2 / 50
第一話 嵐の前夜
第一話 嵐の前夜②
しおりを挟む
二十年以上少しも変わらない弟の出迎えに、安堵の溜息を吐く。賢太は二十三の大人だと言うが、俺にとっては幼い二歳の流星がそのまま背が伸び男性的な身体つきになったという印象だった。
「御飯食べてきた? 肉じゃがあるよ」
「大丈夫だ。ありがとな」
頭を撫でてやると気持ちよさそうにアンバーの目を細め、満足そうな笑顔で俺から離れる。ちなみにその肉じゃがは賢太が昼頃作りに行ったと言っていたものだろう。
「酒なんか飲む?」
「リュウが飲むなら飲むが」
「じゃあビール半分こしよ!」
コートとジャケットを脱ぎハンガーラックに掛けて、ラグマットの上に座る。流星が500㎖の缶ビールとグラスをテーブルの上に置き、俺の斜め前に座った。流星の食事の世話をしていた頃からの俺達の定位置だ。
「兄ちゃん、今日もお疲れ!」
ビールを注いだグラスを俺に手渡し、自分は缶のままでこつんと当てる。流星の笑顔と労いの言葉で、数時間前の面倒事などどうでも良くなった。
「今日は何してたんだ?」
「いつも通りボイストレーニング行って、夜にクラブのイベントで歌ってきたよ」
流星は肩ほどまで伸ばしたペールブルーの髪を耳にかけ、ビールを半分くらい一気にごくごくと喉を鳴らして飲む。少し髪に寝癖がついているから、俺が帰ってくるまでソファでうたたねをしていたのだろう。
「そうか。俺も久々にリュウの歌が聴きたかったな」
「兄ちゃん来たら緊張するからヤだ!」
そうはっきり言われると正直傷付く。が、流星が俺の前だと張り切って空回りするのは、保育園の運動会のかけっこで顔面から転倒してから知っているから、アマチュアながら人前で歌うようになってからは特に、流星のために仕事場には行かないようにしていた。夜は都合がつかないことが多い、というのもあるが。
流星は物心のつく頃から、歌うことが好きだった。将来の夢を「歌手」と幼稚園に通う頃には言っていた。母親が高級クラブで歌手をしていたから、遺伝なのかもしれない。
「しかし、クラブには可笑しな奴等もいる。気を付けろよ」
「大丈夫だよ。心配し過ぎだって」
俺が目を光らせていられなくなってから、できるだけ賢太には流星の周囲の人間に注意を配るようには言っている。
が、最近辻倉組の島で、出どころの分からない薬が出回っているという話が、ちらほらと上がってきている。若い衆に調べさせているが、未だ尻尾が掴めないままだ。
クラブなどはそういった輩の商売の温床になりがちだ。流星自ら手を出すとは思っていないが、仕事柄出入りすることが多い分、トラブルに巻き込まれないとも限らない。
「そーだ、今日『ディープ・ブルー』だったんだけど、兄ちゃんの知り合いの人来てたよ。藤本さん? だっけ?」
――藤本仁吉。組長である辻倉一治が、兄弟盃を交わした三人のうちの一人。昔から親父の右腕としてあえて要職に就かずに務めてきた男だ。俺が組内で親父の次に信頼を置く人物でもある。
「御飯食べてきた? 肉じゃがあるよ」
「大丈夫だ。ありがとな」
頭を撫でてやると気持ちよさそうにアンバーの目を細め、満足そうな笑顔で俺から離れる。ちなみにその肉じゃがは賢太が昼頃作りに行ったと言っていたものだろう。
「酒なんか飲む?」
「リュウが飲むなら飲むが」
「じゃあビール半分こしよ!」
コートとジャケットを脱ぎハンガーラックに掛けて、ラグマットの上に座る。流星が500㎖の缶ビールとグラスをテーブルの上に置き、俺の斜め前に座った。流星の食事の世話をしていた頃からの俺達の定位置だ。
「兄ちゃん、今日もお疲れ!」
ビールを注いだグラスを俺に手渡し、自分は缶のままでこつんと当てる。流星の笑顔と労いの言葉で、数時間前の面倒事などどうでも良くなった。
「今日は何してたんだ?」
「いつも通りボイストレーニング行って、夜にクラブのイベントで歌ってきたよ」
流星は肩ほどまで伸ばしたペールブルーの髪を耳にかけ、ビールを半分くらい一気にごくごくと喉を鳴らして飲む。少し髪に寝癖がついているから、俺が帰ってくるまでソファでうたたねをしていたのだろう。
「そうか。俺も久々にリュウの歌が聴きたかったな」
「兄ちゃん来たら緊張するからヤだ!」
そうはっきり言われると正直傷付く。が、流星が俺の前だと張り切って空回りするのは、保育園の運動会のかけっこで顔面から転倒してから知っているから、アマチュアながら人前で歌うようになってからは特に、流星のために仕事場には行かないようにしていた。夜は都合がつかないことが多い、というのもあるが。
流星は物心のつく頃から、歌うことが好きだった。将来の夢を「歌手」と幼稚園に通う頃には言っていた。母親が高級クラブで歌手をしていたから、遺伝なのかもしれない。
「しかし、クラブには可笑しな奴等もいる。気を付けろよ」
「大丈夫だよ。心配し過ぎだって」
俺が目を光らせていられなくなってから、できるだけ賢太には流星の周囲の人間に注意を配るようには言っている。
が、最近辻倉組の島で、出どころの分からない薬が出回っているという話が、ちらほらと上がってきている。若い衆に調べさせているが、未だ尻尾が掴めないままだ。
クラブなどはそういった輩の商売の温床になりがちだ。流星自ら手を出すとは思っていないが、仕事柄出入りすることが多い分、トラブルに巻き込まれないとも限らない。
「そーだ、今日『ディープ・ブルー』だったんだけど、兄ちゃんの知り合いの人来てたよ。藤本さん? だっけ?」
――藤本仁吉。組長である辻倉一治が、兄弟盃を交わした三人のうちの一人。昔から親父の右腕としてあえて要職に就かずに務めてきた男だ。俺が組内で親父の次に信頼を置く人物でもある。
11
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる