オメガの城

藤間留彦

文字の大きさ
上 下
31 / 45
第三章 反乱因子

第三十一話

しおりを挟む
「……城がお前を血眼になって探しているのは、少なくとも反逆を企てたからじゃねえ。エイクが十三歳までの記憶が無いこと、城の施設に居たこと……恐らくそれらが大きく関わってるはずだ」

 俺に女性器があること、Ωとしての特性が現れたこと。それは偶然ではない。城の隠している真実と密接な関係がある。
 そうでなければ、詳しい罪状も明かさずに指名手配犯として俺を捕まえようとはしないだろう。

「あと、調べればすぐ分かることだから秘密ってほどでもないが……ユンベルト。お前、エイクに言ってないことがあるだろう。ここで言っておいた方が良いと思うぜ」

 突然オリヴァーがユンに話を振ったので、驚いてユンを見る。ユンの方は特に表情に変化はなく、オリヴァーが言った「秘密」をあまり重要な話だという受け止め方はしていないようだった。
 ただ気乗りはしないのか、一つ短く息を吐いた。

「僕の父親は、総帥だ」

 俺達は皆誰が親かなんて知らずに育つ。遺伝的に兄弟に当たるかもしれなくても、β同士では子供は生まれないから、βにとっては、さして意味がないことだからだ。

 しかし、αやΩは血が濃くなることを避けるため、近親での性交を禁じている。つまり親が誰であるかが分かっているのだ。

「総帥はアダムの直系で、今まで四十人以上の子供を作っている。僕はそれほど特別じゃないよ」
「そうは言っても、総帥の息子でαだろ? フォルスターって姓で充分特別なのにさ」

 それで特別じゃないと言うのは、ユンは本当にそう思っているのだろうが、いささか謙遜の度が過ぎて嫌味に聞こえる。

「そろそろ限界だよ、オリヴァー。ここを離れないと」

 リェンが腕時計を見て立ち上がる。オリヴァーも「話し込み過ぎたな」とソファから腰を上げる。

「そうだ、『三十分の自由』について教えてあげるよ。城は一万人のβの位置情報を二回前、つまり一時間前までしか監視対象を除いて保持しないんだ」

 俺とユンは出入り口に向かう二人について行きながら、リェンの話を聞いた。三十分ごとに取得した一万人の人間の位置情報を何時間も保持できるほど、城にはそこに割くだけの余裕がないのだろう。

「監視対象として検知されるのは、自宅や職場以外の場所に一時間以上留まった人物。特に二人以上だと要監視対象として即座に軍人が派遣されるんだけど、それってつまり、最低でも三十分間は同じ場所に留まっても、監視対象にはならないってことになる」
「ということは……二人が三十分間一定の場所に留まった後に、それぞれ別の場所で三十分過ごして、また三十分後に合流すれば、絶対に監視対象にはならないってことか」
「ご名答!」

 だから『三十分の自由』と言う訳か。さすがに測定器の情報だけでは、そこまでの分析はできなかった。
 『GHOST』がどれほど前から活動していたのか分からないが、この法則を見つけ出すにも、組織の人間の犠牲があったことだろう。

「じゃあ、夜にまた情報を掻き集めて戻る。それまでは、ここから動くなよ」
「ああ、分かった」

 リェンが「おれたちがまた来た時には、ちゃんと服着といてよ!」と半裸姿の俺達を茶化すように言って、それぞれ示し合わせたように別々の方向へ去っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

処理中です...