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はじめまして、野良狐です。
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例えるならば、田舎の祖父母の家に似た香り。
誰でも一度は嗅いだことがあるような、どこか落ち着くような、懐かしい香りがほのかにたつ空間。
広々とした和室に敷かれた清潔なシーツの上には、薄手のかけ布団にくるまれ眠っている少女がいた。
襖から漏れる日差しに瞼を刺激され、身をよじるように寝返りをうった彼女は、やがて小さなあくびをした。
涙目をこじ開けるように手の甲で擦りながら、上体を起こす。
「……懐かしい夢、見ちゃった」
独り言をつぶやきながら四角い照明がぶら下がった天井に向け、ん、と伸びをする。
胸にかかる艶やかな黒髪の寝癖をそのままに、少女は現在の時刻を確認しようと背後を振り返った。
すると握り拳大の丸い目覚まし時計を認める前に、何かが視界をかすめた気がした。
訝しげに眉間に皺を寄せながら、ゆっくりと先ほどの動きを逆再生する。
そしてそれは一定のところで、ぴたりと静止した。
布団とシーツしかないはずの彼女の傍らには、あらぬものが横たわっていた。
白と黒が絶妙に溶け合ったような銀の髪と、それと同じ色味の長いまつげを伏せた雪のような肌をした何か。
その何かは少女の方を向き腕を組みながら、すやすやと規則正しい呼吸をしているようだ。
襖から漏れ出す控えめな朝日でさえ煌めきに変えてしまう、その髪をしばしぼんやり眺めたのち、少女は思った。
知らない何かが隣に寝ている。
一組の布団の中に一緒に入っている。
さらにそれの変わった服装から覗く胸元は、明らかに平らだ。
それが意味することを理解した少女に残された道は、叫ぶしかなかった。
「きゃああーー!」
世にも珍しい寺院と神社が一緒になった癒枕寺神社に、森をも驚かせる声が響き渡った。
眠りの巫女、那霧夢穂の今朝の目覚めは穏やか……というわけにはいかなかったようだ。
誰でも一度は嗅いだことがあるような、どこか落ち着くような、懐かしい香りがほのかにたつ空間。
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涙目をこじ開けるように手の甲で擦りながら、上体を起こす。
「……懐かしい夢、見ちゃった」
独り言をつぶやきながら四角い照明がぶら下がった天井に向け、ん、と伸びをする。
胸にかかる艶やかな黒髪の寝癖をそのままに、少女は現在の時刻を確認しようと背後を振り返った。
すると握り拳大の丸い目覚まし時計を認める前に、何かが視界をかすめた気がした。
訝しげに眉間に皺を寄せながら、ゆっくりと先ほどの動きを逆再生する。
そしてそれは一定のところで、ぴたりと静止した。
布団とシーツしかないはずの彼女の傍らには、あらぬものが横たわっていた。
白と黒が絶妙に溶け合ったような銀の髪と、それと同じ色味の長いまつげを伏せた雪のような肌をした何か。
その何かは少女の方を向き腕を組みながら、すやすやと規則正しい呼吸をしているようだ。
襖から漏れ出す控えめな朝日でさえ煌めきに変えてしまう、その髪をしばしぼんやり眺めたのち、少女は思った。
知らない何かが隣に寝ている。
一組の布団の中に一緒に入っている。
さらにそれの変わった服装から覗く胸元は、明らかに平らだ。
それが意味することを理解した少女に残された道は、叫ぶしかなかった。
「きゃああーー!」
世にも珍しい寺院と神社が一緒になった癒枕寺神社に、森をも驚かせる声が響き渡った。
眠りの巫女、那霧夢穂の今朝の目覚めは穏やか……というわけにはいかなかったようだ。
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