上 下
32 / 81
第三話 汚え花火ですわ

汚え花火ですわ

しおりを挟む
「なんで、人間がこんなところに⁉ 人が手出しできないから、高所で撮影していたのに⁉」
 背中に羽の生えた男が取り乱す。
 まさか、こんなところまで迎撃が来ると思っていなかったのかだろう。

「撮影」と言っていたから、彼も背信者ハイシンシャか。

 金属でできた大型の翼を背負い、鷹のクチバシを模したマスクで顔を覆っていた。両足に搭載しているのは、大型のスラスターである。

 手に持った大筒は、ミレイアの持つ砲塔より遥かに大きい。ここから雷を撃っていたのは、この男で間違いないだろう。

「あなたが、この一帯を取り仕切っていると思い込んでいるゴミですね?」

「貴族に向かって、えらい言い方だな」
 グリフォン男が、眉間に青筋を立てた。

「御冗談を、仮装パーティにしか見えませんわ。貴族とはそんな格好をしなくても気品で相手を魅了するもの。ゲテモノ然としなければ目立たないものなど、貴族と呼ぶにふさわしくありません」

 ミレイアが徹底的に侮辱すると、グリフォン男が笑う。
「そんな口をきけるのも今の内だそ、メイド。ここまで来られたことだけは褒めてやる。だが、ボクと出会ったことを後悔するんだな!」

「悪いやつらは、みんなそう言うのです。そして気づくのです。魔族の力を持ってしても倒せない、圧倒的な存在に」

「どうかな? ボクは今まで、ボクたち低級貴族をバカにしてきた奴らを灰にしてきた。このランチャーで!」
 グリフォンが、銃口をミレイアに向ける。

「それが、あなたの動機ですか? 随分と非合理的な理由のような気がしますが」

 この男に指摘をしてきた人物たちは、有益な人材もいた。
 いや、彼より価値のある者たちばかりだったろう。
 この男の脳は、犬畜生より劣る。

「やりたいから、やる。何が悪い?」
「分別という言葉を知らないとは」

「いいか悪いかじゃないんだよ。ボクの命令を聞かないことが許せないの。なんでそれがわからないんだろう? みんなしてバカなんじゃないか?」

 コンプレックスがネジ曲がってしまったのか。魔族につけ込まれるわけだ。魔族の力も、不要なものを処分したかった手に入れたのだろう。欲しい物を手に入れたかったからではなく。

「そんな性格でしたら、優秀な配下も、次々と殺してきたのでしょう。いわゆるブラック上司ですわね」
「ボクをバカにするやつは、誰だろうと殺していいんだ。バカは生かしておく必要はない」
「バカなのは、あなたです。抹殺オシオキしてさしあげましょう」

「黙って聞いていたら、いい気になりやがって! てめえも雷撃の餌食になりやがれ!」

 銃身に、電力が集まってきた。

「どうぞ。そんな豆鉄砲、軽く受け止めて差し上げます」

 男が引き金を引く。

 一瞬、視界が明るくなった。

 しかし、ミレイアは手をかざしただけで、雷撃を弾き飛ばす。

「な……魔王すら滅ぼす電撃なんだぞ……」

「こんな程度の攻撃で、ワタクシを殺せるとでも思ってらしたのですか?」

 自慢の雷撃をあっさり手で遮られ、男は困惑している。

 魔王「ごとき」を消し炭にするレベルの雷撃で、災厄のカタマリたるこの魔女を仕留めようなど、片腹痛い。

「なにか言い残すことは?」
 ミレイアは、ゆっくりと男に近づく。

 武器を構え、グリフォンは呆然としていた。 
「ボクはエリートなんだ! こんなところでくたばってたまるか!」

 どこまでも傲慢なバカだ。生かしておく必要はない。

 再装填するが、プスンと音を鳴らすだけで砲身は作動しない。短時間で使いすぎたのだ。

「では抹殺オシオキを――⁉」
 上空から、強力な魔力反応が迫ってくる。

 すかさず、ムチでグリフォンを縛り上げて、盾にした。

 瞬間、新手の蹴りが、グリフォンの背中にめり込む。グリフォンの背部ユニットが砕け散った。

 男を蹴ったのは、黒壇のヨロイに全身を包んだ屈強な大女だ。顔立ちは三〇代くらいか。

 カウンターで、ミレイアがハイキックを食らわせる。

 だが、相手もグリフォンで防いだ。

 グリフォンの顔に、ミレイアのつま先が突き刺さる。

「ぬうう、やる!」
「そちらも!」

 ミレイアは強敵に向けて、キックと拳を叩き込む。
 相手の攻撃はグリフォンの身体でガードする。

 相手も同じ戦法をとった。

 ハンマーのように振り下ろされる大ぶりの一発を、グリフォンの肉壁で防ぐ。
 同時に脇腹に突きを食らわせようとした。
 しかし、グリフォンの太ももに阻まれる。

 ならばと、みぞおちに膝蹴りを見舞う。

 カウンターで前蹴りが飛んできた。
 
 どちらもグリフォン肉壁によって相殺される。

 一瞬にしてそんな攻防が、三五九回も繰り広げられた。

 大女と対峙して戦闘になってから、わずか一〇秒の出来事だ。

 おかげで、すべての攻撃がグリフォンに当たる形となる。
 もはや、金属製のボディは原型をとどめていない。
 人間だったかすら判別不可能になっている。

「喰らえ!」
 大女の槍から、グリフォンより強力な雷撃が飛んできた。
「身の程を知りなさい!」

 負けじと、ミレイアも全砲門を開き、光芒を放射する。

 グリフォンに、両者の閃光がぶつかった。

 二つのエネルギー波が、夜空に爆発を起こす。

 金属のグリフォン装甲が弾け飛び、生身の魔族が黒焦げになって虚空に浮かんだ。

 雷撃を放った魔族は、無傷である。

「汚え花火ですわ」
 焦げ臭さに、ミレイアが鼻をつまむ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】俺様御曹司の子どもを極秘出産しました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:19,366pt お気に入り:272

神様のポイント稼ぎに利用された2

BL / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:331

私の未来を知るあなた

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:10,168pt お気に入り:614

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:276pt お気に入り:8,588

ちびっこ二人の異世界生活〜不思議なポッケで快適です!〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:44

獣人だらけの世界に若返り転移してしまった件

BL / 連載中 24h.ポイント:12,126pt お気に入り:2,342

ずっと、君しか好きじゃない

BL / 連載中 24h.ポイント:5,411pt お気に入り:1,038

処理中です...