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しおりを挟む「な・に・し・て・くれ・てんのよーーー!!!」
額に青筋を浮かべたエルザさんの怒りに塗れた声が響いた。
一言一言に力が籠められまくった声と、眉を怒らせ瞳を釣り上げたお姿は美人だけあって迫力がすごい。
「ぎゃぁぁぁーーー!!ご、ごめん姉さん!!ごめんなさーい!!」
頭をグワシッ掴まれながら情けない悲鳴を上げる一人の男性。
涙目のその男性の面立ちはエルザさんとよく似ている。
……ただキリッとした美人さんなエルザさんと違ってどこか情けない雰囲気だ。
物が散乱した部屋に、モウモウと立ち上がる煙や怪しげな色の薬品。
「ごめん、ごめんってっ!本当に悪気はなかったんですっ!痛いっ痛いっあたま割れちゃう~!」
手足をジタバタさせてアイアンクローから逃れようと必死なのはエルザさんの実弟だ。
そして抱き合うように身を寄せながら怒れるエルザさんにふるふると震えている兄さん……と妖精染みた美貌の美少年。
二人の涙に潤ませた瞳が「どうしよう?!たすけてエルくん!」と俺を見る。
うん、声は出てないけどバッチリ聞こえた。
俺としては怒り心頭のエルザさんに関わりたくない。
だって怖い。美人なだけあってド迫力。
だがこの場で他に彼女を宥められる人間がいるわけでもないので、嫌々ながらそっと声をかけた。
「その、エルザさん」
顔を向けられた瞬間、尖らせた瞳に見据えられビクリと肩が震える。
いや大丈夫。俺に怒ってるわけじゃないから。
そう自分に言い聞かせ、そっと掌を掲げる。
気分は凶悪犯を説得する一般市民。
お願い撃たないでー!だ。
「お怒りはごもっともですが、まずは詳しい話を聞きましょう。シエルの体調が一番ですし」
幸いにも説得は成功し「そうね」とエルザさんは手を放してくれた。
「ごめんなさいね」と笑顔で俺には謝ってくれたが弟に向ける視線は相変わらず厳しい。
まぁ、これは自業自得だが。
「で、とっとと説明しなさい」
腰に手を当て見下ろす姿が実に様になる美女。
そんな堂々とした美女の弟であるエドさんはオドオドしつつ語りだした。
「……それでね、やっと薬品が完成したんだ!だから被験者を募ろうと町に出ようと部屋を飛び出したら……えっと、その……シエルとぶつかって………………ごめんなさい!」
エドさんは魔法薬を中心とした発明家だ。
薬の完成に至るまでの長ーい長い説明があったがそこは省略するとして、完成に歓喜し、薬を手に飛び出したところでシエルと激突、完成品がシエルへとかかってしまったようだ。
その結果が……。
兄さんに寄り添うシエルは5歳児の姿ではなく兄さんより少し背が低いぐらいの少年の姿になっていた。
10歳の成長とエドさんが言ってたから15歳か……。
レイヴァンらと比べると中身の差を差し引いてもちょっと幼げな気がする。
まぁ、でも兄さんも三十路手前であの童顔だしな。遺伝か。
頼りなげに首を傾げるシエルは薄い色素と深い森のようなグラデーションを描く翠の瞳も相まって、妖精だの精霊だのを思わせる美少年だった。
「後遺症とかは特にないし、5日ぐらいで自然に元に戻る筈だから!!ねっ、だから許して!!」
体に悪影響はありません!!を必死にアピールしてエルザさんに許しを請う姿を見ながらひとつ溜息を吐いた。
まさか久しぶりに訪問したエドさんの家でこんな事態に見舞われるとは……。
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