いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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478:根回し

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ニバーセルのうまい肉はもちろんサイだ。
が、それはめったに入らないし、数もない。
会合前の王族たちの晩餐会はいつも仔ボット。
これはクロモの実家が飼育しているそうだ。
王都と言えど、一つの小さな領国。
それぞれの産業、職業がある。
ただそれらがすべて、王、と王族の為だということだ。
今回、サイが20頭入荷した。
砂問題があったが、石使いのお陰で問題なく、
さらに20頭明日には入ってくる。

砂問題ですか?
なぜか、肉に砂が混じっているのですよ。
それを、石使いが取り除く。手間と金がかかりますが、
肉のうまさには代えられない。
そこで、草原買い取りの話が出てきました。
コットワッツと草原の民との話はもちろん、
王都が把握していることです。
飛び地で牧場を王都管轄で持つのは何の問題もない。
が、王都御用達のボット牧場は?
わたしの一族が持つものです。
金をかけて育てたボットだ。
一般に卸すには値が張りすぎる。
それよりうまい、
サイが少しでも安価で入るのならすぐに廃れましょう。


「なにも、コットワッツとして何も生みださない土地の税金を払い続け、
それでなくても王都から嫌われているコットワッツの立場をさらに悪化させ、
クロモ殿の一族が経営している牧場を守れと?
買取を拒否したところで、草原の民はサイを狩って持ってくるでしょう?
仔ボットよりサイのほうがうまいと言われるなら、それは仕方がないことだ。
草原の民はますます、コットワッツの領民になることを嫌いますね。
だったら、今回は王都の提案を期待通りに受けることが、
コットワッツにとって最良ですよ?」
「・・・・ごもっとも。」
「なぜわかりきったことを?」
「わたしが、こちらに話をしに来たということが必要だったのです。
一族には面目が立ちます。
我が保身の為です。申し訳ない。」
「かまいませんよ、先に有意義な情報を頂いたことになる。」
「そういっていただければ。」


クロモさんは寝る前に温めた乳をのむことを習慣にしているといって、
この飲み方はいいと、泡だて器を買ってくれた。
改良型だ。ブレンダーというのだろうか?
ラテ専用。開発中だということも言っておく。
コーヒーは眠れなくなるというから、
乳単独で飲んだほうがいいですよと、それだけアドバイス。


─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘


月が昇る前、少し早い晩御飯。
今日はハンバーグだ。
他の領主たちは夜会を開いていることだろう。

予約はしてもらっている、師匠に。
すると当然いる。

「忙しいのにすいません、師匠。」
「いえ、かまわないですよ。食べたらまた仕事に戻りますが。」
「カップ君たちは地方に?」
「ええ、戻りは半分過ぎでしょうか?」
「じゃ、なにか作って置いときますね。」
「助かりますね。片手で食べれるものがいい。」
「ああ、じゃ、そういうもの作りますね。
明日はピザなんで、それ以外で。」
「なんでも!マティス君?おいしい肉は忘れていませんからね?」
「・・・・いまから食べるだろ?」
「ハンバーグ?それは別でしょ?サイですか?ポットですか?」
「師匠!両方ですよ!食べ比べしましょう!」
「素晴らしい!ではまず、おいしくなったとうわさのハンバーグですね。
これはまだ食べていないので楽しみです。」



「セサミナ様、お久しぶりでございます。
ご贔屓いただき感謝いたします。」
「いや、コットワッツ出身者の店だ、贔屓にもするだろう。
それにおいしくなったと評判らしいな。楽しみだ。
それと後で少し時間をもらいたい。」
「ええ、もちろん。では、ごゆっくりと。」



うまい!さすがプロだ!
もちろん、家で作るマティスと食べるものとどっちといえば、
当然マティスの物なんだが、それは比べようがないだろう。
うん。おいしい!
ソースだな、ソースがうまい。玉ねぎもとことん炒めているのだろう。
シャキシャキしたものは一切ない。それがまたうまい。

