女はいるが、住み込みではないので決まった時間にしかいない。
そもそもそんなに数は不要だ。
秘境という言葉がしっくり来るような、渓谷を抜けた森林の中に佇むこじんまりとした建物。
癒枕寺神社は千年以上前から変わらず、今日も俗世から切り離されたような、清廉で荘厳な立ち姿を守っていた。
じめじめした梅雨を忘れる七月中頃、澄んだ空気に混じりひぐらしの鳴き声がする。
そういえば業華に迎えに来てもらった時もこんな季節だった、だからあんな夢を見たのだろうか、と夢穂は思った。
味噌やしょうゆ出汁のいい匂いがする。
里芋やじゃがいも、にんじんやごぼうに、豚肉や鶏肉、小麦粉で作った平たい団子などを好きなだけ入れてぐつぐつ煮込んだもの。
九州で広く食されている郷土料理だ。
業華は最後の仕上げに味見をすると、納得したように火を止め、工芸品である焦茶色の焼き物のお椀によそった。
業華はこの国の伝統を誇りに思っている。
長きに渡り見守ってきたので、自然と愛着が湧いた、とも言える。
琉球畳の上に並べられた一人用の食事台。
会話をしやすいようにと、夢穂と業華は向かい合う形で、その間の端、お誕生日席のような場所にとりあえず影雪の食事台も置いた。
嗅いだことのない美味しそうな匂いに、あぐらをかいて座った影雪はそわそわして話どころではなかった。
「影雪も食べますか?」
業華の誘いに、影雪は待ってましたと言わんばかりに頭を縦に振った。
鉄と深緑が混同したような色でできた厳粛な趣の神社は、並んだ寺院と自然の風景に馴染んでいる。
夢穂の部屋がある神社と寺院は隣接し、渡り廊下のような短い橋で繋がっており、そこを抜けるとすぐに広い居間が見える。
他にもいくつか和室があるが、この敷地内に暮らしているのは夢穂と業華だけだ。
何人か勤めている僧侶や巫女はいるが、住み込みではないので決まった時間にしかいない。
そもそもそんなに数は不要だ。
秘境という言葉がしっくり来るような、渓谷を抜けた森林の中に佇むこじんまりとした建物。
癒枕寺神社は千年以上前から変わらず、今日も俗世から切り離されたような、清廉で荘厳な立ち姿を守っていた。
じめじめした梅雨を忘れる七月中頃、澄んだ空気に混じりひぐらしの鳴き声がする。
そういえば業華に迎えに来てもらった時もこんな季節だった、だからあんな夢を見たのだろうか、と夢穂は思った。
味噌やしょうゆ出汁のいい匂いがする。
里芋やじゃがいも、にんじんやごぼうに、豚肉や鶏肉、小麦粉で作った平たい団子などを好きなだけ入れてぐつぐつ煮込んだもの。
九州で広く食されている郷土料理だ。
業華は最後の仕上げに味見をすると、納得したように火を止め、工芸品である焦茶色の焼き物のお椀によそった。
業華はこの国の伝統を誇りに思っている。
長きに渡り見守ってきたので、自然と愛着が湧いた、とも言える。
琉球畳の上に並べられた一人用の食事台。
会話をしやすいようにと、夢穂と業華は向かい合う形で、その間の端、お誕生日席のような場所にとりあえず影雪の食事台も置いた。
嗅いだことのない美味しそうな匂いに、あぐらをかいて座った影雪はそわそわして話どころではなかった。
「影雪も食べますか?」
業華の誘いに、影雪は待ってましたと言わんばかりに頭を縦に振った。
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