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36.『彼ら』のその後
しおりを挟む皇帝が黙ってしまったので、アリスは次第に焦り始める。
(何か話をした方がよいかしら。何か、陛下が興味がありそうな事を)
本心では『呼び出しておいてだんまりはやめてほしい』と言いたいところだが、さすがに皇帝相手に面と向かっては言えない。
会話の糸口を必死で探すアリスだったが、
「・・・・・・これは、告げるべきか迷っていたのだが」
と、皇帝がようやく話を切り出す。
「そなたの元婚約者の事についてだ」
「・・・・・・・・・・・・ジョナサン様について、ですか?」
心底愛想を尽かしていた上に、帝国に来てから色々ありすぎて、元婚約者の名前が出るまで時間がかかってしまった。
アリスにとっては、今やその程度の相手である。
「ああ。あの者は廃嫡となり、西の王家直轄地へ追放となった」
「まあ!」
あれだけの騒ぎを起こしたのだから、国王がなんらかの処分を下すとは思っていたが、追放は意外だった。
国王の情なのか王籍は剥奪されなかったようだが、西の直轄地といえば、廃坑が残るだけの寂れた街ではないか。
「そなたの出国が確認されると、すぐに追放となった。・・・・・・が、乗っていた馬車が何者かの襲撃に遭い行方不明になったと報告がきている」
皇帝が付け加えた情報に、アリスは再び驚く。
「襲撃?金品目当てでしょうか。それとも、ジョナサン様を狙って?」
「おそらく、後者だろうな。王国に潜らせている者達によると、その翌日、北の街の宿屋で似た青年の目撃情報があったらしい。同行者がいたそうだ」
その同行者が馬車を襲わせジョナサンを攫ったのだろう。生かして連れているのは、目的があるのだろうが、現段階ではわからない。
「隠蔽でもしようとしたのか、王国側が報告を遅らせてな。こちらに連絡があったのが三日前だった」
その時には、ジョナサンが北の街で目撃されてから五日以上経っている。もしかすると、グランディエ帝国に入っているかもしれない。
「同行者の目的はわからんが、ジョナサンはそなたを憎んでいるはず。しばらくは、そなたの護衛を増やそうと思う」
話のついでに、アリスは通貨偽造の真犯人の処遇も聞かされる。主犯のヒューイは終身刑、共謀してアリスを陥れようとしたアンジェリカは魔石の採掘場にて十年間労働を科せられる。
真犯人の大体の予想がついていたアリスは、名前を聞いても驚かなかったが、二人が辿るであろう末路を思うと哀れになった。
(ヒューイ殿は『魔法士の墓場』に行くのね)
『魔法士の墓場』というのは、レノワール王国で罪を犯した魔法士が送られる魔石の研究所。そこでは人工的に魔石が作られている。
実用に程遠い石に魔力を注ぎ込むのだが、使える魔石にするには膨大な魔力が必要で、繰り返すうちに、魔法士側の魔力が枯渇してしまう。
当然ながら、進んでやりたがる者がいないので、近年は罪を犯した魔法士達にそれをやらせているのだ。
食事は出るものの、限界まで魔力を奪われ、回復すると再び魔力を注がねばならない。そして、魔力が無くなってしまうと、待っているのは魔石の採掘場での労働。
魔物も現れる劣悪な環境で働かされ、元魔法士達は己の罪を後悔しながら死んでゆくのだ。
あまりに酷い実情で世間には伏せられているが、アリスは魔法省長官から話を聞いていた。
(罪を犯さなければ、魔法士として大成したかもしれないのに馬鹿な人)
かつての学友だが、アリスにはもう関係の無い事だ。
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