豚は入っていないようだ。
ポット100%、贅沢だな。

「うまいですね。これなら満足です。
モウやマティス君が作ってくれたものとは別で、うまいですね。」
「お店で食べるってそれだけでおいしい感じがしますよ?
ね?マティス?」
「私は愛し人と食べるのなら何でも。
ワイプがいなければさらにうまいだろう。」
「兄さんはそうなりますね。
ああ、ワイプ殿?中央院のクロモ殿がいらっしゃいましたよ。」
「サイの話?」
「ええ。」
「ご苦労なことです。返事は断ったのでしょう?」
「そうなりますね。王都から買い取りの打診があれば受けますが、
牧場化の話をこちらに持ってこられたら困ります。」
「どうして?」
「サイは賢い。いままで単独で行動していたのが、
銃を使いだしてからでしょうね、複数で行動している。
あれらを家畜化するのは手を焼きます。今はそれをしている時間はない。
すなおにリングで買い取ってほしいですね。」
「そうもいかないですよ。いま王都には余裕がない。」
「では、この話はないと?」
「マティス君?」

マティスが個室、今回は個室だ、その個室に膜を張る。
砂漠石を使えば、使っていることが外に漏れる。
が、砂漠石の膜ならわからないそうだ。

「いいぞ。」

ちょっと!なにその阿吽の呼吸!

「内緒なんですが、呪いの森の購入を勧めるそうですね。
ちょうど同じような面積でしょ?」
「呪いの森はだれの領土でもない。それを勧めると?」
「中央に口添えするということです。
で、減収はなし、王都の懐は減らないと。」
「賢いね!おいくら万円なんだろ?」
「金額?厳密には宣言すれば自分の領土となりますよ?
購入というのは、ま、根回しですね。ほかに文句が出ないように。
中央によろしくという意味です。その金額が50万リングでしょうか?」
「50万!それ、ほんとに中央院の根回しにつかうの?
中央院が使い込まない?」
「それはないですよ?コットワッツが買えば、ニバーセルに納める税が、
この場合増えも減りもしない。新領土だと、たとえばあなたが宣言したなら、
あなたが中央に税を払うことになる。
これは大陸に共通の決まりですね。リングを使う以上、払うものでしょう。
これがまた、ややこしいことになるので、おすすめはしませんね。
一度、コットワッツに組み込まれてから、分与という形がいいでしょう。
モウなり、マティス君なりが、コットワッツに税を納める。
ニバーセルにしてみれば、コットワッツの領土です。」
「何もない生み出さない土地、草原と同じ税?」
「そうでしょうね。でないと意味はない。」
「年どれくらい?」
「1000リングほどですよ?」
「すぐには50万リングは払えないが、近いうちに必ず。
年1000リングはこちらで払う。
領主セサミナ、あの土地を我らに。」

マティスが立上り、頭を下げるので、
わたしも同じように礼を取る。

50万リング。
コットワッツの年間予算が57万。
安いのか高いのかわからない。
が、土地が欲しい、しかもあの呪いの森。
是が非でもほしい!!

「師匠!なんか仕事ないかな?
さくっと終わるようなの!」
「それはたくさんありますよ?地方では高額ですが、
王都ではそれほどでもない。あの眼鏡50本作るだけで50万でしょ?」
「あー、仕事は選びたくないけど、物が残らないような?」
「ありますよ!わたしの食事の用意!
年に10万払いますから5年で稼げる。」
「却下だ!」
「そうですか?残念です。」
「兄さんも、姉さんも。いりませんよ?
それ以上のことはしていただいてるんですから。」
「ダメダメ!即金で払えないのが情けないけど、
必ず払う。そうしないとダメだ。」
「姉さんがそういうのでしたら。いつでもいいので。
ああ、でも、ちょうどいいですね。これを使わせてもらいましょう。」
「?」
「2回連続で護衛として赤い塊を雇っている。
兄だからというのは通用しない。
どれだけの報酬を払っているかという話に必ずなります。
それを土地の分与ということにしましょう。
お金ではないんですよ、権利を報酬として渡すということですね。
そうなると、他の領国も同じように土地を分与しようというでしょう。
それを受ける受けないはこちらが選べる。気に入れば受ければいいし、
気に入らなければ断ればいい。
石使い赤い塊とは違う条件を出せばいいんですよ。」
「おお!だったら、欲しい土地はいっぱいあるね。
サボテンの森も買いたいんだけど?」
「砂漠は地続きなら申請できますが、一部分だけというのは無理ですね。」
「あー、そうなるのか。」
「砂漠石の採取場所はただの取り決めです。領国同士の。
国同士の取り決めもありますが。
みなが自由に砂漠を行き来できるわけではないので、
できるものが利用すればいい。それをわざわざ報告することもないですよ。」
「そうなるね。なるほど。」

