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第三章 反乱因子
第三十二話
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「本当に良かったのか」
「何のこと?」
廃工場の生活スペースに戻り、ベッドの周りに散乱している服を掻き集める。ユンが俺と一定の距離を取ったまま離れたところに立っているので、ユンの服を投げ渡した。
「ユンはαだ。今から俺達がやろうとしているのは、城への反逆、つまりお前にとっては父親を引き摺り下ろすことになる」
「血が繋がっているだけだよ。今日の入隊式が初めてまともに顔を見た機会だった。エイクと抱いている感情は特別変わらない」
作業着のズボンを穿き、上着に袖を通す。ユンもシャツのボタンを留め、上着を羽織った。
「僕にとって重要なのは、エイクが捕まるのを何としてでも阻止すること。そして僕は君の選んだ道を共に行くだけだ。エイクと一緒に居られるなら、総帥も女王も城も、どうなったって構わない」
ユンは自分を「可笑しい」のだと言っていた。昔から痛みに鈍感で、傷つくことを厭わない危なっかしいところがあった。俺の痛みや苦しみには、人一倍敏感なのに。
きっと、ユンは自分のことを好きではないのだろう。血によるものなのか、周りの影響なのかは分からないけれど。
「ユン……俺はお前が、俺のためなら簡単に命を捨てそうで怖いよ」
真面目に言ったつもりだったが、ユンは俺の言葉を聞いて笑った。まるでそのつもりだと言わんばかりで、背筋が寒くなる。
近付くのはまずいと頭では理解していた。それでも身体が動いていた。
「なあ、俺にとってはお前が何より大事なんだよ……頼むから俺を独りにしないでくれ」
俺はユンにしがみつくように抱き着いた。一瞬ユンは戸惑っていたが、優しくその大きな掌で俺の頭を撫でて強く抱き締めてくれた。
「……僕が居なくなったらエイクが悲しいって言うなら、僕は僕の命を守らないといけないね」
「ああ、約束しろ。ずっと俺と一緒に居るって」
「うん……約束するよ」
と、ユンは唐突に俺から身体を離すと、慌てた様子で俺に背を向けるようにして椅子に座った。気のせいでなければ、下腹部の辺りに硬いものの感触がしたような。
「……ユンってさ、ソッチの方も優秀なんだな」
背中を向けていても耳から首まで真っ赤になっているから、何も隠せていない。
もし今が非常事態で無かったら、ユンのしたいようにさせてやるのもやぶさかでなかったのだが、リェンに釘を刺されたこともあるし、そういう訳にもいかない。一つ思いついたことがあって、どうしても夜までに準備をする必要があった。
「悪いんだけど、手伝ってくんねぇ?」
「そっ、それはさすがにもう駄目だよ、エイク……!」
何のことだと思ったのか、焦ったように俺を振り返るユンの横を通り過ぎて、足元に落ちていた工具入れを拾い上げた。
「城攻めの準備だよ、むっつりスケベくん」
まるで警報機みたいに顔を真っ赤にしているユンを見て、腹を抱えて笑う。
「……手伝うって、具体的に何を?」
「ああ、細かい所は俺がやるから大丈夫。ま、ユンなら器用だから簡単だろ。上手くいけば量産できるかもな」
「量産……?」
俺は腕に付けている時計を見せる。位置情報を撹乱するために低周波の電磁波発生装置付きの、だ。
「良いことを思い付いたんだ。これを使って、数時間で城を落とす方法だ。面白そうだろ?」
思わず笑みを浮かべると、ユンも釣られて「うん、それは面白そうだね」と笑う。ユンが「可笑しい」のなら、俺も相当に「可笑しい」のだ。
これから働く悪事を思って笑う俺達は、似た者同士なのだと改めて思った。
「何のこと?」
廃工場の生活スペースに戻り、ベッドの周りに散乱している服を掻き集める。ユンが俺と一定の距離を取ったまま離れたところに立っているので、ユンの服を投げ渡した。
「ユンはαだ。今から俺達がやろうとしているのは、城への反逆、つまりお前にとっては父親を引き摺り下ろすことになる」
「血が繋がっているだけだよ。今日の入隊式が初めてまともに顔を見た機会だった。エイクと抱いている感情は特別変わらない」
作業着のズボンを穿き、上着に袖を通す。ユンもシャツのボタンを留め、上着を羽織った。
「僕にとって重要なのは、エイクが捕まるのを何としてでも阻止すること。そして僕は君の選んだ道を共に行くだけだ。エイクと一緒に居られるなら、総帥も女王も城も、どうなったって構わない」
ユンは自分を「可笑しい」のだと言っていた。昔から痛みに鈍感で、傷つくことを厭わない危なっかしいところがあった。俺の痛みや苦しみには、人一倍敏感なのに。
きっと、ユンは自分のことを好きではないのだろう。血によるものなのか、周りの影響なのかは分からないけれど。
「ユン……俺はお前が、俺のためなら簡単に命を捨てそうで怖いよ」
真面目に言ったつもりだったが、ユンは俺の言葉を聞いて笑った。まるでそのつもりだと言わんばかりで、背筋が寒くなる。
近付くのはまずいと頭では理解していた。それでも身体が動いていた。
「なあ、俺にとってはお前が何より大事なんだよ……頼むから俺を独りにしないでくれ」
俺はユンにしがみつくように抱き着いた。一瞬ユンは戸惑っていたが、優しくその大きな掌で俺の頭を撫でて強く抱き締めてくれた。
「……僕が居なくなったらエイクが悲しいって言うなら、僕は僕の命を守らないといけないね」
「ああ、約束しろ。ずっと俺と一緒に居るって」
「うん……約束するよ」
と、ユンは唐突に俺から身体を離すと、慌てた様子で俺に背を向けるようにして椅子に座った。気のせいでなければ、下腹部の辺りに硬いものの感触がしたような。
「……ユンってさ、ソッチの方も優秀なんだな」
背中を向けていても耳から首まで真っ赤になっているから、何も隠せていない。
もし今が非常事態で無かったら、ユンのしたいようにさせてやるのもやぶさかでなかったのだが、リェンに釘を刺されたこともあるし、そういう訳にもいかない。一つ思いついたことがあって、どうしても夜までに準備をする必要があった。
「悪いんだけど、手伝ってくんねぇ?」
「そっ、それはさすがにもう駄目だよ、エイク……!」
何のことだと思ったのか、焦ったように俺を振り返るユンの横を通り過ぎて、足元に落ちていた工具入れを拾い上げた。
「城攻めの準備だよ、むっつりスケベくん」
まるで警報機みたいに顔を真っ赤にしているユンを見て、腹を抱えて笑う。
「……手伝うって、具体的に何を?」
「ああ、細かい所は俺がやるから大丈夫。ま、ユンなら器用だから簡単だろ。上手くいけば量産できるかもな」
「量産……?」
俺は腕に付けている時計を見せる。位置情報を撹乱するために低周波の電磁波発生装置付きの、だ。
「良いことを思い付いたんだ。これを使って、数時間で城を落とす方法だ。面白そうだろ?」
思わず笑みを浮かべると、ユンも釣られて「うん、それは面白そうだね」と笑う。ユンが「可笑しい」のなら、俺も相当に「可笑しい」のだ。
これから働く悪事を思って笑う俺達は、似た者同士なのだと改めて思った。
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