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しおりを挟む「君が言っていることに覚えはあるよ。確かに彼女を抱きしめたし、贈り物も受け取った。彼女の手作りとは知らなかったけど手製のパウンドケーキもご馳走になったし」
「……っ」
「ラ、ラファエル先輩?!」
認める俺にそれを聞く三人の反応は三者三様だった。
自分から振ったくせに拳を握りしめて息を飲むフィガロに、やけに慌てたアレン。
そして微動だにせずに俺を見つめるレイヴァン。
「で?それがなに?」
冷えた視線をフィガロへと投げ掛ける。
「……なにじゃねぇだろっ!!」
「その事実は認めるけど、お前に非難される謂れも、ましてや嫌がらせを受ける理由もないけど?浮気よばわりされる理由も、ちょっかいかけた事実もないしね」
顔を真っ赤にして掴みかからんばかりの相手にあくまで冷静にそう返す。
とはいえ、イラッとしてうっかりお前とか言っちゃった。
まぁ、いいか。
「階段から落ちるとこだったんだよ」
襟首を掴むとこだった手がピタリと止まった。
間近に迫るフィガロの顔を見据えながら事実を淡々と説明する。
「放課後イザベル嬢が一人で美術部の作品を運んでて、前が見えなくて階段から落っこちそうになった」
ざっとフィガロの顔色が変わる。
「け、怪我はっ?!」と叫ぶように口にする姿は焦りも露わで、本気でイザベル嬢が大事なのがよくわかった。
なので少しだけこっちも冷静になる。
小さく息を吐き出して呆れと苛立ちを逃しながら「ないよ」と端的に答えた。
……というかその後でイザベル嬢に会ってんだろうに。
「それで慌てて駆け寄って腕を掴んで引き寄せた。抱きしめた、って行為自体は否定しないけど、そこに他意なんて微塵もないよ。なにせあれこれ考えてる余裕なんてなかったし、下手をすれば二人とも頭から真っ逆さまだ」
「大丈夫だったんですか?!」
フィガロを押しのけて詰め寄ってきたレイヴァンがぺたぺたと俺の身体を触る。
前言撤回。
元気な姿を目にしてようと心配はしてくれるものらしい。
色を失い心配してくれる姿が嬉しくて笑顔が浮かぶ。
「平気だよ。手首をちょっと痛めただけだし」
「怪我をしたんですか?!」
「う、うん。でも軽い捻挫だし、治療済みだから」
そういってとられた手をひらひらと振ってみせる。
ヤバい、怪我したことは黙っていた方が良かったかも。
背後では目を見開いたままのフィガロと、「ですよねー。ラファエル先輩が浮気なんて……」とうんうんしてるアレンの姿。
アレンお前、さっきめちゃくちゃ慌ててたじゃねーか。
ですよねー、じゃねーよ。
「イザベル嬢が抱えてた作品もとっさに魔法で浮かせて無事だったけど、また前の見えない状態で歩いて同じことが起きたら大変だろう?それに階段から落ちかけたことで彼女もだいぶパニックをおこしていたしね。だから作品を運びがてら美術部へと送って行ったんだよ」
それから美術部で大歓迎を受けたこと。
大事な部員と作品を守ったことに感謝され、お茶を振る舞われた際に手作りっぽいパウンドケーキがお茶菓子にだされて「おいしい」と褒めたこと。
後日、美術部から感謝とお詫びの品を贈られたが、代表として当事者のイザベラ嬢が教室に渡しにきてくれたことを話した。
「……ってことなんだけど?菓子をご馳走になったのはなりゆき、贈り物は美術部全体から」
「…………」
「女性を不用意に抱きしめたのは反省しないでもないけど、緊急事態だし、まさか手を出さずに放置した方が良かったなんて言わないだろう?」
「…………」
「私が君に嫌がらせを受ける理由ってあるかな?」
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