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第二話 あんたんトコのメイドでしょ⁉ はやくなんとかしなさいよ!

悪役令嬢メイド VS 姫騎士

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「到着したでヤンスよ、お嬢」

 馬車で三〇分ほど向かった先に、街はあった。

 門前の小屋に馬車を停めて、二人は街に入る。

 街と言っても、市場が並んでいる程度だが。


「昔は、この地でも公開処刑なんてあったらしいでヤンス。今では考えられないでヤンスが」

 野菜を選びながら、ピィの話を聞く。

 領主であるトゥーリ男爵が統治してから、街に活気が戻ったらしい。

 平和な街に、そんな恐ろしいことがあったとは。

「今では至って何もないでヤンス。問題なんて……おや」

 ピィの向いた先に、騒ぎが起きていた。

 一人のチビっ子メイドが、こちらに走ってくる。
 少女はミレイアのスカートの影に隠れた。

「お願いします。匿って!」
 少女の手が震えている。

「待ちなさい!」
 赤い甲冑姿の女性が、辺りを見回していた。この少女を追いかけてきたようだ。
 少女より頭一個高い程度で、随分と背が低い。だが、騎士の出で立ちをしているくらいだから、相当の地位にいるだろう。
 見た目は子どもにしか見えないが。

「おまかせを。ピィ、お願いします」

 事情を察したミレイアは、少女を麻袋に入れて、ピィに担がせた。

「先に馬車で待ってるでヤンスよ」
 ピィが門へ向かう。

「あんた、ちょっといいかしら?」
 入れ替わりで、甲冑の女性がミレイアの前に。

 職質か。メイドだと、ひと目見てわからないわけでもあるまいて。

 赤い甲冑の少女は、下は透けたレースのミニスカート、一分丈のショートレギンス、白いニーソックスだ。

 上腕まで覆う長手袋も、ニーソックスに合わせている。

 肌を覆う密度が小さいように見えた。
 しかし見たトコロ、れっきとした魔導アイテムである。


 碧眼で金髪ツインテなんて、狙っているとしか思えない。

 チビ女は苦手だ。押しが強い母を思い出すから。


 少女が、胸部装甲に手を入れて、タグを取り出した。

「あたしはヴァルカマ王立騎士団の、エリサベート・ヴァルカマ隊長よ。こう見えて、第二王女なの」
 腰に手を当てて、エリザベートは偉そうに振る舞う。

 騎士団の証である紋章が、タグの裏に刻まれている。

「ヴァルカマ様。ああなるほど」
「知り合いだったかしら?」
「お名前だけは、存じ上げております」

 この地域を統べる王族か。
 生まれた大陸が違うため、まったく面識はないが。

 この地に来て、自分より地位の高い人物は初めて見たかも。

「見ない顔ね?」
「ヴェスタのミレイアと申します。以後お見知りおきを。ヴァルカマ卿」
「エリザでいいわ。みんなそう呼ぶから。で、メイドってどこに仕えているの?」

「トゥーリ男爵のメイドをつとめております。エリザ姫」
 ミレイアは、頭を下げる。

「ああ、あの変わり者の。いい趣味してるわね」
「と、言いますと」


「お盛んね、と言ったの」


 瞬時に、エリザベートを殴るリストに入れた。
 
 男爵は紳士である。
 まだ、男爵は手を出してらっしゃらない。
 いずれ手を出さえてみせるが。

「まあいいわ。あんたに聞きたいことがあるんだけど?」
「お貴族様に尋ねられることなど、ありませんが?」
「やけに反抗的じゃない」
 空のように青い瞳が、ミレイアを見据える。

 昔から、ミレイアは大の貴族嫌いだ。
 そうでなくても、偉そうにデカい態度を取るヤツはキライである。
 男爵様側仕えのゴリラとか。

 決して、自分が侯爵王女だからではない。
 相手を見下し、偉そうに振る舞う人物を好む人間なんて、この世にいるだろうか。

「メイドが公爵令嬢であるあたしにそんな態度を取って、タダで済むと思ってるの?」
「ワタクシは、姫のご期待に添えないと申し上げたまでですわ」

 いっそ正体をばらしてしまおうかと、考えがよぎった。
 だが、愛しの男爵様に迷惑をかけられない。
 押しとどまった。

「エリザたいちょー。ぜえぜえ」
 遅れてやってきたのは、ショートボブカットの巨乳魔術師である。
 ミレイアより背が高い。
 おとぎ話に出てきそうなほど可愛らしいエリザベートとは対照的に、胸元のあいたぴっちりセーターという、際どい衣装だ。
 深い切れ込みの入ったローブからは、肉感的な太ももが顕になる。

「パートナーの、イルマタル・アンケロです。騎士団の、副隊長です」

 体力がないのだろう。イルマタルは杖にもたれながらタグを出す。

「それで姫、お話とは?」
「そうよ! ここに、メイドの女の子が来なかった?」
 息を整えながら、エリザはミレイアに聞いてきた。

「メイドなら、ここにおりますが?」

「あんたのことじゃないわ。これくらい小さい」
 言いながら、エリザは右手を胸の位置まで持っていく。

「いいえ。そのメイドがなにか?」
「その子は、ガラヴァーニ伯爵のお屋敷に就いていたんだけど、脱走したの。何かを盗んでいったそうなんだけど」
「やけに遠くからいらしたのですね」

 遥か東の大国ではないか。

「で、あたしが伯爵に依頼されて探してるわけ。知らない?」
 ミレイアは首を振った。

「申し訳ありません、エリザ姫。存じ上げませんわ」
「ホントに? この辺りに出没したってネタは上がってるのよ?」
「トゥーリ男爵の名に誓って」

 空の色が、ミレイアの顔を覗き込んだ。

「あっそ。なにか隠してたら、タダじゃおかないわよ」
「かわいいエリザ姫にウソなどをついたら、バチが当たりますわ」
 フンと鼻を鳴らし、エリザは立ち去った。
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