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第7章
第十五話 妙な組み合わせとババァ
しおりを挟む聞き覚えのあるその声に目を向けて見れば、人々が行き交う中から現れたのはヘクトだ。
そして、意外な事に覚えのある姿がもう一つ。
「こりゃまた妙な組み合わせだねぇ。もしかして相引きかい?」
「あまり笑えない冗談だよ」
ヘクトの隣で憮然とした表情で言葉を返すのはアイルであった。
不機嫌を全く返さないその態度に、さしものヘクトも悲しげに眉尻が下がる。
「そこまではっきりと否定されると、僕も傷つくんだけど」
「だったら何かにつけて口説こうとしないでくれるかな。こっちは仕事できているんだ」
「相変わらずだねぇあんたは。ほどほどにしないとまた痛い目を見るよ」
「ラウラリスちゃんも酷くない?」
女性二人に素気無くされて、ヘクトはがくりと肩を落とした。
もっとも、ヘクトの場合は己の軟派がそっけなくされる事には慣れているようだ。すぐにいつも調子を取り戻すと、今度はラウラリスの隣にいる少年を見て目を瞬かせる。
「ラウラリスちゃんのセリフじゃないけど、妙な組み合わせはこちらの台詞でもあるね」
不思議そうな顔をするヘクトとは対照的に、アイルはアベルを見て面白いくらいに表情を引き攣らせた。どうやらこちらは正体に気がついたらしい。
アベルはといえば、初対面の二人に対して緊張しているようだ。愛想笑いを浮かべながらペコリと頭を下げた。
ラウラリスはアベルについてはあえて触れず、ヘクトに問いをぶつけた。
「デートじゃないってんなら、一体どうしたってんだい。わざわざ仕事道具まで担いで」
よく見なくとも、ヘクトは斧槍を背中に、アイルは腰に刀を携えている。それだけではなく、両者共に様相は普段歩きではなく実戦に赴く装備だ。
「それが分かってるのに相引き云々を口にしたのか」
「僕としてはデートでも構わないんだけど──残念ながら君のいう通りこれから仕事でね」
台詞の最中でアイルに睨まれて、肩を竦めながら肯定するヘクト。
「ああでも、例の同盟とは別件だ。これは『上』からの指示」
苦笑しながら、ヘクトは指で真上に向ける。
どうやら同盟関連ではなく、レヴン商会に関わる案件らしい。
「商会の息の掛かった商人にちょっかいを出してる奴らが居るんだ。まぁその手の迷惑行為はいつものことなんだけど、なんだか背後に非合法組織が付いてるらしくて。そいつらとカタをつけろとのお達しさ」
「だからわざわざあんたが駆り出されたわけか」
レヴン商会は秘密裏ではあるが『獣殺しの刃』と資金や情報提供の繋がりを持っており、元々ヘクトはその橋渡し役を請け負っていた。そうした表にできない役目を負う傍らでレヴン商会から裏の仕事を任されているのである。
「この手の仕事をするのは別に僕だけじゃないってのに、商会も同盟に纏わって色々立て込んでて、裏方も手一杯。んで、そいつらがたまたま王都に拠を構えてるってんで、近場にいた僕にお鉢が回ってきたわけよ」
そこまで言ってから、ヘクトはまたもや肩を落とす。
「……同盟関連でしばらく働き詰めで、今日はようやくできたたまの休暇だってのに、遠慮なく押し付けてくるんだから」
「あんたの場合は半分くらいは自業自得だろう」
「まぁうん……その通りなんですけどね」
ヘクトは至極個人的な動機で、大元であるレヴン商会へ大損害を出しかねない騒動を起こし、今現在の彼はその騒動の責任を取るために商会からこき使われる立場にある。付け加えるとすればその騒動の最大の被害者はラウラリスであるが、すでに決着を迎えている件なので彼女から蒸し返すつもりは無かった。
「得物を用意してるってことは、単なる話し合いで終わらないってことか」
「これはあくまでも保険だよ。あちらさんが素直に手を引いてくれたら何も問題ない」
さもありなんと述べるヘクトであったが、強烈な胡散臭さは隠しようも無かった。
「んで、そこにアイルがどう関わってくるんだい?」
「ちょっかい出してきている商会やらその背後関係やらの調査を、レヴン商会から依頼されたんだよ」
アイルの『裏の仕事』を考えれば、その手の調べ物は十八番だろう。
「依頼があったからと言って、お前さんがハンター稼業に進んで勤しむタイプとは思ってなかったけどね」
「ご想像にお任せするよ……まったく、どこで嗅ぎつけたのやら」
後半部分はあえてラウラリスに聞かせた風である。
おそらくその商会と後ろ盾のマフィアについても、アイル独自で調査を行っていたのだろう。そこに声がかけられた訳だ。レヴン商会が彼女の『仕事』についてどの辺りまで掴んでいるかは不明だが、下手に断って痛い腹を突かれるよりは、積極的に関わろうというのだ。
「ついでに、今日はこいつのフォローも任されたわけ」
「フォローってぇと、まだ全快じゃないのかい」
「おかげさまでほとんど完治したよ。健康の尊さっていうのを、身をもって噛み締めてるよ」
苦笑を混じえながら、ヘクトは右肩に手を添えながらぐりぐりと腕を回した。
「ただ病み上がりには違いないから、上が万が一を考慮してアイルちゃんに同行をお願いしたのさ」
「……こんな男と組むんだったら、もっと報酬を釣り上げて良かったかもしれないけど」
酷い言い草に、ヘクトの軟派な表情が少しだけ切なげに崩れた。
一通りの事情を話し終えたところで、改めてヘクトが切り出した。
「ものは相談だけど……暇だったらラウラリスちゃんも来ない?」
親指を立てながら誘うヘクトに、隣のアイルが──ついでにアベルもギョッとした。
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