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第一部 完 後編 カレーうどんは、罪の味 ~ケータリングで食べるカレーうどん~

鬼《シスター》

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「なによ。ワタシは売上をもらいに来ただけじゃない」

 高そうなドレスに身を包んだ、いけ好かない女性でした。
 キセルをくわえている口元は、ひと目で整形しているとわかります。

「お前、自分が何を言っているのかわかっているのか!?」
「あなたの売上は、婚約者であるワタシのもの。そういう契約のはずよ」

 女性は、モーリッツさんと口論になっています。

 この人が、モーリッツさんの元交際相手ですね。どこまでも図々しい。

 彼女の取り巻きなのか、オーガ族のコワモテ数名と、弁護士らしきエルフの男性を連れていました。

「正統な契約書だ。なんてヤロウだ! こんな細工までしやがって!」

 ミュラーさんも、悔しがります。

「金なんか払うもんか! お前なんかに店を好きにさせない!」
「随分と反抗的になったわね、あなた。じゃあいいわ。お前たち、やってしまいな」

 オークたちが棍棒を持って、馬車に向かいます。

「ハシオさん、ミュラーさん、みんなを避難させて!」

 エマの対応は迅速でした。声をかけられた二人も、すぐに対処します。

「おおおおお!」

 棍棒が、フードカーを破壊しようとしました。

「ホワタッ!」

 わたしは片手で、オーガの棍棒を止めます。

 別のオーガが、フードカーを潰そうとしました。
 そっちの棍棒は、足で蹴り飛ばしてやりました。

「ひいいい!」

 歪にへしゃげた棍棒が、女性の足元にドスンと落ちます。

 モーリッツさんでさえ、青ざめていました。力自慢のドワーフ族なのに。

 棍棒を完全に止められながらも、オーガは力づくでわたしを振りほどこうとしています。

「な、なにをしているんだい!? こんな小娘、さっさと殴り飛ばしな!」

 女性の罵声を浴びて、オーガが棍棒を捨てました。パンチをわたしに繰り出します。

「ホワタァ!」

 その拳さえ、わたしは片手で受け止めました。

 またしても、オーガの動きが止まります。

 拳を受けながら、わたしはオーガの関節を動けなくしたのでした。

「退きなさい。金属製の重い棒を止めるような人間に、ただのオーガが勝てるわけがないでしょう」

 わたしに押され、オーガが膝を付きます。

「ぐっ、おのれ」と、オーガがこめかみに青筋を立てました。

「……退きなさい」

 強気だったオーガも、さらに怒気をはらむとおとなしくなります。

「まだ自分の足で歩いていたいなら、下がりなさい」

 泣きながら、オーガは走り去りました。

 食べ物の恨みは、恐ろしいのです。
 ノーダメージで済むなら、それでよしとしましょう。
 雇われただけのようですから。

「残るは、あなただけです」
「え、何を言ってるの? ワタシには弁護士が……あ!?」

 女性の側にいた弁護士は、とっくに逃げてしまっています。
 当然でしょう。
 亜人でも特に腕自慢であるオーガさえ歯が立たないシスターが相手ですからね。

「裁きを受ける覚悟は、できてらっしゃいますね?」

 女性の正面に立ち、わたしは女性に凄みます。

「そこまで」

 わたしの後ろから、聞き慣れた声が聞こえました。シスター・エンシェントです。

 エンシェントは、女性にとある書類を突きつけました。

「しめて、これだけの料金をお支払い願います」

 女性に突きつけられた金額は、法外な数字です。

「バカな! そんな大金、払う義務が発生するとでも思っているの!?」
「あなたの土地でもあるんですよ。ご自分でお話したのをお忘れですか?」

 モーリッツさんの借金は、交際相手である彼女も背負うことになっています。
 彼女は先程も言いました。「彼の稼ぎは、婚約者である自分の稼ぎでもある」と。

「じゃあ、婚約破棄よ!」
「構いません。ですと、屋台の売上はあなたには入りません。あなたに求められるのは、崖の購入代金だけとなります。よろしいですね?」
「あ、あ」
「あなたに拒否権はございません。払えないようでしたら、私が金貸しを手引しましょう」

 ようやく女性も、理解したようです。
 どれだけ恐ろしい相手を敵に回したか。
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