前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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帝位継承権争い?興味ねえ!

仲直り(?)しましょう

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俺がヴァイナモを馬鹿にされてガチギレした事件の翌朝。俺はベッドの中で悶絶していた。

……ああ~やってしまったえらいこっちゃ!頭に血が上ってとんでもないこと口にしてしまった!

何が!『私の・・ヴァイナモ』やねん!勝手に人を自分の所有物にすんなや!

その後もヴァイナモが大切って連呼してたし、怒りに任せてアイツら殺そうとしたし、絶対ヴァイナモドン引きしたよな……いや?ワンチャン混乱に乗じて聞き流してくれてないかな?いやでも殺人未遂は絶対に覚えてるだろ。普段の変人奇行とはまた別の意味でやべえ行動だったからな……どうしよう「殿下・・の専属護衛騎士を辞めさせていただきます」とか言われたら絶望だ……。

てかなんで昨日ヴァイナモはアイツらに言われっぱなしだったんだ?あんなことになる前にヴァイナモなら剣でその場を制しそうだけど。

……もしかして、昨日男たちの足元に散らばってたこの資料が原因?ヴァイナモはあれを盾にされた……?もしやアイツらが盗んだのか!?万死!てめえら万死に値するぞ!俺の大切な資料盗みやがって!……まあ紛失した時点で気づくべきだったんだけどな。てか普段なら気づいてた。あの時はヴァイナモのことで頭がいっぱいで、考えることを放棄してたんだ。

……どうしよう本当にこれからヴァイナモにどんな顔して会えば良い?醜態晒しまくったけど、平然としとく?無理無理無理。いくら無頓着な俺でもあんな黒歴史見られて正気でいられない。

そんなことを悶々と考えていると、ドアがノックされた。そしてヴァイナモが部屋に入って来る。待って待って!心の準備が!

「……おはようございます、エルネスティ様。昨晩はよく眠れましたか?」

「……眠れたと思います?」

「そうお聞きになると言うことは、眠れなかったのですね」

ヴァイナモの呆れたような声がベッドの上から聞こえて来る。俺は顔が直視出来なくて、布団の中に蹲った。怖い。ヴァイナモになんて思われてるか、怖い。

「……やはりあれくらいのことを一人で解決出来ない弱い俺は必要ありませんか?」

布団から中々出てこない俺にヴァイナモは悲しげにそう言った。心做しか声が震えている。不安なんだろうか。もしかするとここ数日のよそよそしさも相まって、ヴァイナモを傷つけているのではないか?

恥ずかしいだとか怖いだとか、そんな自分勝手な理由で。

「……っすみません!」

「っ!?エルネスティ様!?」

俺は飛び起きてベッドの上で土下座した。ヴァイナモは俺の奇行に動揺し、あたふたしている。勢いで土下座しちゃったよ!もうなるようになれ!

「私のせいでヴァイナモを傷つけてしまい、本当にすみません。私にはヴァイナモが必要です。ヴァイナモに側にいて欲しいです。私の方こそ、勝手にヴァイナモは自分のものなんて発言をして不快にさせてしまい、本当の本当にすみません!」

一頻り謝るとヴァイナモの方から息を飲む音が聞こえた。沈黙がその場を支配する。俺はどんな返事が返ってくるかハラハラしながら、頭を下げ続けた。

「……俺の方こそ、図々しくお側にいたいと言った癖にエルネスティ様の大切なものをお護り出来ず、申し訳ございません。自分の不甲斐なさに嫌気がさします」

「そんなことはありません!」

ヴァイナモの言葉に我慢出来ず、俺はガバッと顔を上げた。目を見開いたヴァイナモと目が合う。俺は混乱する頭で何とか言いたいことを絞り出す。

「ヴァイナモは私の大切な資料を取り返そうとしてくれました!資料を犠牲にしてその場を制すことも出来たのに!屈辱的な言葉の数々に耐えてくれました!そうでなくても私の研究を理解してくれてます!それでどれだけ私が救われているか!貴方はちゃんと、私の大切なものを護ってくれています!」

自分を理解してもらえるのはどれだけ恵まれていることか。ヴァイナモがいるから、俺は研究に集中出来るのだ。躊躇わず魔法陣が好きだと言えるのだ。

例え誰にも理解されなくても、ヴァイナモがいると安心出来るから。

俺は必死にそのことをヴァイナモに伝えた。最初は驚愕していたヴァイナモも、次第に俺の言葉を呑み込んでいき、へにゃりとした笑みを浮かべた。

「……ありがとうございます。俺はあの時、貴方様が『私の・・ヴァイナモ』と仰ってくださり、とても嬉しかったのです。貴方様に必要とされていることが、俺にとって何よりも幸せです。是非これからも、貴方様のお側でお護りさせてください」

「……っもちろんです。こちらこそよろしくお願いします」

俺の言葉は拒絶されなかった。それどころか喜んでくれた。俺を受け入れてくれた。これからも一緒にいることを約束してくれた。

嬉しい。

俺は自然と涙が零れた。酷いことをした、自分勝手なことを言った俺を許してくれた安堵が俺を満たしていく。ヴァイナモははにかみながら俺にハンカチを差し出してくれた。俺の専属護衛騎士がぐう優しい。


* * *


「そういえば、エルネスティ様は何故ここ数日俺を避けていらしたのですか?俺、何か気に触ることをしましたか?」

涙が収まったころ、ヴァイナモがふとそんなことを聞いてきた。俺はギクリとなって視線を逸らす。言えない。ダンスの練習した時から変に意識していたとか。その理由は良くわからないし。どうしよう、どう誤魔化そう。

「ええっと~ヴァイナモって体格良いじゃないですか。ダンスの時に密着してそれを再確認したと言いますか。それで、その、私のひょろひょろ感が際立ったと言いますか。はい。その……嫉妬してましたすみません」

どうだ!嘘は言ってないぞ!今の身体も気に入ってるけど、ちょっと羨ましいなって思ったのは確かだし!変じゃないでしょ!?騙されて!お願い騙されて!

「……痩せましょうか?」

「えっ!?いえっ!ヴァイナモはそのままでいてください!」

ヴァイナモが至って真剣にそう聞いてくるので、俺は大慌てで止めた。嫉妬しているとは言ったけど、それは極端だから!

「わかりました。……エルネスティ様もそのままでいてください。俺は俺、貴方様は貴方様です」

「……そうですね。わかってます。俺に強靭な肉体は求められていないと……ペッテリも悲しみますし」

俺がムキムキになったら絶対ペッテリが号泣する。「神は僕を見捨てたのだ……!」とか言い出しそう。それは避けないと。大切な物資調達経路でもあるし。

「……そうそう、話は変わりますが今回の件、処罰の方は如何されますか?資料を盗んだ奴らの最終的な処罰は、エルネスティ様に任されるそうです」

「……う~ん。はっきり言ってどうでもいいんですよね。あの時は頭に血が上って殺そうとしましたが、資料も戻って来ましたし、ヴァイナモは無事でしたし……。何よりもう彼らに興味がありませんし。ヴァイナモはどうですか?」

「俺ですか?……エルネスティ様が気になさらないのであれば、大事にする必要はないかと。俺にとっては己の弱さを知る良い機会でもあったので」

ヴァイナモの言葉に俺は顎に手を置いて考えた。俺的にも何にもしなくて良いのだが、皇族の威厳としては何かしらしないといけないし。……そういえば。

「彼らの一人に、キヴィラハティ侯爵のご子息がいましたね」

「……ええ、多分首謀者でしょう。彼が主に話してましたし、資料も持ってました」

「キヴィラハティ侯爵って第二皇妃母上の傘下なんですよね」

俺の言葉にヴァイナモは目を見張り、意図を汲み取ったのか神妙に頷いた。俺は天使の微笑みを浮かべながら、ベッドから身を降ろした。
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