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第1章 【始まりはいつも突然!】

第013話 【俺達のネーミングセンスは良くないな!】

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「よっしゃー! あはは! 予想以上に終わった!」

 もっと、時間がかかるものだと思ったが意外と自分も強くなっているように思える。思えるのでまだまだ弱いかも知れないが、今は目の前の勝利に喜ぼう。

「……まったく予想外の行動をする」
「にししっ! テンタクルス・フラワーが別の事に気にかけている間に奇襲をかけて一気に倒す作戦だ! 上手くいっただろ」
「……それもそうだな」
「メリメリ~~~!」
「ぐへっ!」

 すると、助かったメリボーが顔面に力強く抱きしめた。

「ちょっ! 見えなっ! おまっ! 顔に引っ付くな!」
「ふふふ……お前に助けられたから感謝しているんだ」
「さ、サイレン! 笑ってないで! この!」

 確かにもふもふしてるが目が使えない状況はマズいので引き剥がす。

「ったく……怪我は無いよな?」

 メリボーを触りまくるがどうやら怪我はしていないようだ。良かった。

「メリリリ!」

 メリボーはくすぐったそうに笑っているように聞こえる。むぅ、本当に可愛いな。

「大丈夫そうだな……それじゃ、もう襲われないようにな」

 そう言ってメリボーを放す。そもそもメリボーを助けたくて戦ったんじゃない。偶々、目的モンスターが襲っていたから奇襲で倒しただけだ。別に助けた訳じゃ無い。
 それに俺は旅に出る冒険者だ。モンスターを飼う余裕は無い筈だ。

「メリメリ!」
「ぐほっ!」

 すると、メリボーは俺に突進して抱き着いたまま離れない。驚きはしたが突進しても小さい子供が可愛らしく頭突きをしている程度なので実のところ、そこまで痛くは無い。

「ん?」
「……どうやら、そのメリボーはお前の事が気に入ったみたいだな」
「え? こいつにも家族とかいるだろ?」
「……基本メリボーはのんきでそういう事は気にしないモンスターだ」
「いやいや、俺達冒険者でこれから旅に出る予定だからペットとか飼う余裕は無い筈だよな!?」
「……メリボーの餌は何でもいいが植物を好むと聞く……餌代はそこまでかからないだろう……ブラッシングも怠らなければメリボーも文句は言わない……ついでに言うとメリボーを倒しても経験値も報酬金も少ない……レベル0がメリボーを倒しても1上げられない程には……」
「ああ……冒険者に狙われる可能性が低いのね」

 それにビックコッコみたいな特別報酬も無さそうだし、捕獲依頼でも無い限りわざわざ倒す理由は無いのか。

「それにしてもサイレン、やけにメリボーに肩を持つじゃないか」
「……そうか?」
「ははーん」
「……何だ?」
「サイレンって意外にもこういう可愛いモンスターが大好きなんだ~」
「なっ! そ、そういう訳じゃ無い!」
「おや、珍しい顔になってるよ~それに声も大きくなってるし」
「……だから、それは」
「ほい」
「……え?」
「いや、そんなに好きなら抱き着いてみれば? お前もいいよな?」
「メリ~」
「……」

 サイレンはそれ以上何も言わずにメリボーを恐る恐る触って抱き締めた。

「……ん……ふかふか」

 そして、メリボーを撫でるとくすりと笑った。

「……っ」

 そんなサイレンの顔にどきりとする。

「や、やっぱり好きじゃないか、ははっ」
「……練人は嫌か?」

 メリボーで顔を隠してサイレンはそう聞いてくる。

「あ、い、いや……別にいいんじゃないか?」
「メリー」

 サイレンが手を放すとメリボーが俺の頭に乗っかって来た。

「と言うよりも……練人もメリボーを助けたいと思ったから戦ったんだろ」
「そ、そういう訳じゃ無いよ。偶々テンタクルス・フラワーがいたから戦っただけで」
「……嘘が下手なんだな、キミは」

