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第5章 王都騒乱 編
第 274 話 破られた結界
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「どうしたー?! 何があったんだー!」
闘剣場跡に広がる大穴の底に向かい、外縁の兵が声をかける。穴底で生存者を発見した救助兵は、目の前で起こった出来事に理解が追いつかない。
女性の声だった……聞き覚えがある……だが……なぜ? どうして……
「グラバ様ー!」
救助兵は、目の前で自害行為に及んだ女性を抱きかかえる。土埃に全身が埋まっていて、わずかな光の下では到底視認は難しいが……発した声と首元の装飾品から、救助兵は腕の中で息絶えている女性の素性に確信をもった。
「生存者はグラバ従王妃だ!……だが、今、目の前で御自害なされた! 誰か、早く引き上げてくれー!」
穴底からの悲痛な叫びに周囲の兵士らがざわつき、次々に穴底へ人員が送られていく。
――― レイラとバスリムは王城2階の窓からその様子を眺めていた。
「グラバ従王妃が……自害?」
兵士らの声を聞き取った2人は顔を見合わせる。
「御自身の命を使って、儀式を完遂された……ってことかしら?」
「……さあ? しかし……」
バスリムは所感を述べようとしたが、何かに気付き言葉を切る。レイラも視線を湖上に移し息を飲んだ。
「……レイラさん?『グラディーの怨龍』なんてのは実在しないんですよねぇ?」
「エルは……そう言っていたわよ……」
バスリムの疑念に満ちた問いに、レイラも歯切れ悪く答える。
「じゃあ……これは……」
「何の冗談かしらねぇ……」
2人の視線は、湖上に感じる強大な法力源へと向けられていた。肌にビリビリと感じる「恐怖の波動」に、知らず知らず全身の毛が逆立つ。
「ここはマズいわ……降りますわよっ!」
レイラは吐き気がするほどの大きな恐怖に飲まれそうになりながら、バスリムに声をかけて駆け出した。同じ危険性を感じ取ったバスリムも、無言で後を追って駆け出す。
このフロアは特別な魔法制限がかけられている……こんな所で何かが起きたら……法術で身を守る事も出来ない!
1階に下りる階段へ向かい、もはや身を隠す事もせず駆け出した2人の前に、ジン部隊の剣士が突然飛び出して来た。
「いたぞ! ルメロ……」
王城2階では法術が封じられていることを体感済のレイラは、初めから「直接攻撃」を狙っていた。走る速度を一切ゆるめることなく、剣士に向かって行く。距離が短かったことも幸いし、剣士が左腰の剣柄に右手を触れる頃にはレイラの右拳が剣士の顎を真っ直ぐとらえていた。
「邪魔よっ!」
殴り抜け際にひと言を吐き捨て、レイラは階段口に駆け込む。ルメロフ姿のバスリムもすぐ後ろから駆け込むが、1階から多数の兵らが上がって来る気配に気付き、2人は3階へ向かい駆け上がる。
マズイ……マズイ、マズイ! 何だ、この異常な法力量は……この恐怖は!
レイラの背を必死に追いかけるバスリムの直感が「死」を警告していた。生来の法術種族であるレイラも同じ「死の恐怖」を感じ取っている。とにかく危険だ、あの法力源から少しでも遠くへ離れなければ……
「こっちよ!」
3階に上がると、レイラは内廊下を北側に向かい駆け出した。湖上の法力源を左斜め後方に感じる。1メートルでも遠くへ……可能ならば10キロ以上は離れてしまいたい……そんな恐怖を背後に感じ駆け続けるレイラの目の前は、突然、真っ赤な閃光に閉ざされてしまった……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お……おい! あれは何だ!」
闘剣場跡の大穴に集まっていた兵士たちは、西側湖面上に突如現れた不思議な光に目を向ける。湖岸から10メートルほど離れた湖面には、虹のような薄っすらとした光の膜が浮かんでいた。直径5メートルほどの円形の光の膜は、ユラユラと布のように揺れながら湖面上数十センチの空中に広がり、やがて揺れが止まった。「膜」のような状態から「板」のように硬い材質に変わったように見える。
「な……なんかマズいぞ……おい! 離れろ!」
法術の心得がある者達は、突如現れた虹色の光の円盤から危険な法力を感じ取ると、湖岸に近づく者達に警告を発した。しかし、法力感知力を持たない一般兵達は尚も湖岸に集まり始めている。
パキーン!
突然、甲高い破壊音が響き、湖面の円盤が粉々に砕け、真っ白な光の柱が上空に向かって伸びて行く。その光量の激しさに、湖面を見ていた者達は完全に視力を奪われてしまった。
「うわー!」
「ギャー!」
視線を湖面に向けていなかった者達は、辛うじて視力を奪われる事無く目を閉じる事が出来たが、あちらこちらで悲鳴が上がる。
光の柱は勢いよく上空目指し伸びていたが、突然、何かに行く手を遮られたように止まると、行き場を失い破裂して王都上空に分散した。王都壁内は、一瞬にして、真っ白な光に満たされる。
「ハッハーッ! やっと諦めやがったか、クソ女がぁ!」
強烈な閃光に視力を失い、苦痛と恐怖に呻く湖岸の兵士達はの耳に、突然、何者かの叫び声が届いた。状況を飲み込めない兵士らは静まり返る。
「ったく、なぁにが『終わりの日まで出さない』だ! 出来もしねぇことを偉そうによぉ!」
声の主の姿を確認出来ない不安と、その声質に秘められている「死」を予感させる絶望的な力に、兵士達は地面を這うように辺りを探り、手を取り合える者を捜す。
「……にしても……ここはどこだぁ? 『村』じゃ無ぇなぁ……」
「総員、戦闘警戒態勢をとれーっ!」
突如現れた怪しい人物に気付いた兵達は、ようやく、自分達の務めを思い出した。視力を奪われなかった兵達が湖岸に駆け寄って行く。多くは剣術兵と弓術兵だ。
「うかつに近づくな! 総員退避ー!」
一方、法術兵達はその法力探知能力により、湖面に現れた人物がもつ異常な法力値と性質を察知し避難を呼びかける。
「うるせぇなぁ……」
湖面に両足で立つように浮かぶ人物―――ガザルは、視線を湖岸の喧騒に向けた。右手の人差し指を立て、失明で苦しむ兵士らと駆け寄って来る兵士達をサッと確認し、指を湖岸に向ける。
「少し黙ってろ」
ガザルは指を軽く左右に振った。その指先からは発せられた細い糸のような光が、兵士達の身体を通過する。王宮側の丘の上から湖岸に向かって駆け寄って来ていた兵士達の身体が、通過した光の線に沿って切断され地面に転がった。
「うわ……」
立ち止まっていた兵士はそれを見て逃げ出そうとした。だが、すでにガザルの指から発せられた光は彼らの身体も切断し終わっている。退避行動に移ろうとした兵らは自身の四肢・胴体が分断される違和感を感じつつ、ある者は瞬殺され、ある者は遅れて襲う痛覚に絶叫を上げた。
「どうなってやがんだ……」
ガザルは自身の攻撃成果を確認することもなく、上空を見上げ呟く。
「うわー!」
「きゃー!」
目の前で突然起きた惨劇に、ガザルの攻撃から洩れた人々が叫び声を上げる。わずか一瞬の内に20人以上の兵士の身体が肉片に変えられ、湖岸の斜面に転がっていた。
「射てー!」
弓兵、棒弓銃兵に指示が下り、数十本の矢が一斉にガザルに向かい放たれた。しかし、全ての矢がガザルの手前1メートル付近で弾き返される。
「……やっと、あのクソ女の結界から出たと思ったら、今度は人間の結界かぁ? メンドくせぇなぁ……」
ガザルは空に向かい拳を握った右腕を伸ばし、一気に拳を開く。その手の平から赤い法撃光が夜空に向かって勢いよく伸びたが、初めの白い光柱が砕けたのと同じ高度で、その法撃光も砕け散った。
「くそ……」
自身の攻撃が通じない「結界」が上空に張り巡らされている事を確認し、ガザルの顔から余裕の笑みが完全に消える。思い通りに事が進まない苛立ちを覚え、ガザルは改めて自分の現状確認に気持ちを切り替えた。
