13 / 26
<ノーブラッド編>
第三話 I
しおりを挟む
腰が痛い。
うっすらと戻った意識の中、紅白は最初にそう思った。
バキバキに固まった身体に鞭を打って、何とか起き上がる。
紅白は自分が地べたにいることを認識すると、ベッドの方を見た。
誰もいない。
「……………落ちたのか?」
紅白は目を覚ましてから、意識がはっきりするまでが遅い方だった。
一階に下りると、何やらいい匂いがした。紅白には昨日料理した記憶がないので、頭上にクエスチョンマークを浮かべながら、リビングに入る。
「あ、おはよー。もう少しで出来るからちょっと待ってて」
そこには天姫がいた。
「……………なんでいる?」
紅白はまだ覚醒しきっていない頭を出来る限り回転させたが、天姫がいる理由がわからなかった。
「なんでって、昨日からいるじゃない。いつまで寝ぼけてんのよ」
天姫は鍋にお玉を入れ、味噌汁の味をチェックする。表情から見るに、いい出来だったようだ。制服の上からつけているエプロンが、どこか新妻のような雰囲気を演出している。
「……………なんかエロいな」
天姫は何も言わず紅白を痛めつけ、やっとのことで紅白の意識は覚醒した。
「あれ?修良今日は弁当なのか?」
四時間目が終わった昼休み、一番前のど真ん中に座る紅白の後ろの席に、弁当を持ってやってきた修良。こういう光景を見ると、能力を持っていると言えど、百年前となんら変わりない普通の高校生の生活だ。
「あぁ。今日はお姉ちゃんがお弁当いるらしくてさ。ついでにって俺のも作ってくれたんだ」
そう言って開けられた二段弁当のおかずのフロアには、所せましとおかずが詰まっていた。冷凍食品も、百年程前に比べ随分とクオリティが上がり、特にお弁当に重宝される時代で、修良のお弁当には、一つも冷凍食品が入っていなかった。すべて手作りのおかずである。
「ほえ~。お前の姉ちゃん料理上手いんだな」
「そう?まぁまずくはないけどね。そういう紅白だって今日はお弁当じゃないか。なんだ?また嫁か?」
「あんなすぐ押しつぶしてくるような暴力嫁は御免だな」
「悪かったわね、暴力嫁で」
聞き慣れた声が聞こえてきたと同時に、紅白の目の前からお弁当が消えていた。ぱっと顔をあげると、紅白の探していたソレは宙に浮いている。教室の入り口の方を見ると、『嫁』こと天姫が立っていた。
「なんでそうお前はタイミング良く出てくるんだ」
紅白はしかめ面で、あからさまに嫌な顔をしている。
「あたしにとってはバッドタイミングですけどね!」
そして天姫も、見るからに機嫌の悪い表情をして、教室に入ってくる。
いつも通りの痴話喧嘩を前に、修良はただただ笑うだけである。
「あだっ!」
宙に浮いていたお弁当は、紅白のおでこにぶつかり(ぶつけられ)机の上に戻った。
「放課後ちょっと付き合いなさい」
「え、いやだ」
踵を返そうとする天姫に即答する紅白。
「いいから付き合いなさい。お弁当作ってあげたでしょ」
「頼んだ覚えはない!」
「じゃあ食うな!」
「断る!」
紅白は、奪われる前にそそくさと口の中へとおかずを運んでいく。食べてしまっては、返せと言われても無理な話だ。
「あーそう。でも、食べたんだったら、そのお代として、働いてもらわないとね~」
ニヤリ、と女の子に似合わない笑顔を浮かべる天姫。
「………やっぱりお前が嫁は御免だな」
うっすらと戻った意識の中、紅白は最初にそう思った。
バキバキに固まった身体に鞭を打って、何とか起き上がる。
紅白は自分が地べたにいることを認識すると、ベッドの方を見た。
誰もいない。
「……………落ちたのか?」
紅白は目を覚ましてから、意識がはっきりするまでが遅い方だった。
一階に下りると、何やらいい匂いがした。紅白には昨日料理した記憶がないので、頭上にクエスチョンマークを浮かべながら、リビングに入る。
「あ、おはよー。もう少しで出来るからちょっと待ってて」
そこには天姫がいた。
「……………なんでいる?」
紅白はまだ覚醒しきっていない頭を出来る限り回転させたが、天姫がいる理由がわからなかった。
「なんでって、昨日からいるじゃない。いつまで寝ぼけてんのよ」
天姫は鍋にお玉を入れ、味噌汁の味をチェックする。表情から見るに、いい出来だったようだ。制服の上からつけているエプロンが、どこか新妻のような雰囲気を演出している。
「……………なんかエロいな」
天姫は何も言わず紅白を痛めつけ、やっとのことで紅白の意識は覚醒した。
「あれ?修良今日は弁当なのか?」
四時間目が終わった昼休み、一番前のど真ん中に座る紅白の後ろの席に、弁当を持ってやってきた修良。こういう光景を見ると、能力を持っていると言えど、百年前となんら変わりない普通の高校生の生活だ。
「あぁ。今日はお姉ちゃんがお弁当いるらしくてさ。ついでにって俺のも作ってくれたんだ」
そう言って開けられた二段弁当のおかずのフロアには、所せましとおかずが詰まっていた。冷凍食品も、百年程前に比べ随分とクオリティが上がり、特にお弁当に重宝される時代で、修良のお弁当には、一つも冷凍食品が入っていなかった。すべて手作りのおかずである。
「ほえ~。お前の姉ちゃん料理上手いんだな」
「そう?まぁまずくはないけどね。そういう紅白だって今日はお弁当じゃないか。なんだ?また嫁か?」
「あんなすぐ押しつぶしてくるような暴力嫁は御免だな」
「悪かったわね、暴力嫁で」
聞き慣れた声が聞こえてきたと同時に、紅白の目の前からお弁当が消えていた。ぱっと顔をあげると、紅白の探していたソレは宙に浮いている。教室の入り口の方を見ると、『嫁』こと天姫が立っていた。
「なんでそうお前はタイミング良く出てくるんだ」
紅白はしかめ面で、あからさまに嫌な顔をしている。
「あたしにとってはバッドタイミングですけどね!」
そして天姫も、見るからに機嫌の悪い表情をして、教室に入ってくる。
いつも通りの痴話喧嘩を前に、修良はただただ笑うだけである。
「あだっ!」
宙に浮いていたお弁当は、紅白のおでこにぶつかり(ぶつけられ)机の上に戻った。
「放課後ちょっと付き合いなさい」
「え、いやだ」
踵を返そうとする天姫に即答する紅白。
「いいから付き合いなさい。お弁当作ってあげたでしょ」
「頼んだ覚えはない!」
「じゃあ食うな!」
「断る!」
紅白は、奪われる前にそそくさと口の中へとおかずを運んでいく。食べてしまっては、返せと言われても無理な話だ。
「あーそう。でも、食べたんだったら、そのお代として、働いてもらわないとね~」
ニヤリ、と女の子に似合わない笑顔を浮かべる天姫。
「………やっぱりお前が嫁は御免だな」
0
あなたにおすすめの小説
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる