流れる星は海に還る

藤間留彦

文字の大きさ
上 下
3 / 50
第一話 嵐の前夜

第一話 嵐の前夜③

しおりを挟む
 「ディープ・ブルー」は若頭補佐の辻倉伊玖磨いくまの島にある。親父の弟分であり実の弟でもある舎弟頭辻倉郁次いくじ、その実の息子だ。

 俺とは従兄弟に当たるが、昔からかつての抗争の因縁のためか、本人の気質か、対抗心を剥き出しにされるのが面倒で、敬遠している。藤本さんも叔父貴とは反りが合わないと言っていたから、その息子の伊玖磨とも親しかった記憶はない。「ディープ・ブルー」に行ったのは、薬関連のことを調べるためだろうか。

「また十万円もおひねり貰っちゃった」
「ちゃんと礼は言ったのか?」
「当り前じゃん! またお金だけ預けて帰ろうとするからさ、慌てて追いかけたよ」

 ――あの人は流星を甘やかし過ぎでは、と思うが、賢太にそう言うと「兄貴がそれ言います?」と顔を引き攣らせていた。俺自身は甘やかしているつもりはないので、藤本さんも同じなのかもしれない。

 そうして流星と他愛ない会話をして酒を飲んでいたら、賢太から下に着いたというメールが届いた。あっという間に二時間が経ってしまっていた。

「そろそろ行かねぇと」
「えー、泊まっていけばいいのに」

 立ち上がる俺を不満そうに流星が口を尖らせて見上げる。

「明日早いんだ。また今度な」
「最近そればっか」

 悲し気に目を伏せる流星に、笑みを浮かべて頭を撫でた。俺も二十年前のまま立場が変わらなければ、流星と二人の暮らしをしていたかった。しかし、現実はそうはいかない。俺が辻倉組の若頭である以上、流星の側に居続けることは叶わない。

 コートを手に取り、サングラスを胸ポケットから取り出すと、流星がコートの袖を掴んだ。

「じゃあこのコートちょうだい」

「気に入ったのか?」
「うん。かっこいいし」

 流星が物を強請るのは珍しい。金に困らない生活をさせているせいもあるが、幼い頃から物欲があまりなかった。物よりも、どこに行きたいとか、事に対する要求の方が主だった。

「構わんが、こんな古より――」
「やった! 兄ちゃんありがと!」

 新しいのを買ってやろうと言おうとしたが、満面の笑みを浮かべる流星に言葉を切った。機嫌を直してくれてよかった。

「次はいつ? 来週?」

 玄関で靴を履く俺の背に、流星が声を掛ける。金の問題は今日でケリがついたから、しばらくはそれほど忙しくないだろう。

「二、三日中に顔を出せると思うから、また連絡するよ」

 振り返ると流星が俺に抱き着いて「うん、待ってる」と呟く。抱き締め返すと離れがたくなってしまうと手を宙に浮かべたままでいると、流星がさっと離れた。

「いってらっしゃい」
「ああ、またな」

 流星に笑顔で送り出されて、マンションを出る。冷たい夜風が頬を撫でた。リュックを背負った配達業者の男とすれ違う。俺は玄関前に停まる車に乗り込んだ。

「あれ兄貴、コートは?」

 賢太がバックミラー越しに俺の服装を見て不思議そうに言う。と、後部座席に転がっている煙草を見てコートのポケットにジッポーが入っていることを思い出した。父親の使っていた大事なものだ。

「忘れ物だ。少し待ってろ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷酷組長の狂愛

さてぃー
BL
関東最大勢力神城組組長と無気力美男子の甘くて焦ったい物語 ※はエロありです

[R18]エリート一家の長兄が落ちこぼれ弟を(性的に)再教育する話

空き缶太郎
BL
(※R18・完結済)エリート一家・皇家に生まれた兄と弟。 兄は歴代の当主達を遥かに上回る才能の持ち主であったが、弟は対象的に優れた才能を持たない凡人であった。 徹底的に兄と比較され続けた結果グレてしまった弟。 そんな愚弟に現当主となった兄は… (今回試験的にタイトルを長文系というか内容そのまま系のやつにしてみました)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

とろけてなくなる

瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。 連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。 雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。  無骨なヤクザ×ドライな少年。  歳の差。

【完結】【番外編】ナストくんの淫らな非日常【R18BL】

ちゃっぷす
BL
『清らかになるために司祭様に犯されています』の番外編です。 ※きれいに終わらせたい方は本編までで留めておくことを強くオススメいたします※ エロのみで構成されているためストーリー性はありません。 ゆっくり更新となります。 【注意点】 こちらは本編のパラレルワールド短編集となる予定です。 本編と矛盾が生じる場合があります。 ※この世界では「ヴァルア以外とセックスしない」という約束が存在していません※ ※ナストがヴァルア以外の人と儀式をすることがあります※ 番外編は本編がベースになっていますが、本編と番外編は繋がっておりません。 ※だからナストが別の人と儀式をしても許してあげてください※ ※既出の登場キャラのイメージが壊れる可能性があります※ ★ナストが作者のおもちゃにされています★ ★きれいに終わらせたい方は本編までで留めておくことを強くオススメいたします★ ※基本的に全キャラ倫理観が欠如してます※ ※頭おかしいキャラが複数います※ ※主人公貞操観念皆無※ 【ナストと非日常を過ごすキャラ】(随時更新します) ・リング ・医者 ・フラスト、触手系魔物、モブおじ2人(うち一人は比較的若め) ・ヴァルア 【以下登場性癖】(随時更新します) ・【ナストとリング】ショタおに、覗き見オナニー ・【ナストとお医者さん】診察と嘯かれ医者に犯されるナスト ・【ナストとフラスト】触手責め、モブおじと3P、恋人の兄とセックス ・【ナストとフラストとヴァルア】浮気、兄弟×主人公(3P) ・【ナストとヴァルア】公開オナニー

処理中です...