湖神の結界域からは出た……どこのどいつか知らないが、あのクソ女が最後まで縛り付けていた「糸」を断ち切ってくれたおかげだ。本当ならサーガ共が迎えに集まってる場所に出るはずだったのに、胸くそ悪い人間種共が集まってやがる……どうなってんだ、一体? ここは……
湖面を滑るようにゆっくり移動しながら、ガザルは湖岸地に降り立った。目の前には、恐怖で目を見開き動けずにいる兵士らの姿……なだらかな丘の上には逃げていく数十人の人間の姿……
あれは……
丘の上にいくつかの建物の姿を見つけたガザルは、一瞬、ポカンと口を開いた。視線がゆっくり左に向くと、ひと際大きな建物……王城の姿を認める。そうか……
「そうか……。は……はは……ハーハッハッ!」
狂気に満ちたガザルの笑い声が王宮前の湖岸に響き渡った。圧倒的な力によるガザルの殺戮を目の当たりにした人々は現場から逃げ始めていたが、別所にて状況を知らずにいた兵士達が入れ替わりに駆け寄って来る。
「まさか『 ここ』とつながってたなんてよぉ……面白ぇ冗談だぜ『先生』よぉ!」
ガザルは左腕を真っ直ぐ王城に向けた。
「……ゴミ虫共の巣が……。目障りなんだよ」
真顔で王城を睨んだガザルの左腕を、炎のように揺れる真っ赤な法力光が包み込む。
「消えろ……」
一旦左腕を引いたガザルは乾いた声で呟くと、拳打を繰り出すように再び左腕を伸ばした。その勢いに乗り、真っ赤な法力光は数メートル大の攻撃魔法球となって放ち出され、真っ直ぐ王城へ飛び出して行く。
王城の壁に当たった光の球は、溶け込むように城の壁全体を赤い光に染めた。数秒後、王城全体が一瞬真っ赤な光を放ったかと思うと、内部からの膨張に耐え切れず一気に爆散する。
激しい爆風と巨大な破壊音、そして、飛散する瓦礫弾が湖水島全体を襲った。
闘剣場跡に広がる大穴の底に向かい、外縁の兵が声をかける。穴底で生存者を発見した救助兵は、目の前で起こった出来事に理解が追いつかない。
女性の声だった……聞き覚えがある……だが……なぜ? どうして……
「グラバ様ー!」
救助兵は、目の前で自害行為に及んだ女性を抱きかかえる。土埃に全身が埋まっていて、わずかな光の下では到底視認は難しいが……発した声と首元の装飾品から、救助兵は腕の中で息絶えている女性の素性に確信をもった。
「生存者はグラバ従王妃だ!……だが、今、目の前で御自害なされた! 誰か、早く引き上げてくれー!」
穴底からの悲痛な叫びに周囲の兵士らがざわつき、次々に穴底へ人員が送られていく。
――― レイラとバスリムは王城2階の窓からその様子を眺めていた。
「グラバ従王妃が……自害?」
兵士らの声を聞き取った2人は顔を見合わせる。
「御自身の命を使って、儀式を完遂された……ってことかしら?」
「……さあ? しかし……」
バスリムは所感を述べようとしたが、何かに気付き言葉を切る。レイラも視線を湖上に移し息を飲んだ。
「……レイラさん?『グラディーの怨龍』なんてのは実在しないんですよねぇ?」
「エルは……そう言っていたわよ……」
バスリムの疑念に満ちた問いに、レイラも歯切れ悪く答える。
「じゃあ……これは……」
「何の冗談かしらねぇ……」
2人の視線は、湖上に感じる強大な法力源へと向けられていた。肌にビリビリと感じる「恐怖の波動」に、知らず知らず全身の毛が逆立つ。
「ここはマズいわ……降りますわよっ!」
レイラは吐き気がするほどの大きな恐怖に飲まれそうになりながら、バスリムに声をかけて駆け出した。同じ危険性を感じ取ったバスリムも、無言で後を追って駆け出す。
このフロアは特別な魔法制限がかけられている……こんな所で何かが起きたら……法術で身を守る事も出来ない!
