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『愛が冷める日』
しおりを挟む「桜雅君、律さんが夜食にピザ焼いてくれるんだけど、一緒に食べない?」
23時。金曜の夜ということで学生組も社会人組も、それぞれ夜更かしを楽しんでいる。
部屋で仕事をしている桜雅に声をかけるため、扉をノックした私はいつになく緊張していた。
「あ~いいわ。俺はパス。」
桜雅は部屋の扉を少しだけ開けて私を見ると、それだけ言ってすぐに閉める。
冷たい視線、そっけない態度。
ーー完全に怒っている。
先日、私と彼は初めての夫婦喧嘩を経験したのだ。
♢♢♢
煌大の幼馴染、志方 凌と偶然再会してモデルを頼まれたあの日・・・
「あんた誰?俺の連れに何か用?」
買い出しを終えて私の元へ戻ってきた桜雅は、志方を睨みつけドスの効いた声で迫った。
「桜雅君、この前話した煌大君の幼馴染の志方さんです。」
「あ?あ~・・悪い。すんません。知らない男に声かけられたのかと思って。」
「こっちこそ勘違いさせてすまねぇな。偶然会ったんで、嬉しくてつい話し込んじまって。」
(嬉しくて・・・?私と偶然会えて嬉しい・・・って、志方さんそんなふうに思ってくれてたの・・・?!♡)
ただの社交辞令でさえ、相手がイケメンとあれば嬉しくて舞い上がってしまう。
私は本当にどうしようもない女だ。
私を守ろうとする桜雅の逞しさと、予想外の嬉しい言葉をくれた志方・・両方にときめいてしまった。
考えてみれば、100対0で私が悪い。
夫の前で、夫以外の男性の言葉にときめくなんて。
「あの男・・さっきの志方ってやつ、好みのタイプ?」
「え?」
帰りの車の中、桜雅の鋭いツッコミに返す言葉が見つからず、私は数秒沈黙してしまった。
「そ・・・そんなんじゃないよ。この前道に迷ってた時助けてもらったってだけで、」
「俺にはお前が、尻尾振って喜んでるように見えたけど?」
「え・・?」
突然の「お前」呼びにいつもならときめくところだけれど、声のトーンが明らかに違う。
驚いて桜雅を見ると、彼は今まで私に見せたことのない冷たい目をしていた。
「お前、嘘つくの下手過ぎ。変な男に絡まれてんのかと思って、心配したけど意味なかったな。」
「嘘なんてついてないよ・・好みのタイプなんて、ないし・・」
彼の威圧的な物言いに怯んで、しどろもどろになる。
「言い訳とか聞きたくねぇわ。そういうのすげえ冷める。」
♢♢♢
回想を終え、私は深いため息を吐き出した。
「冷める」という言葉の威力に打ちのめされ、何も言い返すことができず今日に至る。
(桜雅君、どうしたら許してくれるんだろ・・・もう私には本当に冷めちゃったのかなぁ・・・)
いつも優しく私の味方でいてくれた桜雅を怒らせてしまったことに、どう対処して良いのかわからず私は途方に暮れていた。
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