転生ババァは見過ごせない! 元悪徳女帝の二周目ライフ

ナカノムラアヤスケ

文字の大きさ
上 下
156 / 161
第7章

第十六話 オフレコなババァ

しおりを挟む

 陽気かつ軽薄な誘いに、ラウラリスは思わずジト目をヘクトに向ける。

「私も討ち入りに参加しろって?」 
「ただ単純に潰すだけなら僕らだけでも十分だけど、綺麗さっぱり掃除するにはちょっと手が足りなくてね。この後にハンターギルドで人手を募るつもりだったんだ」

 最大の目標は、マフィアの元締めであるが、その周囲を纏める幹部地位にいる人間も余さずに確保したいのだ。色々と手広くやっているようでこれを機に一網打尽にしたいのがレヴン商会の考えである。

「話は分かった。でも、阿漕な連中とはいえそうも堂々と真昼間まっぴるまから討ち入りの人数を募るって、ギルドの筋としちゃぁ大丈夫なのかい?」

 ハンター仕事には時に対人関係の戦闘も含まれるが、要人護衛や物資の警備などおおよそが専守防衛だ。よほどの例外を除けば、ハンター側から人に対して攻撃を仕掛けるような依頼はそもそもギルドが受理しない。

「その辺りは抜かりない」

 突如としたヘクトの提案に動揺しつつも、咳払いで立ち直ったアイルが捕捉する。

「ギルドには既にマフィアに纏わる情報を流してある。こちらが建物に入った時点で手配書が張り出される手筈」
「根回しは済んでると。抜け目ないねぇ」

 アイルの手際に感心するラウラリス。今回の仕事は『例外』に属するようなお膳立ては完了しているわけだ。彼女が『懇意』にしているというギルドの幹部が関わっているのだろうが、あえて触れることでもあるまい。

「でも、ラウラリスちゃんが来てくれるなら、人数的にも実力的にも申し分ないでしょ。ギルドに下手な配慮も必要ない」

 申し分ないどころか、過剰戦力も良いところである。

「私が整えた段取りを無駄にすることに対しては? 結構面倒だったんだけど」
「じゃぁ逆に聞くけど、ラウラリスちゃんより頼りになる助力がいるかな。無駄を売りに出してもお釣りが来ると思わない?」

 加えるとすれば、各方面のギルドは対亡国同盟へと有能なハンターを多く派遣しており、残っているのは中堅からそれ以下の腕ばかりだ。いくら人数合わせとはいえ、必要十分な者を募るのも手間である。

「見知らぬ複数人の誰かと突発的に組むよりは、勝手知ったる一人の方が万倍頼りになる。確かに合理的ね、私の中で暴れてる、今すぐそのニヤけヅラを殴りたいこの衝動さえ除けば」

 震えながら握り拳を固めるアイル。ヘクトの論は認めつつも、腹に据えかねているのは確実であった。

「なんかいつの間にか同行する流れになってるけど、肝心要の私の意思はどうなってんのさ」
「どうせラウラリスちゃん、降って湧いた暇を持て余してたんじゃない? 何もなければ、ギルドで手頃な手配犯を見繕ってとっちめるつもりだったんでしょ」  
「……………」

 雑で投げやりながらもヘクトにバッチリ言い当てられ、まさに『ぐぅのも出ない』とはこの事だと味わうラウラリス。そこまで自分は分かりやすいのかと。

「ラウラリスちゃんって自由人っぽく振る舞ってるけど、根っこの部分はケインと同じで仕事人間だからねぇ。目的のためには好き勝手しても、何もなく好き勝手できるほど傍若無人じゃないから」
「あんだけ滅茶苦茶してるのに無駄がなかったし、破天荒でも理詰めで動いてたしね。根っこの部分が凄く真面目気質なんだ。むしろ仕事とかしてないと落ち着かないタイプか」
「…………随分と分かった口を聞いてくれるじゃないか」

 あまりにもお構いなしに言われて、さしものラウラリスもこめかみのあたりがピクピクと引き攣る。軽薄な印象があまりにも強すぎるが、ヘクトは金級でありレヴン商会会長から直々に仕事を頼まれていたほど優秀なのだ。もちろんそれはアイルも同様だ。

 両者共に、これまでラウラリスに色々な意味で丸め込まれたりへこまされて来ただけあり、その意趣返しもあったのかもしれない。滅多にないチャンスをここぞとばかりに突いてくる。

 ある程度言いたい放題を終えると、ヘクトは肩をすくめる。

「話が逸れちゃったね。残念だけど、今現在のギルドには、ラウラリスちゃん好みの手配犯はいないよ」
「は?」
「例の御触れから、ギルドの方も手配犯の捕縛に力を注いだからね。残っているのは毒にも薬にもならない小悪党ザコばっかりさ」
「なんと……」

『対亡国』に纏わる報が王国府から発せられのに同期し、国内が慌ただしくなるのは火を見るよりも明らか。それの混乱に乗じて犯罪が増加するのも予想されていた。これに際し、ギルドは手配犯捕縛の報酬を上乗せ等のテコ入れを実施したのだ。上乗せ分の資金の一部はレヴン商会から来ているのだとか。

「どうりで……あまりにも報酬の払いが良すぎるから金の流れを追ってたのに、絶妙に追いきれなかった理由はそれね。レヴンあの商会なら納得」
「はっはっは──やっべ、これ秘密オフレコだった」

 大丈夫かよ、と呆れ返るラウラリスである。

 しかしながら、どうやらヘクトの言うとおりこのままギルドに赴いたところで、盛大な肩透かしを食うのは確実らしい。唯一残ってるのが、アイルの根回しで張り出されたマフィア関連の手配書だけだ。

「もちろん、分前わけまえは支払うよ。手配犯捕縛の報酬はアイルと山分けすれば良い。僕は商会の方から雀の涙程度を貰うから」
「言ってて悲しくないか?」
「そう思うならスルーして欲しかったね」
「ちなみに私も商会から別途で報酬をもらってるから、捕縛報酬そっちご褒美ボーナスみたいなものかな」

 アイルに追い打ちをかけられてもヘクトは笑みを崩さなかったが、目端からキラリと日光を反射し煌めく一欠片が零れ落ちたように見えたのは、果たして気のせいだったのだろうか。
しおりを挟む
感想 656

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。