1階に下りる階段へ向かい、もはや身を隠す事もせず駆け出した2人の前に、ジン部隊の剣士が突然飛び出して来た。
「いたぞ! ルメロ……」
王城2階では法術が封じられていることを体感済のレイラは、初めから「直接攻撃」を狙っていた。走る速度を一切ゆるめることなく、剣士に向かって行く。距離が短かったことも幸いし、剣士が左腰の剣柄に右手を触れる頃にはレイラの右拳が剣士の顎を真っ直ぐとらえていた。
「邪魔よっ!」
殴り抜け際にひと言を吐き捨て、レイラは階段口に駆け込む。ルメロフ姿のバスリムもすぐ後ろから駆け込むが、1階から多数の兵らが上がって来る気配に気付き、2人は3階へ向かい駆け上がる。
マズイ……マズイ、マズイ! 何だ、この異常な法力量は……この恐怖は!
レイラの背を必死に追いかけるバスリムの直感が「死」を警告していた。生来の法術種族であるレイラも同じ「死の恐怖」を感じ取っている。とにかく危険だ、あの法力源から少しでも遠くへ離れなければ……
「こっちよ!」
3階に上がると、レイラは内廊下を北側に向かい駆け出した。湖上の法力源を左斜め後方に感じる。1メートルでも遠くへ……可能ならば10キロ以上は離れてしまいたい……そんな恐怖を背後に感じ駆け続けるレイラの目の前は、突然、真っ赤な閃光に閉ざされてしまった……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お……おい! あれは何だ!」
闘剣場跡の大穴に集まっていた兵士たちは、西側湖面上に突如現れた不思議な光に目を向ける。湖岸から10メートルほど離れた湖面には、虹のような薄っすらとした光の膜が浮かんでいた。直径5メートルほどの円形の光の膜は、ユラユラと布のように揺れながら湖面上数十センチの空中に広がり、やがて揺れが止まった。「膜」のような状態から「板」のように硬い材質に変わったように見える。
「な……なんかマズいぞ……おい! 離れろ!」
法術の心得がある者達は、突如現れた虹色の光の円盤から危険な法力を感じ取ると、湖岸に近づく者達に警告を発した。しかし、法力感知力を持たない一般兵達は尚も湖岸に集まり始めている。
パキーン!
突然、甲高い破壊音が響き、湖面の円盤が粉々に砕け、真っ白な光の柱が上空に向かって伸びて行く。その光量の激しさに、湖面を見ていた者達は完全に視力を奪われてしまった。
「うわー!」
「ギャー!」
視線を湖面に向けていなかった者達は、辛うじて視力を奪われる事無く目を閉じる事が出来たが、あちらこちらで悲鳴が上がる。
光の柱は勢いよく上空目指し伸びていたが、突然、何かに行く手を遮られたように止まると、行き場を失い破裂して王都上空に分散した。王都壁内は、一瞬にして、真っ白な光に満たされる。
「ハッハーッ! やっと諦めやがったか、クソ女がぁ!」
強烈な閃光に視力を失い、苦痛と恐怖に呻く湖岸の兵士達はの耳に、突然、何者かの叫び声が届いた。状況を飲み込めない兵士らは静まり返る。
「ったく、なぁにが『終わりの日まで出さない』だ! 出来もしねぇことを偉そうによぉ!」
声の主の姿を確認出来ない不安と、その声質に秘められている「死」を予感させる絶望的な力に、兵士達は地面を這うように辺りを探り、手を取り合える者を捜す。
「……にしても……ここはどこだぁ? 『村』じゃ無ぇなぁ……」
「総員、戦闘警戒態勢をとれーっ!」
突如現れた怪しい人物に気付いた兵達は、ようやく、自分達の務めを思い出した。視力を奪われなかった兵達が湖岸に駆け寄って行く。多くは剣術兵と弓術兵だ。
「うかつに近づくな! 総員退避ー!」
一方、法術兵達はその法力探知能力により、湖面に現れた人物がもつ異常な法力値と性質を察知し避難を呼びかける。
「うるせぇなぁ……」
