39 / 193
1章 変わる日常
39話 公爵邸での生活(8)
しおりを挟む
そうして目を温めているとベスが何か言いたそうにこちらを見てきていた。目でどうしたのか問うと、あの、と口を開いた。
「セイット様がいらっしゃっているのですが」
「セイットが?
……通して大丈夫よ」
ベスは戻っていくとすぐにセイットを連れて戻ってきた。なぜだろう、嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「こんにちは、ウェルカ!
結果を見ましたか?」
「はい。
初等専門部から入ることになりました。
と言っても学ぶのは基本的に魔法についてになりそうです。
それに、3年間学んだら高等専門部の卒業資格ももらえるみたいです」
「そうですか、僕とほとんど同じですね。
僕は高等専門部から入りますが、魔法の授業は初等専門部からやるみたいです。
これで学園でも一緒にいられますね」
私はそれを望んではいないのですが、とはなんとなく言えず、そうですねとあいまいに返事をしてしまう。それでもセイットは気にしていなさそうだ。
「そうだ、今日はウェルカにこれを渡しに来たのです」
手渡されたのは髪飾りだ。私の瞳に合わせたエメラルドグリーンの石がたくさん使われたものでとても可愛い。
「あの、これは?」
「ぜひ、使ってください。
きっとウェルカに似合います」
そういって私に髪飾りを渡すとセイットは嵐のように去っていってしまった。
「ウェルカ様、夕飯までお茶会の準備をいたしましょう。
新調したばかりですので大丈夫かとは思いますが、今は成長期ですからね。
丈が足りなくなる場合もございますので」
お茶会……。イルナの言葉で嫌なことを思い出した。そう近々同年代の子が集まるお茶会があるのだ。
まだ社交の場に出ない私たちにとってはこれが初めて他家の同年代の子と会う場になる。親同士が仲がいい場合はその前にお互いの家を行き来することはあるみたいだけど、私はそんな人はいない。そう、どんな子たちが来るのか全く分からないのだ。
「それ、行かなきゃダメかしら」
「もちろんです」
すぐにきっぱりと返されてしまうと、さあ行きますよ、と背を押されてしまう。とても動けるようになって成長したイルナだけれど、こういった行動力も成長してしまったのね。
「当日、天気が良いようでしたらこちらの風通しの良いドレスを着て、悪いようでしたらこちらの少々生地が厚くなっているドレスを着ましょう」
淡い紫のドレスと黄色のドレスを前に出すとイルナが紹介していく。たしかにどちらとも最近仕立ててもらった覚えがある。
さあ、来てみてください! というとさっそく今のものを脱がせにかかり、紫のドレスを着せられていた。素早い……。
「丈は大丈夫そうですね。
アクセサリーは何を合わせましょうか」
「そうね、せっかくだからセイットにいただいた髪飾りを使おうかしら。
それだと後はこれとこれかしら」
「とても良いと思います。
手入れをしておきますね」
ワルクゥベ様に教えていただいたことも思い出しながらさっと選ぶとイルナは満足そうにうなずいていた。気に入ってくれたようで何よりです。
黄色のドレスの方も調整はいらなかったようで、早々に開放してもらえて助かりました……。
「セイット様がいらっしゃっているのですが」
「セイットが?
……通して大丈夫よ」
ベスは戻っていくとすぐにセイットを連れて戻ってきた。なぜだろう、嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「こんにちは、ウェルカ!
結果を見ましたか?」
「はい。
初等専門部から入ることになりました。
と言っても学ぶのは基本的に魔法についてになりそうです。
それに、3年間学んだら高等専門部の卒業資格ももらえるみたいです」
「そうですか、僕とほとんど同じですね。
僕は高等専門部から入りますが、魔法の授業は初等専門部からやるみたいです。
これで学園でも一緒にいられますね」
私はそれを望んではいないのですが、とはなんとなく言えず、そうですねとあいまいに返事をしてしまう。それでもセイットは気にしていなさそうだ。
「そうだ、今日はウェルカにこれを渡しに来たのです」
手渡されたのは髪飾りだ。私の瞳に合わせたエメラルドグリーンの石がたくさん使われたものでとても可愛い。
「あの、これは?」
「ぜひ、使ってください。
きっとウェルカに似合います」
そういって私に髪飾りを渡すとセイットは嵐のように去っていってしまった。
「ウェルカ様、夕飯までお茶会の準備をいたしましょう。
新調したばかりですので大丈夫かとは思いますが、今は成長期ですからね。
丈が足りなくなる場合もございますので」
お茶会……。イルナの言葉で嫌なことを思い出した。そう近々同年代の子が集まるお茶会があるのだ。
まだ社交の場に出ない私たちにとってはこれが初めて他家の同年代の子と会う場になる。親同士が仲がいい場合はその前にお互いの家を行き来することはあるみたいだけど、私はそんな人はいない。そう、どんな子たちが来るのか全く分からないのだ。
「それ、行かなきゃダメかしら」
「もちろんです」
すぐにきっぱりと返されてしまうと、さあ行きますよ、と背を押されてしまう。とても動けるようになって成長したイルナだけれど、こういった行動力も成長してしまったのね。
「当日、天気が良いようでしたらこちらの風通しの良いドレスを着て、悪いようでしたらこちらの少々生地が厚くなっているドレスを着ましょう」
淡い紫のドレスと黄色のドレスを前に出すとイルナが紹介していく。たしかにどちらとも最近仕立ててもらった覚えがある。
さあ、来てみてください! というとさっそく今のものを脱がせにかかり、紫のドレスを着せられていた。素早い……。
「丈は大丈夫そうですね。
アクセサリーは何を合わせましょうか」
「そうね、せっかくだからセイットにいただいた髪飾りを使おうかしら。
それだと後はこれとこれかしら」
「とても良いと思います。
手入れをしておきますね」
ワルクゥベ様に教えていただいたことも思い出しながらさっと選ぶとイルナは満足そうにうなずいていた。気に入ってくれたようで何よりです。
黄色のドレスの方も調整はいらなかったようで、早々に開放してもらえて助かりました……。
9
お気に入りに追加
1,212
あなたにおすすめの小説
【完結】夫もメイドも嘘ばかり
横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。
サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。
そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。
夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。
溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
悪役令嬢は冷徹な師団長に何故か溺愛される
未知香
恋愛
「運命の出会いがあるのは今後じゃなくて、今じゃないか? お前が俺の顔を気に入っていることはわかったし、この顔を最大限に使ってお前を落とそうと思う」
目の前に居る、黒髪黒目の驚くほど整った顔の男。
冷徹な師団長と噂される彼は、乙女ゲームの攻略対象者だ。
だけど、何故か私には甘いし冷徹じゃないし言葉遣いだって崩れてるし!
大好きだった乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた事に気がついたテレサ。
断罪されるような悪事はする予定はないが、万が一が怖すぎて、攻略対象者には近づかない決意をした。
しかし、決意もむなしく攻略対象者の何故か師団長に溺愛されている。
乙女ゲームの舞台がはじまるのはもうすぐ。無事に学園生活を乗り切れるのか……!
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる