流れる星は海に還る

藤間留彦

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第三話 一海

第三話 一海③

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「ライブ会場まで迎えに行く。何時頃に終わりそうだ?」

 他のバンドがリハーサル中なのか、わずかに音楽が聴こえてくる。今控室にいるのだろう。

「えっと……出演順、最後の方だから……十時くらいかな」
「わかった。場所は後で送っておいてくれ」

 電話を切ると、「大丈夫」と言っていたはずの賢太が心配そうに俺の顔色を窺っている。

「ライブ会場にいるらしい。終わる予定の十時頃に迎えに行く」
「よかった! 了解っす」

 賢太はテーブルに残された食器をキッチンに持っていき手早く洗っていく。

「この後どうします? 金関係は昨日で終わってますし、このままここで時間潰しますか?」
「いや、一度事務所に戻る。今日の執行三役の集まりのことを気にしてる奴も多い。耳の早い奴のところには流星のことも入ってきてるだろう。早とちりした馬鹿に変な気起こされても困る。先手を打っておかねえとな」

 古株なら俺の指示なく動くことはないだろうが、血気盛んな若い衆は郁次・伊玖磨が動き出していることを知れば、遅れを取られまいと焦って行動を起こすかもしれない。そうなれば、それこそ二人の思う壺だ。戦争の火種を作られて、気付いた時には俺が制御できないほど大きな炎になっている。

 三十三年前も、結果的に一部の構成員の暴走によって俺の父親が命を落とすことになったが、そもそもの火種を作ったのは、広げたのは誰だったのか。
 話を聞くに、少なくとも当時若頭補佐だった郁次は、争いを助長していたと聞いている。直接命じていなくても、下の者達を煽動し、その結果として起こった事件だ。
 その責を今も舎弟頭という立場にあることから、充分に負ったとは言えない。親父が破門にしなかったのは、やはり血縁からの甘さだろうと思う。

 賢太と流星の家を後にし、事務所に向かった。その道中、スマホを見ると流星からライブ会場の場所が送られてきていた。伊玖磨の島のど真ん中だ。そうなると、俺が直接動くと言いがかりをつけられかねない。今は小さな綻びでも、簡単に戦争に広がる懸念がある。

「場所が悪過ぎる。今伊玖磨の島に俺がうろつくと角が立ちそうだ」
「それなら俺だけで行きますよ。兄貴を事務所に送ったら、俺がそのまま会場の近くで待機しときますから。流星拾ったら、事務所の近くまで向かいますんで」

 幸いにも伊玖磨の島と俺の島は隣接していて、事務所からもそれほど遠くない。早めに会場の前に着いていれば奴に先に手を打たれることもないだろう。

「何か怪しい動きがあったら随時連絡しろ」

 事務所の入っている雑居ビルの前で車を降りる。暗い階段を上り、二階に着くと最近入ったばかりの若い桜庭という男が三年目の小西に怒鳴られていた。
 小西は桜庭の教育担当だが、どうにも桜庭は頭が足りないらしく、先日の金が持ち逃げされた時も、桜庭が事務所に泊まり込んでいたが、侵入者に全く気付かずに金庫を開けられたのだった。
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