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『一緒なら大丈夫』(SIDE 泰莉)
しおりを挟む「どんな映画?いつ公開するの?」
次から次へ質問を口にする雫さんが、可愛いと思った。
無条件に自分への興味を示してくれる存在が、いつもそばにいること。
当たり前のように思えるけれど、その当たり前を手に入れるのはとても難しい。
「雫さん、」
俺を見つめる彼の目が信頼と愛情に溢れていて、自然と優しい気持ちになれる。
「一緒に暮らさねぇ?」
自分が口にした言葉の意味を追って理解するなんてことが、この世にはあるらしい。
「え・・あ・・俺、何言って・・・」
目を見開いたまま固まった雫さんの顔を見て、自分が紡いだ言葉の重大さを思い知る。
軽々しく口にして良いことじゃなかった。
「悪い、、」
一緒に暮らそうと弥弦さんに言われた日のことを思い出す。
あまりに嬉しくて涙が出たあの日のことが、もうずっと遠い昔のことのように感じた。
「俺も・・・泰莉君と一緒に暮らしたい・・です。」
雫さんの顔が真っ赤に染まっていて、みるみるうちに瞳が潤む。
俺はまるでプロポーズでもしたような気持ちになった。
俺と雫さんはお互い失恋したばかりの傷心同士で心が共鳴しまくっているけれど、友人の域を出たことはない。
年上の彼を簡単に誘ってしまって良いものだろうか。教師という職業柄、俳優の俺と2人で暮らすことに支障がないだろうか、と今更色々な考えが浮かんでくる。
「泰莉君さえ良かったら・・俺と一緒に暮らしてください。お願いします。」
俺の逡巡を見てとったのか、今度は彼の方から正式な申し込みの言葉をくれた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
緊張と安堵が絶妙なバランスで、心を満たす。
雫さんの畏まった態度に、ピンと背筋が伸びた。
どんな問題が起きたとしても、この人と一緒なら大丈夫。
そう素直に思えることが一番重要なのだと、今の俺には痛いほどわかっていた。
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