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第四話 暗黒城攻略リアル・タイム・アタック はーじまーりまーすわ

長く、苦しい戦いでしたわ。 ―暗黒城 二周目?―

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 ピンク色の肉壁が、脈打つ。空気が生温かい。まるで胃袋の中にいるようだ。

「逃さねえ。今のお前は、オレっちの体内にいるも同じなんだよ!」
「なるほど、この城そのものが、ルドラというわけですね?」

「そうだ。テメエだけは、オレっちの力で倒す」
 ルドラが、ミレイアを睨みつける。
「大したやつだよ、魔女。お前は。忌々しいくらいに」

「底意地の悪さは、そこいらの魔族とは引けを取りませんので」

「だが、あんな程度でオレっちがくたばるとでも思っていたのかよ! さあさ、はじまるぜえ、二週目がなあ!」

 冗談ではない。こちらはさっさと帰るに限る。

「放っておきましょう」
 ミレイアは、冷淡に背を向けた。

「おいおいおいおいおい! 待てやコラ! これから真の恐怖が始まるってのによお!」
 もう一体のルドラが、ミレイアの前に。

「侯爵の驚異は消え去っても、オレっちを倒さねば世界は瘴気に侵食される!」
 またもう一体が。

「水や畑は腐り、鳥や家畜の死に絶えるんだ! 死の大地が広がっていくんだぜぇ!」
 高らかと、ルドラが状況を解説する。

「まだわからないのですか? 真の恐怖が始まるのは、あなた方の方です」
「なんだと⁉ ぐおおお!」

 巨大な爪が、窓を突き破った。

「何が起きてやがる⁉」

 黄金の手のひらが、王の間どころか城そのものを崩壊しつつある。

「な、何事……てめえは⁉」

 窓の向こうにいた人物に、すべてのルドラが怯えだす。

「ディザスターだと⁉」

 現れたのは、ディザスターの上半身のみだった。
 手のひらだけでも、巨大な暗黒城を包み込める。こ
 れが、本来持つディザスターの全長だ。

「よう、魔女の嬢ちゃん。また会ったな」
 魔神ディザスターの白目が、暗黒城の窓を覗き込む。

「ごきげんよう。ディザスター」
 腰を抜かすルドラを通り過ぎて、ミレイアは窓に向かって一礼した。

「ソニエールにて腐食魔法の準備は進んでいると、あなたもご存知だったはずですが」

 ルドラにタイムリミットがあったように、ミレイアにリミットがあったのである。

 腐食魔法『ディザスター召喚』の。

「ソニエールの王様には、『王子がご帰還後、ワタクシの身を気にせず放て』と話を通しておりました。それが、発動しただけのこと」

「バカな⁉ てめえも巻き添えになるんだぞ!」

「御冗談を。これの召喚を手助けしたのは、ワタクシですので」

 腐食魔法で萎えるほど、ヤワな鍛え方をしていない。また、自分とディザスターは―強敵《とも》だ。

「ではディザスターさん、ごきげんよう」
 ミレイアが暗黒城から飛び去った。

 帰り道は、煉獄を通れば済む。

 この城だって、煉獄を使って顕現していたのだから。

「おう。たっぷりとオレの腹の中でダンスさせてやるよ」
 刹那、ディザスターの巨大なアゴが城を丸呑みする。

「IGAAAAAAAAA!」
 断末魔の声を上げながら、ルドラはディザスターのアゴに喰いつぶされた。
 これから一生をかけて、ディザスターの腹の中で溶かされるだろう。


「あなたに二週目の人生など、送らせません」


 煉獄を通って、ソニエールに到着した。

「おかえりなさい、ミレイアさん。無事に逃げられたのですね?」

「いいえ。ちゃんと倒してきましたわ」

 腐食魔法を浴びせただけだが。
 城の魔道士全員より、ミレイアの魔力のほうが大きかっただけである。

「どうだったの、暗黒城は?」


「長く苦しい戦いでしたわ」


「どこがよ⁉ ぶっちぎりだったじゃない⁉」

 何を言うのか。男爵の顔を見ない時間は永遠とも思えた。

「一時間どころか、一五分ですべてを終わらせちゃいましたね」
 懐中時計を見ながら、イルマが呆れ顔になる。

 イルマの報告によると、ソニエール一帯にいた魔物から瘴気が消えたという。

「きっと、王子の剣が力を取り戻したことによって、魔物たちがおとなしくなったんじゃないかしら」

 これからは並の冒険者でも、狩りが可能になるだろうとのことだ。

「ではオーレリアン王子、ポーラ姫もお元気で。ただ、一つお願いが」
「はい。どうぞ」
「わたくし、これから直帰させていただきたいのですが」

 王子たちが、呆気にとられる。
「そんなお願いですか?」

 王子だけではない。
 国王や大臣も、ミレイアをねぎらってくれるつもりだったのだろう。城へ案内しようとしていた。

「重要なことなのです。こちらも、男爵様を待たせておりますゆえ」

 早く、男爵成分がほしい。
 城に戻って報酬を受け取るなら、後払いで結構だ。
 色々準備が必要だろうし。

「ならば、仕方ありませんね。承知しました。このままお帰りください」
「ありがとうございます、王子」

 ミレイアは、王子と二人きりにさせてもらう。

「お見事でした、オーレリアン王子。今後はご自身の力で、世界をお救いくださいませ」

 もう王子には、その力が備わっている。そのために鍛えたのだ。

「ご無事で、ありがとうミレイアさん……いえ、ミレイア・エルヴィシウス姫様」

 やはり、知っていたか。

「アニタさんは、ずっとあなたの武勇伝を語ってくださったので」

 あれだけヒントを与えたのだ。知られて当然だろう。

「王子。この件は、どうかご内密に」
「心得ております。では」

 オーレリアンなら、信頼できる。
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