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第三話 一海
第三話 一海④
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小西は責任を取って自分の指を詰めるとまで言ったので、その気概に免じてお咎めなしにした。ただ今後同じことが起きないように、厳しく指導するよう命じたので、今は小姑のように掃除一つとっても煩いくらいに怒声が飛んでいる。
「頭、お疲れ様です」
「お疲れ様ですっ!」
桜庭の頭を小西が押さえつけるようにして頭を下げさせ、「早くドア開けねえか!」とぼーっとドアの前に突っ立っていた桜庭を怒鳴りつける。
事務所に入ると、普段集まることのない人数、二十数名が雁首揃えて待っていて、一斉に挨拶する。
「うるせえな。狭い部屋で大声出すな」
何に対してそんなに力んでるんだかと舌打ちをして、一番奥の椅子に座る。ジャケットのポケットから煙草を出すと、近くにいた新しい金庫番の立浪がライターの火を差し出した。
そういえば流星にやったコートにジッポーを入れたままだった。さっき行った時に持ってくるんだった、と思った瞬間、先日の流星のあられもない姿と喘ぎ声を思い出してしまった。
あれは一体何だったのか。流星に尋ねるわけにもいかないから、状況から判断するしかないが、どう客観的に捉えようとしても俺を想いながらマスを掻いていたとしか考えられない。
恋愛感情かどうかは置いておくとしても、少なくとも俺に性的な興奮を抱いているのは確かだ。尻の孔を弄っていたということは、俺に抱かれたいと思っている――?
俺の下で身悶えながら淫らな声を上げる流星の姿をつい思い浮かべてしまった。深く煙を吸い込み、ゆっくりと息を吐き出しながら背もたれに身体を預け、天井を見上げる。
ふっと視線を正面に戻すと厳めしい顔の男達が、俺が口を開くのを待ってじっと俺を見詰めていた。今はこんなことを考えている場合じゃない。
「特に集まれって言った覚えはねえが、お前らが聞きたいのは会合の話だろ」
煙草をもう一口吸った後、灰皿に押し付ける。この中の何人かは戦争の狼煙が上がるのを固唾を飲んで待っているのだろう。
「昨晩組長辻倉一治が倒れた。意識不明の重体で、予断を許さない状態だ。俺達はその容態を共有し合った」
「……跡目の話が出たって聞いてます!」
若手の中では出世を狙っている若中の一人が、前のめりになって口を挟んだ。昼間俺が事務所に来た時から、何やら下の者を動かしている風だったから、口が軽そうなあの父子か、杉内さんの筋から情報を得たのだろう。
「俺達は頭に組長になってもらいてぇんです!」
「ああ、実質頭が組を取り仕切ってんすから当然だ!」
「組長が若頭に選んだんだから、跡目って言ってるも同然っすよ!」
熱を上げ始めるのを見て、目の前の机を拳で殴りつけた。鈍い音がして一瞬にして静まり返る。
「親父が健在のうちから誰が組長だって? ふざけんじゃねえぞ、てめえら。親父への仁義を通さねえで勝手なことぬかすんじゃねえ」
沈黙を破ったのは林田だった。目に怒りの炎を宿して、俺を真っ直ぐに見詰める。
「しかし頭! その話を出したのは叔父貴と伊玖磨さんだっていうじゃないですか! 叔父貴は前の跡目争いで負けて、親父とは因縁がある。だから伊玖磨さんを跡目にするためにって若い奴ら集めてんすよ!」
「頭、お疲れ様です」
「お疲れ様ですっ!」
桜庭の頭を小西が押さえつけるようにして頭を下げさせ、「早くドア開けねえか!」とぼーっとドアの前に突っ立っていた桜庭を怒鳴りつける。
事務所に入ると、普段集まることのない人数、二十数名が雁首揃えて待っていて、一斉に挨拶する。
「うるせえな。狭い部屋で大声出すな」
何に対してそんなに力んでるんだかと舌打ちをして、一番奥の椅子に座る。ジャケットのポケットから煙草を出すと、近くにいた新しい金庫番の立浪がライターの火を差し出した。
そういえば流星にやったコートにジッポーを入れたままだった。さっき行った時に持ってくるんだった、と思った瞬間、先日の流星のあられもない姿と喘ぎ声を思い出してしまった。
あれは一体何だったのか。流星に尋ねるわけにもいかないから、状況から判断するしかないが、どう客観的に捉えようとしても俺を想いながらマスを掻いていたとしか考えられない。
恋愛感情かどうかは置いておくとしても、少なくとも俺に性的な興奮を抱いているのは確かだ。尻の孔を弄っていたということは、俺に抱かれたいと思っている――?
俺の下で身悶えながら淫らな声を上げる流星の姿をつい思い浮かべてしまった。深く煙を吸い込み、ゆっくりと息を吐き出しながら背もたれに身体を預け、天井を見上げる。
ふっと視線を正面に戻すと厳めしい顔の男達が、俺が口を開くのを待ってじっと俺を見詰めていた。今はこんなことを考えている場合じゃない。
「特に集まれって言った覚えはねえが、お前らが聞きたいのは会合の話だろ」
煙草をもう一口吸った後、灰皿に押し付ける。この中の何人かは戦争の狼煙が上がるのを固唾を飲んで待っているのだろう。
「昨晩組長辻倉一治が倒れた。意識不明の重体で、予断を許さない状態だ。俺達はその容態を共有し合った」
「……跡目の話が出たって聞いてます!」
若手の中では出世を狙っている若中の一人が、前のめりになって口を挟んだ。昼間俺が事務所に来た時から、何やら下の者を動かしている風だったから、口が軽そうなあの父子か、杉内さんの筋から情報を得たのだろう。
「俺達は頭に組長になってもらいてぇんです!」
「ああ、実質頭が組を取り仕切ってんすから当然だ!」
「組長が若頭に選んだんだから、跡目って言ってるも同然っすよ!」
熱を上げ始めるのを見て、目の前の机を拳で殴りつけた。鈍い音がして一瞬にして静まり返る。
「親父が健在のうちから誰が組長だって? ふざけんじゃねえぞ、てめえら。親父への仁義を通さねえで勝手なことぬかすんじゃねえ」
沈黙を破ったのは林田だった。目に怒りの炎を宿して、俺を真っ直ぐに見詰める。
「しかし頭! その話を出したのは叔父貴と伊玖磨さんだっていうじゃないですか! 叔父貴は前の跡目争いで負けて、親父とは因縁がある。だから伊玖磨さんを跡目にするためにって若い奴ら集めてんすよ!」
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