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しおりを挟む何故なのだろうか。ここから先は綾人の勝手な想像でしかないが、周囲の和泉綾人に対する評価が明らかに自分に対するものよりも上だったと思い込んで気分を害したのか。そんな事で怒るのか。分からない。入試でトップの点数を取って、入学式では新入生代表の挨拶を務めた。学級委員も任された綾人が自分よりも上に立ったと感じてしまったのだろうか。冷静に考えれば、あの段階ではどちらが上も下も無くて単に皆に顔と名前を知られたのが「早かった」だけの事なのだが、そんな事は分かっている上で、綾人よりも「遅かった」事が許せなかったとなるともうどうしようもない。
そんなものが孝太郎の逆鱗であったのだろうか。一歩だろうが一瞬だろうが綾人に先を前を上を行かれるのは不愉快だという事か。少しも我慢がならないという事か。そうなると孝太郎は昔っから綾人の事を自分よりも確定的に劣っている存在だと認識していたという事だろうか。自分よりも下に居る事が当然の存在に半歩でも追い越されたのなら、追い越されたと感じてしまったのなら、いじめたくもなるのかもしれない。綾人の勝手な想像だ。自分がいじめられた事に何か何か何か理不尽なものでも良いから何か説明の出来るような理屈を求めてしまうのも「いじめられっ子」特有の思考かもしれない。
綾人が意図して高校デビューをしたわけではなかったのだが、孝太郎には立場の逆転を図ろうとしたようにでも見えたのかもしれない。出る杭は打たれるというのか、雉も鳴かずば撃たれまいなのか、孝太郎としては下剋上を阻止しようと考えたのかもしれない。木下孝太郎をどうにか弁護するならば、彼はただ自身の身に降りかかったと感じた火の粉を払っただけのつもりだったのかもしれなかった。
ただそうなるとやはり木下孝太郎が和泉綾人を自分よりも格下の人間であると認識していたという事が大前提となってしまう。
友達だと思っていた。仲が良いと思っていた。
全て、綾人の勘違いだったのだろうか。
可愛さ余って憎さ百倍ではないが何だか虚しい気持ちにはなってしまう。
もう。あまり考えたくはなくなっていた。嗚呼。今はただ、この十五ヶ月分の仕返しをするだけだ。
目には目を、歯には歯を。やられた事をやられた分だけ、やり返す。権利のような気持ちで始めた行為がいつのまにか義務のような重みとなって、綾人の精神に伸し掛かっていた。
「綾人。綾人」と嫌がる孝太郎の言葉を聞き流しながら、綾人はおよそ機械的にその手を動かし続けていた。どの瞬間に綾人と孝太郎の傷の深さは同じとなるのだろう。二人の罪と罰はいつプラスマイナスがゼロのとんとんになるのだろうか。まだか。まだか。まだか。
「はッ」と綾人は吹き出してしまった。
笑える。
まるであの頃のような対等の友達関係に戻りたがっているみたいじゃないか。あの頃の二人を対等だと思っていたのは綾人だけかもしれないのに。
違う。過剰な復讐ではなくて正当な仕返しをしたいだけだ。過不足の無い傷の深さや傷の数が知りたい。そしてそれを与えたい。対等な友達同士に戻るというよりは、本当のプラマイゼロにして友達だった頃よりも以前の見知らぬ他人同士にまで初期化したいぐらいだ。全てを精算したい。この関係を抹消してしまいたい。
もう、さっさと終わらせてしまいたい。
これまでは延々と右手のみを動かしていた綾人だったが、ここにきてようやく長いお休みの続いていた左手にも仕事をさせる事とした。右の手で孝太郎の竿をしごきながら左手をシャツの内側に滑り込ませる。腹を触る。
