神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―

椎名 富比路

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第一部 完 後編 カレーうどんは、罪の味 ~ケータリングで食べるカレーうどん~

カレーうどんは、罪の味

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「いらっしゃーい。カレーうどんの行列はここっすよー」

 ハシオさんが馬車の行列を整理します。

 カレーうどんは、大繁盛しました。
 みんな器を持ちながら、立ち食いで麺をズルズルとすすっています。

 最初は、物珍しさから誰も手を付けませんでした。
 試しにシスター・エマに食べさせてみたところ、大繁盛ですよ。

 こんな行列は、今まで見たことがありません。
 カップ麺ですら、ここまでにはなりませんでした。
 カレーと麺のベストマッチは、ここに極まった感じですね。

「クリスの姐さん、カレーうどん、大盛況っす。やりましたね」
「いえいえ。あれはモーリッツさんご兄弟の味が評価されたんですよ」

 彼ら兄弟が為せる技です。

 わたしも、いただきましょうかね。
 試食では、そんなに食べられませんでしたから。

「いただきます。ちゅるちゅる……っ!?」

 これは、最高に罪深うまい!

 芸術的なうまさです。
 それなのにジャンクっぽい自由度の高さもありますね。

「辛味がうどんダシの風味を殺すと思っていた当時の自分」を、今は殴りたい気分です。むしろ全世界に広めるべきですね。

 うどんがルーに絡まって、独特の触感とコクをもたらします。
 噛めば噛むほど、カレーの味わいが深まってきます。
 スープを飲むと、また舌がカレーに戻ってくると。
 おダシの甘みと、カレーの辛味がほどよく絡み合って、新しい風味が生まれています。

 なにより、あったまります。身体がポカポカしてきました。

 運動やトレーニングでかく汗とは、また別物ですね。

 スパイスの作用なんでしょうけれど、心地よい汗です。


 でね、ここでおにぎりですよ!
 塩をほんの少しだけまぶしたおにぎりが、おまけでつくのです。
 カレーの味を邪魔しない程度の味付けです。
 梅干しや焼き鮭なんて入っていません。

 そんな普通の塩むすびが、なんともうれしいじゃないですか。

「おいしいわね、カレーうどん」

 うっとりした顔で、エマはカレーうどんを勢いよくすすります。

「んっ、んっ、んんーっ」

 エマは、東洋の文化にあまり詳しくありません。
 すすり方があまり上手ではないので、途中で引っかかります。

 それが、ものすごくおいしそうに見えました。

 殿方が、その音に反応します。生ツバまで飲んでいました。

「あっ、オツユがたれちゃった」

 カレーが衣服に、また谷間へと飛びます。
「そうはならんやろ」と、お思いでしょう。
 が、これがシスター・エマなのです。

 うん。業深デカい。

 これは、いけません。
 国から取り締まりが入ってしまうかもしれない味ですね。
 それだけのポテンシャルを秘めていますよ。

 天然のサキュバス、それがエマという人間なのです。

「おお、豪勢だな!」
「やっているわね」

 ミュラーさんと、ヘルトさんが来ました。

「トレーニングの成果を、見させてもらった。チビども、がんばっているじゃないか。オレの娘も、もう少ししたらここに連れてくる予定だ」
「魔法使いも、基礎的な体力が必要だもの。ダンジョンに潜るし、戦闘時の精神統一にも、運動は欠かせないわ」

 おのおのが、訓練場の感想を述べます。カレーうどんも堪能しました。

「うめえ! こんな世界があったなんて! 酒ねえか?」
「おいしい。この調味料をかけると、もっと素敵な味になるわ」

 わたしが敬遠した『七味』という薬味を、ヘルトさんはドバドバとうどんに振りまきました。
 こっちの目も痛くなってきます。

「お二人がいるということは、とうとう」
「ああ。居所は掴んだ」

 あとは捕まえるだけなのだが、強力な助っ人に頼んであるという。

「まあ、でかい顔をしても取り押さえられるくらいには強いわ。あの二人は」

 なんとなく、察しはつきました。
 あの人たちでしょうね。
 まさに、カレーとうどんのタッグ。


「お前ら、何しに来た!?」

 唐突に、モーリッツさんの罵声が響き渡りました。
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