異世界転移は終わらない恋のはじまりでした―救世主レオのノロケ話―

花宮守

文字の大きさ
上 下
30 / 50
第4章 元カレとお世継ぎ問題

第6話

しおりを挟む
「おお! 戻りやがったか皇子」

 黄金の鬣をなびかせた獅子の男が、千騎長の鎧に身を包んだ勇壮な姿でこちらへ大股に歩いてくるところだった。背中にはもちろん、愛用の大剣をかついでいる。

「レオ!」
「おお、黒坊主。見てたぜ~。かっけえ狼になれるようになったじゃねえかよ~。しかも自分ですぐに戻れたみてえだし。やりやがったな!」
「あうっ……。あ、ありがとうございます」

 にかにかと意味深な顔で笑うのもいつも通り。そのままがしがしと頭を撫でられると、ぎゅんっと勝手に体温があがり、バカみたいに嬉しくなってしまう。
 この男はいつでもどんな場面でも「いつも通り」を崩さない。軍のリーダーという立場の人として、これほど頼もしい男もいないだろう。
 と、インテス様がシディの頭から男の手をぺいっと払った。

「……馴れなれしく触るんじゃない。大体だれが『黒坊主』だ失礼な。撤回しろ」
「なんだよー。男の嫉妬はみっともねえぜ~?」
「ふん」

(えっ……。嫉妬?)

 嫉妬と言ったのだろうか、この男。
 まさかインテス様が自分ごときにそんな風に思われるわけがないのに。そう思ったがレオが登場したとたんに口を差しはさめる空気でなくなるのはいつものこと。
 「さあさあ、こっちだ。まずは落ち着こうぜ」とどんどん執務室へと案内され、茶菓など出されて座らされるまで、ひたすらレオとインテス様だけの会話で満たされてしまう。この男のペースに逆らえる者なんてまずいない。

「で? あれからどうなんだ」
「特にどうもしてねえ。神殿の魔導士どもは時々攻撃しちゃあくるが、こっちの魔導士にとっちゃでもねえ。やっぱり《白》と《黒》を認めてるかそうじゃねえかってことは大きいらしいな」
「そうか」
「特にあのマルガリテのおばちゃんな。ありゃあとんでもねえ曲者くせもんだ」
「えっ? どういうことですか」

 びっくりして腰を浮かせかかったシディに、レオはやっぱり意味深な笑みを返した。

「イタチの爺さんの前じゃ盛大に猫かぶってやがったのよ、あのおばちゃん。ま、猫じゃなくてワニなんだけどよー」
「はい?」
 きょとんとしたシディに、レオはそのままの顔で肩をすくめて見せた。
「まあ、とにかくすんげえ攻撃魔法でやんの。物理な俺らの出番なんてありゃしねえわ。あのおばちゃんがちょちょいと水魔法で攻撃するだけで、みーんな尻をからげて逃げだしちまう」
「ふわあ……そうなんですね」
「そーなんだよー。お陰でこちとら運動不足だっつーの。けどまあ、やつらが逃げるのも無理はねえ。あんなえぐい水死なんてしたくねえわな、誰だってよ」

(ううん……すごそう)

 前にも少し見たけれど、あの大瀑布よりも凄い攻撃が連続してやってきたら、どんな猛者でもひとたまりもないだろう。つくづく魔塔を敵に回さなくてよかったと思ってしまう。

「魔塔に入りこんでやがった間者だの暗殺者だのも、ほぼ潰せたしな。今じゃここ以上に安全な場所はねえ。各地に散って地下にもぐってた反皇太子派の連中も、うわさを聞きつけて集まりはじめてんぜー」
「そうなんですか」
「大丈夫なのか? 味方が多いほうがいいとはいえ、身元もわからぬ者らをあまり増やしても──」
 言いかけたインテス様に、レオはぱちんと片目をつぶって見せた。
「問題ねえ。ちゃあんと魔導士どもが高位魔法で心を読んだり、身元調査もしてから入れてる。そこは安心していい。あれをかいくぐれるのはサクライエ本人ぐれえだかんな」
「なるほど」
「もともと反皇帝派だったやつらも多い。あの皇帝、自分は贅沢三昧やらかしといて庶民のこたあそこらのゴミ以下の扱いしかしてこなかったかんな。それがあのボンクラ皇太子になったところで、自分たちの状況がひとつも好転するわけじゃねえ。それどころか、ずっと悪くなるってよーくわかってんだよ、学のねえ庶民だってな」
「あの」
 シディはそこでやっと口を挟めた。
「魔塔に来た人の中には、神殿でスピリタス教を信仰してた人たちもいるんでしょうか」
「おお、けっこういるんだわこれが」

 レオがにかっと笑って説明してくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります

かとらり。
BL
 前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。  勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。  風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。  どうやらその子どもは勇者の子供らしく…

処理中です...