「んふッ」と孝太郎が鳴いた。きゅっと腹筋が引き締まる。綾人は無遠慮に無作法に孝太郎の腹を撫で回した。筋肉質でゴツゴツと硬いが、まだまだ幼さも残る若い肌はしっかりとすべすべしていた。指を広げて腹筋を浅く掴む。脇腹のラインを確かめるみたいに中指の腹でなぞる。それが孝太郎の腹である必要は無いかのように、綾人の左手は随分と自分勝手に這い回っていた。まるで単なる手遊びだった。
右手一つを動かしていた先程までも別段、片手間仕事で孝太郎の事をもてあそんでいたというわけではなかった。綾人は右利きだ。色々と考えながら思うままに動かすには右手一つが限界だっただけだ。今、綾人は諸々について深く考える事を止めて、「何となく」という感覚に従い、その手を動かしていた。左手の好きにさせていた。
「ば。駄目。だ」
悶える孝太郎に追いすがる綾人。その身をよじった孝太郎の背後から綾人が覆いかぶさるような格好となっていた。偶然というよりも必然的に綾人の下腹部が孝太郎の臀部に押し当てられる。
「ん?」と綾人が気付いた。
一体いつからだったのだろうか。綾人の性器もまた勃起していた。屹立していた。
「ははッ」
笑ってしまう。孝太郎の事を、好きでもない相手、しかも同性の綾人に股間を触られて勃起している「変態」だと蔑んでおきながら、自分がチンポをおっ勃てていた。
孝太郎の事情とは違って、物理的な刺激は加えられていないのに、感情のたかぶりだけで勃起してしまっていた。はははははッ。俺の方が余っ程の変態だ。
変態になっている。染まっている。したからだ。孝太郎をいじめたからこうなっている。そうだ。やっぱり。いじめている側も、いじめられている側と同様に、いや、もしかしたらそれ以上に腐っていくのだ。堕ちているのだ。
今日までの十五ヶ月間を正当に仕返す為には、綾人もこれから十五ヶ月の時間を費やして孝太郎をいじめ倒すべきなのかもしれないが、正直を言えば、
「面倒だ」
綾人が望んだ「正当な仕返し」であったとしても、綾人にとって他人をいじめるという行為は苦痛でしかなかった。とても退屈なものだった。綾人にとっては実に喜ばしい事に、誰に強制されたわけでもなく自分の意思で綾人の事をいじめ続けてくれていた孝太郎とは精神的な構造がまるで違っているようだった。
少しも楽しくはなかった。この先、十五ヶ月もこのような行為に付き合わされるのかと思うとげんなりしてしまう。
これではどちらがいじめているのか分からなくなってしまう。
「時間の無駄だな」
「え?」と振り返ろうとした孝太郎の後ろ首をぐいっと強引に綾人が押し落とした。駄犬に伏せを強要するような格好と言えば分かり易いだろうか。
「ふぐッ」と孝太郎が妙な声を漏らす。
孝太郎の右の頬が地面に触れていた。真後ろに居た綾人には知りようもない情報だが仮に知っていたとして何を思っただろうか。
まるでシーソーだ。頭を下げさせられた孝太郎は背筋を通って反対側の尻を高々と上げていた。ズボンと下着は膝まで下げられており、孝太郎は丸出しの下半身を夜風に晒していた。良い格好だ。
綾人にはこの仕返し行為をだらだらとし続けるつもりがなかった。それでも、された分だけはきっちりと返しておかなければいけない。そこを譲るつもりもなかった。ではどうするか。十五ヶ月分を短時間に押し込める。適当に凝縮した行為でもって、この仕返しをさっさと終わらせる。
綾人は地面に膝をつくと、ちょうどの高さとなった孝太郎の尻に自身の下腹部を強く押し当てた。
「んあッ?」
何をされているのか分からないのだろう孝太郎が驚きの声を上げる。
孝太郎の首を押さえた直後だった。綾人もまた自身のズボンと下着とを太ももまで下ろしてその下半身を露出させていた。
いじめている側、いじめられている側、綾人と孝太郎は共に屋外で下半身を丸出しにしていた。変態だ。変態同士だった。
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