とにかく、
師匠に手離れのいいおいしい仕事を探してもらうことにする。
それで、この話はいったん終了。
店主を呼んで、捌き方を教えてもらうことになった。


「さすがだな。前回と比べて、いや、比べることもないな。
逆にパンにはさむものは前回のものがいいということらしいから。」
「ええ。ありがとうございます。努力しました。
玉葱の量、炒め具合。いま、一番うまくできたと思います。
しかし、まだまだ、同じように売り出す店も出てきています。
努力しませんと。」
「次回が楽しみだな。そう言えば、中にチーズが入ったものはないのか?
あれがうまいし、好きなんだが?」
「チーズ?中にですか?」
「そうだ。あれは?モウ?」
「適当です、セサミナ様。薄く切って、丸めて。固いものです、なんでも。
毛長ポットのチーズもいいかもしれませんね。」
「あのチーズに絡めるのは?」
「あれも、適当ですよ?白ワインで溶かして。
あ!大蒜が効いてるかもしれませんね。大蒜!
これは匂いに敏感なニバーセルで流行るかどうか?
ビルの葉はご存じ?あれの実なんですよ?」
「えっと、赤い塊のモウ様ですよね?護衛の?
料理人なのでしょうか?」
「まさか!料理人はマティスですよ?」
「え?」
「ああ、先にこちらの用事を済ませたい。
もうじき客が来るのだろう?その前のほうがいい。」

師匠はここで帰っていった。
そのチーズを絡めるの?なに?と言っていたので、
明日はそれも出そう。


「ボットが沢山手に入ったのだ。
で、捌き方をな、教えてほしいのだ。」
「どなたに?」
「ああ、マティスだ。我が兄ながら、料理がうまい。
サイも豚もさばけるが、ボットはないそうだ。」
「そうなのですか?マティス様は剣のマティスで料理人と?」
「そう思ってもらってもいいですよね?兄上?」
「料理人は人の為に料理を作るのだろう?わたしは愛しい人と、
愛しい人が一緒に食べたいと思う相手にしか作らないから、
料理人ではないな。」
「そうですか?その中に入っていてうれしですよ。
というわけだ、店主。ここでポットを出してもいいか?
持ってきている。」
「ええ。かまいません。おい!ラグロを呼んで来い!
ラグロというのは料理人で肉の捌き人です。こちらに来てから雇いました。
前職は王都の厨房です。」
「なぜ辞めた?辞めさせられた?」
「王都で出す肉は仔ボットの一部だけです。
あとは処分すると。それはもったいないと抗議したらしいんですね。
当然無視されるんですが、再三訴えたそうで。それでクビに。」
「それこそもったいないな。が、お前にすれば良い人材を雇えたな。」
「ええ。」

「旦那?呼びましたか?今日の仕込みは終わっていますが?」
「ああ、わかっている。すまないが、今からポットを1頭捌いてほしい。
持ち込みなんだがな。この客人の前で。
質問には答えてやってくれ。」
「すまないな、ラグロ殿。1頭まるまる手に入ったが、
どうしたものか、こちらの主人に相談したんだ。
まだ数頭あるから、自分たちで覚えたほうがいいとおもってね。
手に余るようなら、また考えるから。」
「そうか。」

店の主人がいうのなら仕方がないと、
前掛けを付けて、厨房の横にある、一室に案内された。

「血抜きから教えてもらえるか?」
「え?いつ仕留めたんだ?
すぐ血抜きしないととても食える肉にはならない。」
「すぐか?どれぐらい?」
「早ければ早いほどいい。豚と一緒だ。」
「そうか。だったら、血抜きしているものを出そう。
仕留めて、素早く血を抜いたものだ。それでかまわないか?」
「あるんならそれで。」

