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『夫の家出』
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夫の比奈多が、家に帰って来なくなった。
友人の家にしばらく泊まると一言残して出掛けたきり、早くも一ヶ月が過ぎようとしている。
さすがにここまで長く不在が続くと、もう戻って来ないのではと心配になってきた。
「まぁ比奈多だし、大丈夫でしょ。どうせ帰るの面倒くさい~とかそんな理由に決まってる。」
「お友達のお家に猫ちゃんがいるって、比奈多が言ってた~。比奈多は猫が好きだから、帰りたくなくなったのかなぁ。」
一緒に迎えに行こうかと声をかけてくれたのは、愛と晴日の仲良し理数系コンビ。
天才数学者である比奈多と、仲が良い2人だ。
毒舌のしっかり者と、ほんわり天然癒し系コンビの会話を聞いて、不安な気持ちを紛らわす。
比奈多が戻らなくなって一週間過ぎた頃から、離婚を申し出られたらどうしようという不安が心に芽生えた。
彼は子どもはいらないと断言していたし、夫婦のコミュニケーションをあまりとらないタイプだ。
「やぁ、こんにちは。君が比奈多君の奥さんかな?」
立派なお屋敷の大きな扉を開けて出てきたのは、まあるいメガネをかけた奇抜な風体の男性だった。
ド派手な青色の髪に、全員の視線が集まる。
じっと私を見つめる彼は、異世界から突然現れたような浮世離れした雰囲気を纏っていた。
左右の長さが違うアシンメトリーなヘアスタイルは、これ以外の髪型が想像できないほど彼によく似合っている。
彼が何歳なのか見た目からはよくわからない。
ざっくりと大きな目で編まれたゆるいニットを上に羽織り、興味津々で私たちを見つめていた。
「は・・はじめまして。比奈多の妻の繭と申します。」
「はじめまして。君たちは・・愛君と晴日君かな?」
理数コンビをじっと見つめていた彼は、名前を言い当てる。
「すごーい!なんでわかったの?」
「あんたもしかして・・・源川スバル?」
「私を知っているとは、実に光栄だね。」
癖のある喋り方が、見た目の印象とばっちり合っている。
彼は演技がかった大袈裟な仕草で、私たちをお屋敷の中へ招き入れてくれた。
愛の説明によると彼は有名な生物学者で、男性妊娠が可能になったのは彼が開発した技術のおかげらしい。
理数コンビと天才生物学者はすっかり意気投合し、盛り上がっている。
「あれ?なんでみんながいるの?」
騒がしい声が聞こえたのか大広間に顔を出した比奈多に、愛が食ってかかった。
「なんでじゃないだろ。お前がいつまでも帰って来ないから迎えにきたんだよ。今日お前の当て日だろ、わかってんの?」
「比奈多さん、お家に帰ろう?」
子どもが欲しくない彼にとって、当て日はそれほど重要な日ではないのかもしれない。
それでも私は、家に帰って来て欲しかった。
「・・・やだ。俺、ここでスバルと暮らしたい。」
顔色ひとつ変えず比奈多が言い放った一言に、その場にいた全員が困惑して黙り込んだ。
友人の家にしばらく泊まると一言残して出掛けたきり、早くも一ヶ月が過ぎようとしている。
さすがにここまで長く不在が続くと、もう戻って来ないのではと心配になってきた。
「まぁ比奈多だし、大丈夫でしょ。どうせ帰るの面倒くさい~とかそんな理由に決まってる。」
「お友達のお家に猫ちゃんがいるって、比奈多が言ってた~。比奈多は猫が好きだから、帰りたくなくなったのかなぁ。」
一緒に迎えに行こうかと声をかけてくれたのは、愛と晴日の仲良し理数系コンビ。
天才数学者である比奈多と、仲が良い2人だ。
毒舌のしっかり者と、ほんわり天然癒し系コンビの会話を聞いて、不安な気持ちを紛らわす。
比奈多が戻らなくなって一週間過ぎた頃から、離婚を申し出られたらどうしようという不安が心に芽生えた。
彼は子どもはいらないと断言していたし、夫婦のコミュニケーションをあまりとらないタイプだ。
「やぁ、こんにちは。君が比奈多君の奥さんかな?」
立派なお屋敷の大きな扉を開けて出てきたのは、まあるいメガネをかけた奇抜な風体の男性だった。
ド派手な青色の髪に、全員の視線が集まる。
じっと私を見つめる彼は、異世界から突然現れたような浮世離れした雰囲気を纏っていた。
左右の長さが違うアシンメトリーなヘアスタイルは、これ以外の髪型が想像できないほど彼によく似合っている。
彼が何歳なのか見た目からはよくわからない。
ざっくりと大きな目で編まれたゆるいニットを上に羽織り、興味津々で私たちを見つめていた。
「は・・はじめまして。比奈多の妻の繭と申します。」
「はじめまして。君たちは・・愛君と晴日君かな?」
理数コンビをじっと見つめていた彼は、名前を言い当てる。
「すごーい!なんでわかったの?」
「あんたもしかして・・・源川スバル?」
「私を知っているとは、実に光栄だね。」
癖のある喋り方が、見た目の印象とばっちり合っている。
彼は演技がかった大袈裟な仕草で、私たちをお屋敷の中へ招き入れてくれた。
愛の説明によると彼は有名な生物学者で、男性妊娠が可能になったのは彼が開発した技術のおかげらしい。
理数コンビと天才生物学者はすっかり意気投合し、盛り上がっている。
「あれ?なんでみんながいるの?」
騒がしい声が聞こえたのか大広間に顔を出した比奈多に、愛が食ってかかった。
「なんでじゃないだろ。お前がいつまでも帰って来ないから迎えにきたんだよ。今日お前の当て日だろ、わかってんの?」
「比奈多さん、お家に帰ろう?」
子どもが欲しくない彼にとって、当て日はそれほど重要な日ではないのかもしれない。
それでも私は、家に帰って来て欲しかった。
「・・・やだ。俺、ここでスバルと暮らしたい。」
顔色ひとつ変えず比奈多が言い放った一言に、その場にいた全員が困惑して黙り込んだ。
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