いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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604:濃厚

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食事代がいくらになったか知りたいけれど、息子の奢りだ、
喜んで奢られよう。
どうやらここの店主とは顔なじみのようで、
会計時にいろいろ話をしていた。

気付いたのはお金を払う時になってからのようだ。
ということは、ガイライの知り合いだからよくしてくれたわけでもなく、
常にあの、愛想のいい接客なんだ。いいね。

「モウ、あなたを紹介していいですか?」

ばれたら隠すこともしない。

「もちろん。お食事、とてもおいしかったです。
おさかなもここまで臭みのない状態でお店で食べたのは初めて、
プリンも濃厚でした。卵もこだわるべき要素なんですね。」
「これはうれしい。わたしのこだわりをわかってくださいますか?
他の方はもちろん、おいしいとはおっしゃってくださいますが、
何がとは言わない。
しかし、あなたが?あの赤い塊?」
「護衛業の方ですよ?」
「ええ。武の大会でガイライ殿に勝った方だ。
観戦させていただきましたよ。
その前の口上もすばらしかった。」
「では、予選から?」
「ええ。ちょうど王都にいましてね。お誘いをいただきまして。
本戦のほうは見れなかったのでが。」
「その後、わたしも倒れて予選落ちです。お恥ずかしい。」
「なにを!なにをおっしゃいますか!!ああ、ガイライ殿!
どうしてもっと早く言ってくれないんですか!!
いや、気付かないほうがおかしいんですね。ああ、どうしよう。
では、こちらの方が剣のマティス殿?ん?ニック殿も!ワイプ殿?え?」

師匠を認識した時に、頬を噛むようなしぐさをした。
うん、笑いをこらえてるのね。
ということは、若かりし頃の師匠を知らないということだ。


「分隊になって、少し時間ができたからな。
ダクト街道を案内しようと思って。
分隊の身だ、何を言われるか分からないから、
少し変装を。口外はしないでほしい。」
「ええ、もちろん。
ああ、しかし、赤い塊モウ殿にお会いしたことは自慢したいですが、
仕方がないですね。」

この店の主人には身バレをしたが、後は内緒だ。
シェフを呼べ!と料理の手法をマティスは聞きたそうにしていたが、
そこは舌で盗もう。
プリンは濃厚だった。その卵、陸鳥の卵が欲しいね。

マティスに書いてもらった陸鳥の絵は水飲み鳥の帽子のないのにそっくりだった。
それをいまから捕まえに行く。
ここのお店では、卵採りの人から買っているとか。
そんな仕事もあるのか。

その鳥に乗って移動するというので、楽しみだというと、
ニックさんをはじめ、マティスまでもが、
笑っているのが気になるところだ。


─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘




陸鳥は人懐っこい鳥だ。
軍馬ほどに体力はないが、
人をのせて走る。それもかなりの速さだ。
ただ、距離は出ない。己の縄張りのみだ。
あの店の店主の話ではほぼ、家畜化しいている。
餌をもらうかわりに卵を置いていく。
それを卵採りが広範囲に集めてくるそうだ。
その餌は、店もち。かなりの量だ。
がニワトリの卵より味は濃いという。
プリンの作り方が広まり試しに作れば、
こちらのほうがうまいと評判だという。
ダクト街道の新名物と言えるそうな。
卵一つの値段が、ティータイの23倍。
その価値があるかどうかは別にして、うまいことはうまい。
人を見つけるとすり寄ってくる。
もともと動物には好かれる愛しい人のことだ、
陸鳥まみれになるほほえましい姿を想像したのだ。

卵も手に入れば、プリンもケーキもクッキーも、
もちろん、だし巻きやウマキもさらにうまいものができると思っていたのに。


いま陸鳥の数、20ほどと愛しい人が対峙している。
しかも殺気があるのだ。




「想像と違うな。」
「ああ、まったくだ。」

私は愛しい人のシャシンを。
ワイプ達は卵を両脇に抱えて見守っている。



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