背負子からどんと。
セサミンは見るの?わたしも見るけど。
うん、頑張ろう。

「一般の血抜きは?ああ、そこに傷を?で?吊ると?」
「皮はあまり切りたくない。できるだけ、大きく取りたいんだ。
そうするとどこから切る?」
「ああ、臓物は捨てないでくれ。その排泄に近いところは処分でいい。
それ以外だ。」
「骨は?」
「スープ!」
「置いといてくれ。」
「・・・・。」

結局捨てるところは、頭部の頬肉と舌以外、それと脊髄。
これは骨から取り出したらいいのかもしれないけど、
背骨全部で。あと、血管とか。
大腸と胃は断念。洗浄するにはここではできない。
水道ないもの。小腸はなんとか。

「覚えた?」
「うむ。大丈夫だ。肝あたりはいいが、これ、チョウ?どうするんだ?
豚と同じで塩漬け?」
「あー、素直に開いて、小麦粉で洗う。ソーセージはいいや。
けっこう肉厚だから、焼くほうにしよう。
あとは、焼いて食べてみよう。ダメかもしれないからね。
そのときはあんがとって。お肉はおいしく頂きましょう。」
「わかった。」


「・・・・食うのか?内臓を?」

ラグロさんが驚いた顔で聞いて来た。

「んー、食べれたらね。皮は加工するよ?」
「捨てたところは?」
「洗浄が大変だ。それをするには大量の水がいる。
そこまで手を加えることもない。いまはね。贅沢なんだ。
ちょっとした労力でおいしく食べる、これが一番。」




「では、戻ろうか?これらは、どうする?持って帰るか?」
「んー、内臓系は持ってかえろう。
で、食べれる塊は、もらってもらおう。勉強代だね。処分費も含むんだけど。」
「主人?そういうことでいいだろうか?大変勉強になったようだ。
これはもらってほしい。
明日、つぶして店で出すのもいいし、焼いて食べるのもいいだろう。」
「それは遠慮なく。ラグロ、氷室に入れておこう。
そういえば、冷蔵庫、冷凍庫はいつになるんでしょうか?」
「もう少しだな。今回の会合でお披露目だ。
売り出しはその後だな。」
「そうですか、待ち遠しいですね。」
「そういってもらえるのはうれしいな。では、失礼する。」
「あの?先ほどのチーズのお話は?」
「ああ、どうですか?」
「これ、焼いてないの。普通に焼いてみてください。
で、これはこのまま火にかけて、とろけたら、なんでも絡めて食べる。
野菜とパンがいい。お肉もいいですよ。」
「え?これ?」
「そうそう、研究してください。」

チーズイン!



─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘



「旦那?あれ、誰ですか?」
「コットワッツ領主だ。それと護衛の2人。剣のマティスと赤い塊のモウ。」
「え?あれが?あの2人は料理人ではなく?」
「そうだ。しかし、内臓まで食うのか?
そこまでコットワッツの財政は逼迫しているのか?」
「いや、ちがうでしょ?俺とおなじですよ。食べれるところは食べると。
いや、俺以上だな。内臓は食べる気が起きない。
あのポットもどこから持ってきたのか。
血が一滴もなかった。あれでつくったハンバーグはさらにうまいはず。
いや、そのまま焼いてもうまいはずだ。
あの男の方が、ここはこの切り方のほうがいいって。焼き方も教えてもらいました。
その切ってくれたところがあるんですよ。領主もあの女もそこおいしいよねーって。
焼いて食べてみますか?」
「それは、ちょっと食べてみたいな。ああ、焼いてくれ。
それと、これも焼いてくれ。ああ、1つだけな。1つは中身を見てみよう。
この鍋も温めて。パンか?それも。」
「だれか呼びますか?」
「今は忙しいだろう。それに、まずは試してみよう。
お前も料理人だ。呼ばなくてもいい。」
「しかし。」
「いいから。あのコットワッツ領主がうまいといったものだぞ?早く食べたいだろ?」
「ええ!」


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