眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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プロローグ

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 共鳴し合うひぐらしの鳴き声が昼下がりの町を染める。
 自然が育み生み出した音色は、思わず目を閉じて聞き入りたくなるほど美しい。
 
 その声に紛れ、大きな鈴が揺れる音がする。
 無数の黄金色こがねいろの鈴には短刀のようながついており、それを握った巫女たちは無心に前を向き歩幅を合わせ進んでいた。
 その行列の先頭には、黒い法衣に橙色の袈裟けさをたすきがけにした僧侶がいる。

 神楽鈴が止まったのは、短い草の生え揃った土手道の片隅だった。
 ぽつんと寂しげに建つ小さな四角い施設。
 年季を感じさせる黄ばみを帯びた白い室内に、一同は入っていく。
 迷いのない歩みは、明確な目的地を知っているからだろう。
 その証拠に、僧侶は足を止めた。

 年端の行かない子供たちが戯れる中、一人静かに背中を丸め座っている幼女を見つけた。
 ぬいぐるみや車、音が鳴るおもちゃたちで散らかった動物柄のマットの上で、幼女はらくがき帳にクレヨンを走らせていた。
 そこには幼いながら、懸命に描いたある建物と人物の顔があった。
 僧侶は目線を合わせるように膝を折ると、彼女の肩を優しく叩いた。

 振り返った彼女はつぶらな瞳を大きくすると、らくがき帳と今目の前にいる人物とを忙しなく見比べた。
 右目を斜めから囲むような花火に似た真紅の紋様。それが共通していた。

「お迎えに上がりましたよ、眠りの巫女」

 にこりと微笑みながら差し出された手。
 幼女は驚きながらも、迷いなくそれを取った。
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