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『妊活中止』
しおりを挟む「妊活を・・・辞めたい・・・・?」
いつものようにベッドで愛し合った後、夫の雫が漏らした言葉に耳を疑う。
「妊娠出産は、もう少し後でもいいのかなって。」
私との子どもが欲しいと懇願していた彼の言葉とは思えなかった。
どうして急に考えを変えたのかと、答えを求めるように彼を見る。
「・・・ピアニストとして、本格的に挑戦してみようと思うんだ。」
誕生日に聞かせてくれた彼のピアノの音色を思い出す。
美しく繊細な音が身体に溶け込んで、自然と涙が溢れる。彼は天才だと思った。
「生まれてくる子どもに、父親として・・仕事している姿を見せたい。ピアニストとして人の心を癒せるように、また頑張ってみたいんだ。」
出産と仕事。
どちらかを諦めなければいけないという思考は、間違いだと思う。
雫はまだ若い。しばらくは仕事に専念して、それから妊活でも遅くはないだろう。
本心でそう思っているのに、出所のわからない不安がじわじわと胸に満ちていく。
「繭との子どもが欲しくないとか、繭より仕事を優先するとか、そういうことじゃないよ?」
雫は私の胸騒ぎを見透かしたように、優しくフォローしてくれた。
「うん。わかってます。私は一番そばで、雫さんの応援しますね。」
嘘のない言葉のはずなのに、違和感が拭えない。
物分かりの良い妻を装うようで、胸が苦しかった。
♢♢♢
「妊活をやめるって?」
「やめるっていうか、一時中断、っていうのかな。」
「それで浮かない顔してるのか。」
律といると、隠し事ができない。
優しく穏やかで包容力のある彼といると、心の内を全て曝け出してしまいたくなる。
二人きりのリビングで、おいでと優しく腕を広げた彼に身を預けた。
「雫さんの決断は応援したいし、出産が今じゃなくても良いって気持ちも理解できるのに・・・どうして不安になるのかな。」
自分の気持ちがわからない。
私のことを一番に考えて欲しいという、子どもじみた感情があるのだろうか。
「繭との子どもが欲しいっていうのは、一番わかりやすい愛情表現だからな。」
「延期するだけだし、そんなことで不安になるなんて、私って子どもですよね。」
律は微笑みながら、私の頭を優しく撫でた。
「そういうところも含めて可愛いと思うし、愛おしいと思う。こうやって頼ってくれるのも、夫として男としてかなり嬉しいことだって、気付いてるか?」
律のスイッチが入ったのがわかる。
普段より低く甘ったるい彼の声に、ドクンと鼓動が跳ね上がった。
「他の男のことで悩んでいるっていうのは、少し妬けるな。」
キスをくれるのかと期待したら、寸前で動きを止める。
唇が触れるか触れないかの距離で、彼は甘く囁いた。
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