湖面に両足で立つように浮かぶ人物―――ガザルは、視線を湖岸の喧騒に向けた。右手の人差し指を立て、失明で苦しむ兵士らと駆け寄って来る兵士達をサッと確認し、指を湖岸に向ける。
「少し黙ってろ」
ガザルは指を軽く左右に振った。その指先からは発せられた細い糸のような光が、兵士達の身体を通過する。王宮側の丘の上から湖岸に向かって駆け寄って来ていた兵士達の身体が、通過した光の線に沿って切断され地面に転がった。
「うわ……」
立ち止まっていた兵士はそれを見て逃げ出そうとした。だが、すでにガザルの指から発せられた光は彼らの身体も切断し終わっている。退避行動に移ろうとした兵らは自身の四肢・胴体が分断される違和感を感じつつ、ある者は瞬殺され、ある者は遅れて襲う痛覚に絶叫を上げた。
「どうなってやがんだ……」
ガザルは自身の攻撃成果を確認することもなく、上空を見上げ呟く。
「うわー!」
「きゃー!」
目の前で突然起きた惨劇に、ガザルの攻撃から洩れた人々が叫び声を上げる。わずか一瞬の内に20人以上の兵士の身体が肉片に変えられ、湖岸の斜面に転がっていた。
「射てー!」
弓兵、棒弓銃兵に指示が下り、数十本の矢が一斉にガザルに向かい放たれた。しかし、全ての矢がガザルの手前1メートル付近で弾き返される。
「……やっと、あのクソ女の結界から出たと思ったら、今度は人間の結界かぁ? メンドくせぇなぁ……」
ガザルは空に向かい拳を握った右腕を伸ばし、一気に拳を開く。その手の平から赤い法撃光が夜空に向かって勢いよく伸びたが、初めの白い光柱が砕けたのと同じ高度で、その法撃光も砕け散った。
「くそ……」
自身の攻撃が通じない「結界」が上空に張り巡らされている事を確認し、ガザルの顔から余裕の笑みが完全に消える。思い通りに事が進まない苛立ちを覚え、ガザルは改めて自分の現状確認に気持ちを切り替えた。
湖神の結界域からは出た……どこのどいつか知らないが、あのクソ女が最後まで縛り付けていた「糸」を断ち切ってくれたおかげだ。本当ならサーガ共が迎えに集まってる場所に出るはずだったのに、胸くそ悪い人間種共が集まってやがる……どうなってんだ、一体? ここは……
湖面を滑るようにゆっくり移動しながら、ガザルは湖岸地に降り立った。目の前には、恐怖で目を見開き動けずにいる兵士らの姿……なだらかな丘の上には逃げていく数十人の人間の姿……
あれは……
丘の上にいくつかの建物の姿を見つけたガザルは、一瞬、ポカンと口を開いた。視線がゆっくり左に向くと、ひと際大きな建物……王城の姿を認める。そうか……
「そうか……。は……はは……ハーハッハッ!」
狂気に満ちたガザルの笑い声が王宮前の湖岸に響き渡った。圧倒的な力によるガザルの殺戮を目の当たりにした人々は現場から逃げ始めていたが、別所にて状況を知らずにいた兵士達が入れ替わりに駆け寄って来る。
「まさか『 ここ』とつながってたなんてよぉ……面白ぇ冗談だぜ『先生』よぉ!」
ガザルは左腕を真っ直ぐ王城に向けた。
「……ゴミ虫共の巣が……。目障りなんだよ」
真顔で王城を睨んだガザルの左腕を、炎のように揺れる真っ赤な法力光が包み込む。
「消えろ……」
一旦左腕を引いたガザルは乾いた声で呟くと、拳打を繰り出すように再び左腕を伸ばした。その勢いに乗り、真っ赤な法力光は数メートル大の攻撃魔法球となって放ち出され、真っ直ぐ王城へ飛び出して行く。
王城の壁に当たった光の球は、溶け込むように城の壁全体を赤い光に染めた。数秒後、王城全体が一瞬真っ赤な光を放ったかと思うと、内部からの膨張に耐え切れず一気に爆散する。
激しい爆風と巨大な破壊音、そして、飛散する瓦礫弾が湖水島全体を襲った。
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