前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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帝位継承権争い?興味ねえ!

邪魔すんじゃねえって威嚇しとく ※No Side※

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ある宮殿の一室にて、キヴィラハティ侯爵が第二皇妃にとある報告をしていた。

「実は朗報があります。エルネスティ殿下を正気に戻せるかもしれません」

「……何?どう言うことかしら」

第二皇妃は険しい表情を扇子で隠した。侯爵はニヤニヤと手を揉みながら言葉を続ける。

「実は殿下の研究資料の一部を盗むことに成功致しまして、私の愚息が殿下の専属護衛騎士に交渉をしました。殿下の専属護衛騎士を外れるように、と」

「なんですって!?」

第二皇妃は声を荒らげて瞠目した。侯爵は第二皇妃が喜ばれていると解釈し、上機嫌で頷いた。

「まだ結果の知らせは来ていませんが、きっと成功するでしょう。私の愚息もあの忌々しき騎士も殿下に心酔しているので、交渉が決裂することはありません」

「そんなの成功する訳ないじゃない!?なんてことしたのよ!?アウクスティがいるじゃない!エルネスティには何もしないでって言ったでしょうに!」

第二皇妃は激怒して、扇子で侯爵を叩いた。キヴィラハティ侯爵は予想外の反応に目を見開いて固まった。

「お、お言葉ですが!アウクスティ殿下がエルネスティ殿下の代わりが出来るとは思えません!それ程エルネスティ殿下は優秀であられました!」

「出来る出来ないじゃなくて、するのよ!アウクスティをエルネスティ以上の存在に!第一なんであの騎士を排除することでエルネスティが元に戻ると思ったのよ!?」

「エルネスティ殿下が変わられたのはあの騎士が影響だと、あの専属護衛騎士が殿下に魔法陣学を研究させてると噂が……」

「違うわ!ええ、自信を持って言えるわ!あの子は自分の意思で、好きで研究してるのよ!そこにあの騎士は関係ないわ!逆にあの子の愛するものに害を成したなら……!あの子にどんな報復をされるか!」

第二皇妃は青い顔で俯いた。鬼気迫るその表情に侯爵は何故そこまで焦るのか、と疑問に思った。今のエルネスティは比較的温厚であるという噂を耳にしている。この程度のことで元の彼に戻らないのであれば、恐れることはないと思っているのだ。

「流石母上。私のことをよくご存じでいらっしゃる」

すると二人の他に誰もいないはずの部屋に第三者の声が響いた。二人が声の聞こえた方を向くと、そこには天使が如く笑顔のエルネスティの姿があった。第二皇妃はいよいよ可哀想になるほど顔色を悪くし、必死に弁解を並べた。

「え、エルネスティ?落ち着きなさい。今回の件は私の指示ではないわ。侯爵の独断よ。私は関係ないの」

「ええ。知ってますので、母上に関しては今回の件を不問とします。ですがご自身の駒の管理ぐらい、もっときちんとしてくださいね?」

第二皇妃は最後の言葉に声を引き攣らせながらも、安堵が表情がら滲み出ていた。冷酷な仮面皇妃と謳われる第二皇妃らしからぬ態度に侯爵は目を見開いて固まった。

「……さて、キヴィラハティ侯爵。昨日は私の専属護衛騎士が貴方のご子息にお世話になったとか」

「えっ!?あっ、その……」

「ご子息から連絡は行っておりませんか?作戦は失敗した、と。そして私を怒らせてしまった、と」

「あっ……」

エルネスティの言葉に侯爵は青ざめた。失敗してしまったのであれば、今頃息子は騎士団に捕えられているだろう。息子の醜聞によって家の評判が悪くなるのでは、と恐れたのだ。

「やはり貴方の焚き付けでしたか。騎士団に入団された貴方の四男は魔法においては優れていましたが、考えることは些か等閑であるとお聞きしております。それが何故物を盗んで交渉すると思いついたのか、疑問でした」

「いや……私は何も……」

「そうそう、私、音声録音魔法が使えます。この言葉の意味、わかりますよね?」

「あっ……」

態々今、そのことを言うことはつまり。先程の会話が聞かれており、尚且つ録音されているということ。皇族の私物を盗むよう指示した者がどう言った処罰を受けるのか。良くて爵位の降格、剥奪、最悪打首である。どう転んでも今まで通りの生活は出来ない。

ここで侯爵はどれだけ自分が危ない橋を渡っていたのかに気づいた。この計画を実行に移す前に気づくべきだったが、生憎侯爵の頭脳は愚息四男の上位互換でしかないのだ。

「まあだからといって私は何かするつもりはありませんよ。貴方から何かを奪ったとしても、その代償と得られるものが釣り合いませんから。責任を負うだけ労力の無駄です」

「そ……うですか……」

侯爵は最悪の展開だけは避けられたと安堵の溜息をつく。なんだただの脅しだけか驚かせやがって、と内心悪態をつきながら。

そんな浅ましい感情が漏れ出ていたのか、エルネスティはスっと目を細めた。微笑んでいるようで目が全く笑っていない。侯爵は本能的に恐怖した。

「何か勘違いされてません?私は・・何もしないと言いましたが、私以外はどうかわかりませんよ?」

現実を笑顔で突きつけたエルネスティは侯爵が恐怖で腰を抜かしても何処吹く風で話を続ける。侯爵がどうなろうが、本当にとうでも良いのだ。

「例えば被害を受けた私の専属護衛騎士の上司である近衛騎士団団長は部下想いで、今回の件に深い憤りを感じていたそうですし、貴方のご子息の上司である帝国騎士団団長は曲がったことが大嫌いだと伺います。騎士団のトップお二人が組んでこの件を捜査すれば、いくら私が黙っていても足はつくでしょうし。私が口を滑らさないとも限りませんし……ね」

「そん……な……」

「困りますか?なら取引します?」

「取……引?」

「ええ。私なら穏便に事を済ますことが可能です。私の労力を貴方の何かしらで買う。一種の売買ですよ」

「する……!いくら出せば良い……!?」

絶望の淵にいた侯爵にとって、エルネスティの提案は地獄に垂れた一本の蜘蛛の糸だ。藁にもすがる思いで身を乗り出す。幸いにも金には余裕があるのだ。

しかしエルネスティは考え込む素振りを見せた。

「ん~ですが私は皇族ですからお金には困っていないのですよね。何にしましょうか……。そう言えば、侯爵には優秀なご長男がいましたね」

「えっあっ、はい。学園を首席卒業した自慢の息子ですが……」

突然振られた話題に侯爵は戸惑いながらも頷いた。勢いが削がれたのか肩の力が抜ける。だがエルネスティの追撃は止まらない。

「とても正義感が強いとお伺いしました。例えば……父親の不正を暴いたり。まあそれは表に出る前に貴方が揉み消したようですが」

「な……ぜ、それ……を」

「何故知っているのか?さあ何故でしょう。何故今その話題を出すのか?それはここが交渉の場だからですよ。キヴィラハティ侯爵、優秀な方に席を譲るべきだとは思いませんか?」

「なっ!それは!」

ここで今まで静観していた第二皇妃が口を挟んで来た。程よく頭が空っぽな侯爵は操り易いが、その長男は優秀で扱いにくい。第二皇妃として駒が減るのは困るのだ。だがエルネスティは横槍が入るとわかっていたように優雅に第二皇妃の方を向いた。

「これは取引ですよ、母上。たった一人切るだけで実例という最大の戒めが手に入るのですから。精々それで自分の人形の手綱をちゃんと握ってください」

「……くっ!それもそうね……」

第二皇妃は唇を噛み締めながらも条件を呑んだ。握り締めた扇子にヒビが入る。今回はどう考えてもこちら側の落ち度だ。侯爵一人切るだけの被害で済むならそれを受け入れざるを得ない。

侯爵は第二皇妃にも見捨てられ、いよいよ顔に色を失った。そんな侯爵にエルネスティはまるで天使のお告げを伝えるように、妙に軽やかに囁いた。

「……それで?どうします?」

そこに選択肢など、ひとつしか残っていない。
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