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『心の壁』(SIDE 有明 総司)

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~~~~登場人物~~~~

♡有明 総司(ありあけ そうし) 26歳
サラサラのマッシュルームヘア。色素の薄い茶髪。クォーター。
童顔でいつもニコニコしている。朗らかで柔らかい雰囲気の医師。
研修医として、音川医師の下で経験を積む。

♡音川 直佳(おとかわ なおか) 33歳 
185センチの長身、細身。食べても太れない体質。実は大食い。食べることが大好き。
真ん中で髪を分けているが、髪質がストレートでサラサラのため、すぐに落ちてきて目にかかるのがストレス。
飄々としていて適当な冗談ばかり言うが、内科医としては優秀。

~~~~~~~~~~~~~



『心の壁』(SIDE 有明 総司)


音川先生と出会った瞬間、僕はなぜか懐かしいような気持ちになった。
ヒョロリとした長身、痩せ型、サラサラの髪が目にかかるのを面倒くさそうに払いのける仕草。
気さくで毒気が感じられず面倒見が良い。医者には珍しいタイプの男性だ。

彼が僕担当の指導医だと聞いて、ラッキーだと思った。



「なぁ、医療はチーム戦だ。内科医も外科医も、どの科でもな。」

「はい。」

「お前はもう少し、人に頼ることを覚えないとな。」

研修医生活は、表向きにはとても順調に進んでいった。

どちらかと言うと鈍感なタイプの音川先生が、僕の感情に対してはとても敏感に反応するので困ってしまう。周りとはとてもうまくやっていたのに、僕が誰にも頼るつもりがないということを、彼はすぐに見抜いてしまった。

「困ってることがあるんだろ?言ってみろ。」

嫌な思い出が頭をよぎる。僕は厄介者だから、周りを不快にさせてはいけない。
そんな強迫観念が、身体を縛り付ける。
僕は、人と深く関わることを避けていた。

「・・何もありません。」

医者という職業は、多くの人生と密接に関わらなければならない。
目標を達成し研修医になったけれど、医者になる覚悟が全然足りていない事実に毎日打ちのめされるばかりだった。
知識はどんどん増えて、出来ることが増えていくのに、心は全然追いつかない。


両親が事故で亡くなり引き取られた先で、たらい回しにされた幼少期。
誰にも頼らず一人で生きていくという決意は、まるで呪いのように人生を生き辛いものへ変えていた。


「こんな遅くまで残ってたのか?」

夜遅くロッカールームでばったり会った音川先生は、一瞬で僕の変化に気付き顔色を変える。

「お疲れ様です。」

「・・・なぁ。お前、熱でもあるんじゃないか?」

この人のこういうところが心底嫌でたまらなかった。
心のうちを笑顔で必死に隠して生きてきたのに。彼はそれをあっさり無かったことにしてしまう。

どんなに拒絶しても、彼はズカズカと僕の内側に触れてくる。
強引に彼の車に押し込められ、気づくと自分の部屋に帰宅していた。



「点滴するぞ。横になれ。」

「自分で出来ます。」

「お前さぁ、ほんっとに強情だな。そんなに俺に頼るのが嫌か?」

「嫌です・・・。」

苦しい。
苦しくてたまらなかった。


高熱のせいじゃない。今までどんなに辛い時もたった一人で乗り越えてきたのに。
中途半端に優しくしないで欲しい。

「総司、」

低くて優しい彼の声が僕を呼ぶ。目の奥がじわっと熱くなって、視界が歪んだ。

「嫌なんです・・お願いだから・・これ以上俺に・・踏み込んでこないでください。」

素の自分が出て、背筋がスッと冷たくなる。

「嫌だね。俺はお前の指導医だ。指導するのは医療技術だけじゃない。」

彼は僕の言葉を無視して、怒ったような顔でこちらを見た。
ここまで拒絶してもなお、彼は僕のそばから離れようとしなかった。


「・・っ・・・」

こんなに熱があって、こんなに苦しいのに・・・どうして僕はつまらない意地を張っているんだろう。
何もかも全てが馬鹿馬鹿しくなる。涙が次から次に溢れてきて頬を伝った。

「苦しいか。」

「大丈夫・・・っ、」

「俺の前では素直になれよ。」

「・・・っ、苦しい・・・・」

「俺がついてる。安心しろ。すぐに良くなる。」

大きくて温かい彼の手のひら。
頭を優しく撫でられて、僕はいつの間にか深い眠りに落ちていた。


♢♢♢

朝の光で目を覚ますと、先生が僕の手を握ったまま眠っていて驚く。
だいぶ熱が下がったのかクリアになった思考が、昨夜のあれこれを詳細にフラッシュバックさせた。


「なお先輩」


親しみを込めて、彼の名前を口にする。
後輩にはそう呼ばれたいと、いつか彼が冗談で口にした言葉。

「有明、起きたのか・・・」

人に甘えるなんて初めてで、どうやったら良いのか見当も付かない。
それでも一歩踏み出したいと、胸が疼いてたまらなかった。

「治るまで、そばに・・・いてください。」

「言われなくてもそうするよ。」

先生がそっけない口調で苦笑したのを、僕はきっと一生忘れることができない。


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