13 / 50
第三話 一海
第三話 一海③
しおりを挟む
「ライブ会場まで迎えに行く。何時頃に終わりそうだ?」
他のバンドがリハーサル中なのか、わずかに音楽が聴こえてくる。今控室にいるのだろう。
「えっと……出演順、最後の方だから……十時くらいかな」
「わかった。場所は後で送っておいてくれ」
電話を切ると、「大丈夫」と言っていたはずの賢太が心配そうに俺の顔色を窺っている。
「ライブ会場にいるらしい。終わる予定の十時頃に迎えに行く」
「よかった! 了解っす」
賢太はテーブルに残された食器をキッチンに持っていき手早く洗っていく。
「この後どうします? 金関係は昨日で終わってますし、このままここで時間潰しますか?」
「いや、一度事務所に戻る。今日の執行三役の集まりのことを気にしてる奴も多い。耳の早い奴のところには流星のことも入ってきてるだろう。早とちりした馬鹿に変な気起こされても困る。先手を打っておかねえとな」
古株なら俺の指示なく動くことはないだろうが、血気盛んな若い衆は郁次・伊玖磨が動き出していることを知れば、遅れを取られまいと焦って行動を起こすかもしれない。そうなれば、それこそ二人の思う壺だ。戦争の火種を作られて、気付いた時には俺が制御できないほど大きな炎になっている。
三十三年前も、結果的に一部の構成員の暴走によって俺の父親が命を落とすことになったが、そもそもの火種を作ったのは、広げたのは誰だったのか。
話を聞くに、少なくとも当時若頭補佐だった郁次は、争いを助長していたと聞いている。直接命じていなくても、下の者達を煽動し、その結果として起こった事件だ。
その責を今も舎弟頭という立場にあることから、充分に負ったとは言えない。親父が破門にしなかったのは、やはり血縁からの甘さだろうと思う。
賢太と流星の家を後にし、事務所に向かった。その道中、スマホを見ると流星からライブ会場の場所が送られてきていた。伊玖磨の島のど真ん中だ。そうなると、俺が直接動くと言いがかりをつけられかねない。今は小さな綻びでも、簡単に戦争に広がる懸念がある。
「場所が悪過ぎる。今伊玖磨の島に俺がうろつくと角が立ちそうだ」
「それなら俺だけで行きますよ。兄貴を事務所に送ったら、俺がそのまま会場の近くで待機しときますから。流星拾ったら、事務所の近くまで向かいますんで」
幸いにも伊玖磨の島と俺の島は隣接していて、事務所からもそれほど遠くない。早めに会場の前に着いていれば奴に先に手を打たれることもないだろう。
「何か怪しい動きがあったら随時連絡しろ」
事務所の入っている雑居ビルの前で車を降りる。暗い階段を上り、二階に着くと最近入ったばかりの若い桜庭という男が三年目の小西に怒鳴られていた。
小西は桜庭の教育担当だが、どうにも桜庭は頭が足りないらしく、先日の金が持ち逃げされた時も、桜庭が事務所に泊まり込んでいたが、侵入者に全く気付かずに金庫を開けられたのだった。
他のバンドがリハーサル中なのか、わずかに音楽が聴こえてくる。今控室にいるのだろう。
「えっと……出演順、最後の方だから……十時くらいかな」
「わかった。場所は後で送っておいてくれ」
電話を切ると、「大丈夫」と言っていたはずの賢太が心配そうに俺の顔色を窺っている。
「ライブ会場にいるらしい。終わる予定の十時頃に迎えに行く」
「よかった! 了解っす」
賢太はテーブルに残された食器をキッチンに持っていき手早く洗っていく。
「この後どうします? 金関係は昨日で終わってますし、このままここで時間潰しますか?」
「いや、一度事務所に戻る。今日の執行三役の集まりのことを気にしてる奴も多い。耳の早い奴のところには流星のことも入ってきてるだろう。早とちりした馬鹿に変な気起こされても困る。先手を打っておかねえとな」
古株なら俺の指示なく動くことはないだろうが、血気盛んな若い衆は郁次・伊玖磨が動き出していることを知れば、遅れを取られまいと焦って行動を起こすかもしれない。そうなれば、それこそ二人の思う壺だ。戦争の火種を作られて、気付いた時には俺が制御できないほど大きな炎になっている。
三十三年前も、結果的に一部の構成員の暴走によって俺の父親が命を落とすことになったが、そもそもの火種を作ったのは、広げたのは誰だったのか。
話を聞くに、少なくとも当時若頭補佐だった郁次は、争いを助長していたと聞いている。直接命じていなくても、下の者達を煽動し、その結果として起こった事件だ。
その責を今も舎弟頭という立場にあることから、充分に負ったとは言えない。親父が破門にしなかったのは、やはり血縁からの甘さだろうと思う。
賢太と流星の家を後にし、事務所に向かった。その道中、スマホを見ると流星からライブ会場の場所が送られてきていた。伊玖磨の島のど真ん中だ。そうなると、俺が直接動くと言いがかりをつけられかねない。今は小さな綻びでも、簡単に戦争に広がる懸念がある。
「場所が悪過ぎる。今伊玖磨の島に俺がうろつくと角が立ちそうだ」
「それなら俺だけで行きますよ。兄貴を事務所に送ったら、俺がそのまま会場の近くで待機しときますから。流星拾ったら、事務所の近くまで向かいますんで」
幸いにも伊玖磨の島と俺の島は隣接していて、事務所からもそれほど遠くない。早めに会場の前に着いていれば奴に先に手を打たれることもないだろう。
「何か怪しい動きがあったら随時連絡しろ」
事務所の入っている雑居ビルの前で車を降りる。暗い階段を上り、二階に着くと最近入ったばかりの若い桜庭という男が三年目の小西に怒鳴られていた。
小西は桜庭の教育担当だが、どうにも桜庭は頭が足りないらしく、先日の金が持ち逃げされた時も、桜庭が事務所に泊まり込んでいたが、侵入者に全く気付かずに金庫を開けられたのだった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
[R18]エリート一家の長兄が落ちこぼれ弟を(性的に)再教育する話
空き缶太郎
BL
(※R18・完結済)エリート一家・皇家に生まれた兄と弟。
兄は歴代の当主達を遥かに上回る才能の持ち主であったが、弟は対象的に優れた才能を持たない凡人であった。
徹底的に兄と比較され続けた結果グレてしまった弟。
そんな愚弟に現当主となった兄は…
(今回試験的にタイトルを長文系というか内容そのまま系のやつにしてみました)
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
純粋な男子高校生はヤクザの組長に無理矢理恋人にされてから淫乱に変貌する
麟里(すずひ改め)
BL
《あらすじ》
ヤクザの喧嘩を運悪く目撃し目を付けられてしまった普通の高校生、葉村奏はそのまま連行されてしまう。
そこで待っていたのは組長の斧虎寿人。
奏が見た喧嘩は 、彼の恋人(男)が敵対する組の情報屋だったことが分かり本人を痛めつけてやっていたとの話だった。
恋人を失って心が傷付いていた寿人は奏を試してみるなどと言い出す。
女も未体験の奏は、寿人に抱かれて初めて自分の恋愛対象が男だと自覚する。
とはいっても、初めての相手はヤクザ。
あまり関わりたくないのだが、体の相性がとても良く、嫌だとも思わない……
微妙な関係の中で奏は寿人との繋がりを保ち続ける。
ヤクザ×高校生の、歳の差BL 。
エロ多め。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる