上 下
79 / 81
最終章 さらば枯れ専令嬢! 恋の行方は?

ミレイア、最後の戦い?

しおりを挟む
 母はミレイアにそっくりで、ミレイアも年を取れば、こういう顔になるだろう。 
 ミレイアにとっては、不本意極まりないことなのだが。

「エルヴィシウス夫人、ご無沙汰しております」

 男爵が、母に腰を折る。

「ご丁寧にコイヴマキ卿。今までミレイアの世話をしてくださって、感謝するざます。ご面倒をかけましたざます」
「面倒をかけたのは、こちらです。ミレイアお嬢さんは、よくしてくれました」
「聞けば、娘はメイドの真似事までやっていたと聞いたざます」
「真似事ではありません。彼女はボクのために、死力を尽くしてくださいましたよ」

 母は男爵に一礼した。

「ですが、少々娘とお話させていただきたいざまず。どうか、無礼をお許しくださいざます」
「ええ、どうぞ。積もる話もありましょうから」

 男爵は、引き下がる。

「お母様、どうしてここが?」
「あなたが殺してでも死なないのは、母が一番知っているざます。あなたを探して、ほうぼう訪ねてまいりましたざます。それも今日で終わりざます」

 ということは、この魔物だらけの世界を渡ってきたと?
 取り巻きも引き連れずに?

「魔物に襲われたりは? ここは現世と隔離されて、魔物を呼び寄せるという制約があるというのに」
「そんな魔物など、どこにおりましたざますか?」
「お一人で?」
「私用ですから」

 やはり、彼女は自分の母親だ。
 世界が闇に包まれていようと、拳だけで乗り切ってしまう。

「父の言いつけですか?」
「いいえ。父は若気の至りだろうと、あなたの行為を気に留めておりませんでしたざます」

 アメスが、クーゴンの袖を引っ張る。

「ねえねえクーゴンさん、あたし、『ざます』って口調で話す人って始めてみたかも」
「ああ。化石みたいなヤロウだな。強いのは認めるが」

 人懐っこいアメスから見ても、母はあまり印象がよくないらしい。
 クーゴンも、同意とも取れる意見が。

「ピィ。いま来たんだけど、事情を教えて。三行で」

 シオン博士が、ボロ車に乗ってやってきた。ピィに現状を尋ねる。

「イヒヒ。世界は救われたでヤンス。トゥーリの旦那がミレイアお嬢といい感じになったでヤンス。しかしお嬢のおっかさんが言いがかりをつけに来たんでヤンスよ。イヒヒ。面白くなってきたでヤンス」

 ピィが、簡潔に状況を説明した。
「把握」と、シオン博士も理解したらしい。

「わたくしは、帰りませんわ」

 ミレイアが、母に背を向ける。

「ニコ様と結婚なさいざます、ミレイア。それが、あなたのためざます」
「それは、国のためでしょう!? そこにわたくしの意思はない」
「あなたの感情など、関係ないざます。これは世界の意思ざます。ダダをこねないで一緒になりなさいざます」

 なぜこうも、母は機械的に何事も処理しようとするのか……。

「あなたは、よく知りもしなかった父と結ばれて、幸せだったのですか?」
「幸せに決まっているざます。あなたが生まれましたざますから」

 初めて、母が人間らしい言葉を口にした。

「お母様……」

 それでも、自分は自由を手にしたい。

 親がキライなわけじゃなかった。
 古い習慣、風習がキライなだけだ。
 母は、その古くさい伝統を何よりも重んじ、大事であるとずっと説いてきた。
 ミレイアにとって、それは苦痛でしかない。

 男爵と一緒になれないならば……。

 拳を握りしめて、ミレイアが母と向き合う。

「どうしても帰らないと言ったら?」
「力づくでも」

 母も聖女の家系だ。やる気である。

「ちょっと、どうしようクーゴンさん! 親子どうしで戦うつもりだよ! 二人を止めてよ!」

 アメスが、クーゴンをけしかけようとした。

「こうなっちまった以上、思う存分やり合うしかねえ。オレたちドラゴン族だって、そうだった。結局は、気が済むまでぶつかるしかねえのさ!」

 クーゴンは、妹と衝突した過去がある。
 ミレイアが介入して事なきを得たが、そうでなかったら、集落を滅ぼすほどには激突していたかもしれない。

「あのオバサン、やな感じね。あいつには悪いけれど」
「言っていることがなまじ正論なだけに、決してそれが幸せにするとは限らないと思い知らされますねぇ」

 エリザ姫とイルマが、母の印象を語った。


「いつ以来でしょうか、あなたと戦うのは?」
「しょっちゅうだったざます」

 ミレイアと、母の視線がぶつかり合う。
 たしかに、母とはケンカばかりしていた記憶しかない。
 当時は、これも修行の一環と捉えていた。
 今思うと、拳は自分たちなりのコミュニケーションツールだったのだろう。

「あなたも父と同じ脳筋の血が流れているざましょ? なんでも力で解決できなさると思っているざます」

 母だって、結局は脳筋ではないか。
 お互い、どうしようもなく不器用で。
 だから不器用なりに、答えを出す。

「今こそ、天の摂理が筋肉を超えるとお教えして差し上げるざます」
「やれるものなら!」


 両者が拳を振り上げた、その時だった。


「待っていただきたい」

 母とミレイアの間に、男爵が割って入った。

「コイヴマキ男爵。すぐにこの出来損ないを連れて帰りますので」

 男爵は、首を振る。
 
「結構です。ボクは彼女と結婚します」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,761pt お気に入り:5,739

【完結】そう、番だったら別れなさい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,834pt お気に入り:420

お隣さんはヤのつくご職業

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,844

君は僕の道標、貴方は俺の美しい蝶。

BL / 完結 24h.ポイント:376pt お気に入り:803

婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:1,536

悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:2,081

あなたに私の夫を差し上げます  略奪のち溺愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:25,425pt お気に入り:136

処理中です...