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第三話 汚え花火ですわ

合法ロリ

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 街の規模は小さく、家もそれほど立派ではない。技術屋ばかりの街を思わせる。

 案内された銭湯には、まだ人の気配がない。博士が言うには、夕方から混みだすという。

「だいたい、この街の人は一日の終りに銭湯に浸かって、帰りに外食か、一杯引っ掛けて帰るよ」
 博士は言いながら、更衣室でオーバーオールを脱ぐ。

 生活感のない日々だ。まるっきり労働者ではないか。しかし、街の人々は納得している様子である。住むだけなら、税金が安くて便利だからだという。

「ワタシもこっちに移ってきたのは、税金が安いからだし。お互い干渉もしてこないから、楽だよ」

 しかし、最近この地を収めた貴族が、やたら重税をかけてきているらしい。

「その貴族が、怪しいと?」
「うん。ワタシはそう睨んでいるよ」

 話を聞きながら、ミレイアは博士の体つきに目を奪われている。

 それにしても、大きい。

 男爵様の世界では、彼女のような体つきを「ロリ巨乳」だか「トランジスタ・グラマー」だかと呼ばれるらしい。

「やっほーっ」
 かけ湯をして、博士は石鹸で身体をこすっただけで湯に浸かろうとする。
 お行儀は良くない。汚れは取れていたからいいものの。

「お待ちを。お背中をお流ししますわ」

「ほんとに? ありがと」
 背の低いイスに座り、シオン博士は背を向ける。

 タオルに石鹸をつけて、博士の背中を洗う。 

「失礼ですが、おいくつなのです?」
「ワタシ? 六九だよ」

 ミレイアの手が止まった。

 祖母より年上ではないか。
 それでこんなちっこいのか。
 合法ロリだな。

「っ⁉ お待ちを……ということは?」

 そうだ。博士は男爵と同い年ということに。

「お察しの通り、ワタシはあんたのご主人さまとタメだよ」

 背中を洗うことさえ忘れ、ミレイアはシオン博士の背中に手を置いたまま、フリーズしてしまった。

「失礼しました」
 我に返り、ミレイアは背中が流すことに専念する。

「やっぱ、そういう反応になっちゃうよね」
 博士が、苦笑いを浮かべた。

「トゥーリも信じなかったもん。ワタシはダメ歳だって」

「驚きました。ノームの身体的特徴を甘く見ておりましたわ」

 博士の体についた石鹸を、ミレイアは湯で流す。

「いいっていいって。慣れてるからね」
「ノーム族は、みなさんそんな感じなのでしょうか?」
「まあね」

 同じ小型の種族でも、ドワーフと違ってノームはグラマーな人が多いという。

「ていうかドワーフがツルペタすぎるんだよ。あのエリザ王女とかいうの、見たことない? ザ・絶壁だよね」

 唐突にドワーフ、というかエリザ姫へのディスりが始まる。

 それよりエリザ姫がドワーフだということを、人づてで知ることになるとは。
 どうりで強いわけだ。

 頭も洗い終えて、湯をかける。

「ありがとうね。今度は、ワタシが流してあげよう」
 ミレイアが自分の身体を洗おうとしたら、博士がタオルを取り上げた。

「いえ、そんな。使用人がご依頼主様に洗ってもらうわけには」
「ご依頼主様が洗いたいんだから、いいって」

「では」
 さすがに、ここで断るとよくなさそうだ。仕方なくミレイアは背を向ける。

「ふむふむ、なるほど」
「何が、なるほどと?」
「いやね。見た目からしてムチムチかなと思っていたけど、鍛えられているなって」

 インナーマッスルのことを言っているのだろう。

 最強の力を手に入れたミレイアといえど、日頃の鍛錬は怠らない。慢心は敵だ。舐めプで勝てるほど、魔族は甘くないだろう。

「ふむふむ。お肌スベスベだぁ。腰のクビレがすごいね。さすが若い子は違うな。足の長さも、石膏像みたいだ」

 博士の洗い方は、くすぐったい。なんというか、洗うこと以外が目的のようだ。全身を撫で回すかのような。
 
「ミレイア、ちょっと前を向いて。それと脚を広げてもらえるかな?」

 シオン博士が、とんでもないことを口にした。

 ピィが「変人だから気をつけろ」と言ったのは、これだったのか!

「あ、あとは自分でしますから、ごゆっくり」

 天才ノームの頼みと言えど、百合趣味に付き合う趣味はない。無理やりタオルを取り上げ、ミレイアは自分で身体を洗い出す。

「うーん。もうちょっと確認したかったんだけどな」

 何を確かめるというのか。

 ミレイアとの背中流しっこをあきらめ、シオン博士は湯に浸かる。

「はあ、やっぱり発明を終えた後は、お風呂だねぇ」

 背泳ぎの状態で、博士はつぶやいた。二つの島が、主張するかのように浮かんでいる。

「博士ほどの美貌をお持ちでしたなら、男爵様はさぞ、持て余したのではないでしょうか?」

 体を洗いながら尋ねると、シオン博士が湯船から立ち上がった。

「それがさぁ! あいつってばワタシの着替えに遭遇しても、顔色ひとつ変えないんだよ! ひどくない?」

 思考が、まるで年頃の乙女だ。歳は彼女のほうが上と聞いたが。

 夕飯の買い出しを終えて、いよいよシオン博士のラボへ。


「トゥーリから話は聞いているよ。腕利きのハンターなんだって?」
 瓶入りの酒を買って、シオン博士は聞いてきた。

「はい。男爵様はワタクシを信頼して、送り出してくださいました」
「そうか。じゃあ、願ったり叶ったりだ」
「具体的に、ワタクシはどうすれば?」


「やっつけてほしいヤツがいる」
 ハッキリとした、澄んだ声でシオン博士は語った。


「凧の作成も、その一環なんだよ。弟子の仇を討つために」


 シオン博士は、空を睨みつける。

 まるで、遥か空の向こうに敵がいるみたいに。
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