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29 (※)レイヴァン
しおりを挟む忙しなく視線を動かしながら廊下を走る。
驚いたようにこちらを見る周囲の視線など気にもならなかった。
目当ての人物を探し、ただ走る。
連休明け、教室はざわついていたものの連休前に比べれば随分とマシだった。
なにせ連休前の二日間、魔獣狩りの後はクラスだけでなく他所のクラスからも人が押し寄せていたくらいだ。
いくら無責任な称賛をされようとも、あの日の出来事は無様な失態でしかなく、話題を出されるたびに重い何かが胸に積もっていった。
なにより、自分の所為で怪我をしたエバンス先輩の安否が気掛かりでしかたなかった。
せめて見舞いを……と思いもした。
だが立場上、侯爵家であり対して親しくもない僕が見舞いに行ったところで相手の負担にしかならない。
それに連休は先輩は領地のご実家に戻る予定だとカイルが言っていた。
今日は登校されるだろうか?
そう悶々としていたところに斜め前の席から声が聞こえた。
「良かったぁ~~。エバンス様お元気そうだったっ」
「ほんと良かったね!」
安堵に涙すら浮かべている少女は……あのパーティの時の令嬢だ。
「エバンス先輩は登校してるんですか?」
反射的に席を立った僕は令嬢たちに詰め寄っていた。
驚かせてしまったようだが「はい、校門でお見掛けして……」と答えてくれた彼女に礼を告げ、そのまま教室を後にしようとしたところで教師が入ってくるのが見えた。
もどかしい授業をやり過ごし、チャイムとともに教室を飛び出した。
向かったのは先輩の教室。
だがその姿はなく、カイルが心当たりを何か所か教えてくれた。話し続けるカイルを遮り、再び校内を走り出す。
珍しい艶やかな黒い髪。
派手ではないが清廉な色気を纏った不思議と人目を引く佇まい。
視線はその人を自然に探す。
何故、自分がこんなにも必死になっているのかわからなかった。
勿論、僕を庇って大怪我を負わせてしまった申し訳なさと後悔がある。
一生取り返しのつかない過ちを犯すところだった僕やアレンを止めてくれた感謝も。
僕らがあの場を生き抜くことが出来たのは全てあの人のお陰だ。
あの冷静で的確な指揮がなければゼリファン隊長が駆けつけるまでに僕らは全滅していただろう。
僕を庇った時のあの人の姿が。
マーナガルムを一刀で両断したゼリファン隊長の姿が。
何度も何度も脳裏に蘇って離れない。
血を纏い歪められた表情。怪我を負いながらも冷静にスコルを瞬殺した一撃。
迷いのない的確な指揮を飛ばす姿。
命の危険を、迫り来る牙を前にも少しも揺るがなかった紫電の瞳。
少しも揺らぐことのなかった美しい紫の瞳は、ゼリファン隊長の姿にあの一瞬、たしかな安堵を宿した。
それは僕も同じ。
圧倒的な強さ、無慈悲ともいえる一撃。
その存在に安堵した。
そして……同時に激しく覚えたのは
言いようのない焦燥感と悔しさ、だった。
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