 さっきの仕返しなのかサイレンは何処かおかしそうにくすくすと笑う。何か調子が狂うな。

「まあ、メリボーも付いて来たがっているし反対する人が誰もいないのならいいか……メリボー」
「メリ?」
「来るか?」
「メリー!」

 どうやら、メリボーは人の言葉がわかるようだな。

「……あっ」
「……どうした?」
「ここは……メリボーが仲間になりたそうにこちらを見てるって言えば良かったのか?」
「……何を言ってるんだ、お前は」
「まあ、いいか……それじゃ、仲間になったのならこのメリボーにニックネームを付けないとな」
「案があるのか?」
「……メリボーで」
「そのまんま!?」
「冗談冗談」
「……本当か?」
「パッと思い浮かんだのが……メルメ」
「メルメ? 名前の由来は?」
「適当」
「……適当か?」
「そう。適当。それでサイレンは? 何か案ある?」
「いや……私にネーミングセンスは……」
「まあまあ! 恥ずかしがってないで言ってみなよ」
「……ワタゲ」
「あ~うん」

 見たまんまだな。そうか、サイレンのネーミングセンスはそういうものか。理解したわ。

「……何か言いたそうだな」
「いや、何も言ってないよ。俺もそこまでネーミングセンスに自信ある訳じゃないし……さてとメリボー、どっちかタッチしてくれ。それで決めよう」
「メリー?」

 メリボーはサイレンの方にタッチした。

「マジか」
「……では、メリボーをワタゲと呼ぶがいいよな?」
「まあ、ワタゲが自分で選んだからな」

 それならそこは自己責任と言う事だ。

「よろしくな、ワタゲ」
「メリ~!」

 俺がサムズアップをすると、ワタゲも短い手を上げた。

「メリっ!」

 ワタゲがびっくりしたような顔になって北方向を見るとサイクロプスがいた。ただし、昼寝から起きたばっかりなのか大きなあくびをしていた。

「……サイレン!」
「ああ!」

 まさかの隙だらけのモンスターを見てサイレンと意見が合ったようだ。
 俺はすぐにサイクロプスに向かって走り出した。

「【シャイニング・マジック】!」

 サイレンの得意な光魔法攻撃をサイクロプスに叩き込む。油断をしていたサイクロプスにそれを避ける事は出来ず悶えていた。その腹部には痛々しい傷跡が残っている。その部分を狙う。

「はああ!」

 サイクロプスの腹部に向けて剣で横一閃した。サイクロプスは何も出来ずにどすんと崩れ倒れた。

「勝った! 結構あっさり!」
「……当たり前だ」

 やっぱり、最初のサイレンの一撃が上手く効いたからだろうな。じゃないとさっきの一撃じゃサイクロプスは倒せない。

「てか、サイクロプスを倒したって事はギルドに報告すれば20000ゴメルゲット?」
「……そういう事になるな」
「ラッキー! それにさっきのでレベルが上がった!」
「……私もだ」

 これで俺のレベルが8でサイレンは10だ。

「それじゃ、そろそろ旅に出るとギルドのおっさんに伝えよう」
「……そうだな。このレベルではここのモンスターをたくさん倒さないと上がらないだろうしな」
「メリー……」

 ワタゲはそんな俺達に少し驚いたかのように見る。

「ふっ、サイレン強いだろ」
「……練人も中々様になってきたな……初めてサイクロプスと戦った時は怯えていたのにな」
「それは言うな」
「さっきの仕返しだ……」
「メリ!」

 ワタゲはそんな俺達にこれからもよろしくと言いたげに笑った顔を見せた。

「ん? おう、よろしくな」

 さて、このままここにいるとまた他のモンスターと遭遇しそうだしそろそろ帰るか。

「それじゃ、帰ろうぜ」
「ああ……」
「メリ!」
「……ついでに言うとワタゲをパーティーに入れるのならギルドに報告した上で仲間モンスター登録とか予防薬とかでゴメルを使う事になるぞ」
「え!? そうなの?」
「ああ……」
「大体どのくらい?」
「……4000ゴメルだな」
「うへ~今回の報酬の半分だな」
「……どうする? やっぱり、ワタゲはここに置いていくのか?」
「メリっ!?」

 ワタゲはびっくりしたように俺を見て、サイレンはニヤニヤと俺を見る。

「……まだ仕返しは続いてる?」
「……さあ? どうだろうな? ……私はどっちでもいいぞ」
「はあ……わかったよ。俺の小遣いから出しておくよ」
「メリ~!」
「わわっ! 顔に引っ付くな!」
「……ふふ」

 思わぬ出費だが、まあ、これから一緒に旅をするのなら必要経費かな。そう思う事にする。

「……案外サイレンって意地悪だな」
「……お互い様だ」

 そう言い合いながら俺達は村に帰った。
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