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第二話 あんたんトコのメイドでしょ⁉ はやくなんとかしなさいよ!

即落ち二コマ

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 数日後、またも屋敷のドアがノックされた。朝っぱらから。

『王立騎士団隊長のエリザベートよ! 約束の期限が過ぎたわ! ここを開けなさい!』

 玄関の壁は分厚い。なのに、この響きよう。相変わらず、エリザは声がデカかった。

「また、騎士団ですわ」

 来るとわかっていても、うっとうしい。

 かわいそうに、アメスが怯えていた。
 ことによっては、彼女は牢屋に入れられてしまう。

「大丈夫ですよ。ご安心を」
 ミレイアが、アメスの側につく。

「俺が行く。オマエさんだと角が立つ。話が進まなくなるからな」
「お願いします」
 ゴリラ同士なら、うまくなだめてくれるだろう。

「こんばんは、エリザお嬢様」
 紳士的態度で、クーゴンが応対した。

 こんな顔や声も出せるのか。

 エリザの様子がおかしい。

「ひゃ、ひゃい。こここ、こんばんは」

 妙にかしこまって、エリザは直立した。目がランランと輝いている。

「ようこそ、男爵の屋敷へ。お茶をお淹れしましょう」

「お願いします。ウヘヘ」
 気持ち悪い顔になりながら、エリザはソファーに着席した。

「お茶をお持ちしました」
「ありがとうございます。いい香り」

 クーゴンに振る舞われた紅茶をいただきながら、エリザはうっとりしている。

「モーニングティーですから、目の冴える葉を選びました。ご満足いただけましたか」
「はい! 目が覚めるほどの美味しさですわ!」

 イケメンモードのクーゴンに、エリザはすっかりメロメロのご様子だ。

 エリザはゴリラに任せ、ミレイアはイルマの方を接客する。
 男爵の朝食も作った。


「なんですの、あれは」
 虫を見るような目で、ミレイアはエリザの様子をうかがう。


「あれは、恋する乙女の目ですね」
 お供のイルマが、呆れたようにため息をつく。

「エリザたいちょーって、ちっこいでしょ? だから、筋肉質で大きな体型のイケメンに目がないんです」

 自分に足りない要素を持つ異性に、恋をするタイプらしい。

 たしかに、クーゴンはコワモテ系のイケメンだ。
 並のマッチョに比べて、顔が整っている方と言えなくもない。だが。


「理解できませんわ。こんなゴリマッチョの、どこがいいのか」


 ミレイアはゴリマッチョを好きになれない。
 厳格な父親を思い出すからである。

 強引なマッチョイズムで、娘の意見を尊重しない。
 強引にすべてを決めてきてしまう。結婚話がそうだ。
 なので、ゴリマッチョに対する慈悲の心はない。

「ですよねー。たいちょーには、ゆりの花園がお似合いですぅ」
 ニヘラ、と微笑みながら、イルマはミレイアとエリザを交互に見る。


「そ、そんなことより、連絡よ! あんた」
 我に返ったエリザが、ミレイアを指差す。

 やはり話題は、アメスの引き渡しだった。

「姫様、どうにか、なりませんか?」

「いくらクーゴン様のお願いでも、こればかりは……」
 目にハートを灯しながら、このメスゴリラは何を言っているのか。

 しかし、こちらだって準備している。


「ぬかりはありませんわ」
 ミレイアは、ピィに声をかけた。


「イヒヒ。ミレイア嬢。頼まれていた書類の整理、全てととのっているでヤンス」

 キアーラの罪を裏付ける書類を、エリザは受け取る。目を通しながら、わなわなと震えだす。

「これさえの証拠があれば、まっとうな理由で伯爵家を突き出すことができたのに」

 ピィによってキアーラの余罪が判明した。
 罪に問い、正当な理由で処刑もできたろう。

 しかし、なにもかも遅すぎる。

「でもいいの? 手柄はあたしになってるんだけど?」

 キアーラは、エリザが倒したことにしてもらった。
 上位種デーモンのことも伏せている。

「代わりに、膨大な額の報酬を用意するわよ?」

 申し訳ないと思ったのか、エリザは大金の入った袋を用意していた。
 金貨が数枚、口から溢れる。

「結構です。復興資金にでもお当てくださいませ」
「あなたが受け取ってもいい、って言っているのに」

「ワタクシには、自身が活躍するなんてどうでもいいですわ。男爵様さえいてくだされば」

 誰がキアーラを退治しようが、ミレイアには関係ない。
 それに、変に目立つと世界から怪しまれる。
 エリザの存在は、隠れ蓑としてはありがたかった。

「あんた、ホンットにワケわかんないわ」


 それより、アメスの今後だ。

 現在、保護処分となっている。
 ココ数日、特に変わった様子はない。
 家事の手伝いをしてもらっている程度だ。
 伯爵家に務めていたこともあり、手際もいい。

「旦那様、いかが致しましょう?」
「そうだね。では、こうしましょう。エリザベート姫、アメスの罪を、不問にしていただきたい」
 意外な提案に、エリザがキョトンとした。

「そんなんでよろしいので、男爵様?」
「アメスはウチで働いてもらいます。彼女は、貴族殺害に直接関係ない。大した罪には問われないはず」
「ええ。ですわね」

 エリザも、アメスが関わっていないことを知っている。
 そのために用意した書類だ。 

「あたしはいいのですよ。でも、騎士団が何ていうか……」
 エリザは、難色を示す。

「俺からもお願いしますよ、姫」

「喜んで」
 エリザは手のひらを返す。
 男爵が言っても首を縦に振らなかったのに。

 これが、即落ち二コマというヤツか。
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