いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

文字の大きさ
386 / 869

386:顎

しおりを挟む
「テルマ様ご友人、砂漠の民、ティス様、モウ様、入場です。」


扉が開き、しずしずとマティスがエスコートしてくれる。
かなり大きな広間。そして、正面に、あの4人が座っている。
一番端っこはライガーだ。出してもらえたのかな?
また、わたしを見て、目をぱちくりしている。
なんだ?今度こそ喧嘩は買うぞ?
にっこり微笑んで、席に。
まだ座れない。


「ドルガナ公国 パラベン大公、アデラ様、ご入場です。」

この公国やら、大公やら、元首やら。
翻訳でそう聞こえるけど、実際どうなんだろうね。
適当なんだろうな。食べ物じゃないし。



奥方がものすごいインパクトだ。
ん?女の人が大公なんだ。女性が治めているのね。
へー。
お局様の最終形態のようだ。

そのお局様が正面のエデトさんを見て、
ふふんと笑った。
彼女が着席をして、やっと座れる。
エデトさんのあたりさわりのない挨拶が始まる。
ドルガナ公が来てくれたので、
臥せっている場合ではないと元気になったこと、
公のおかげだと感謝し、
皆に心配かけたと謝罪し。
遠くニバーセル、ルカリア領から
銃を買うこと、その道筋をつけてくれたライガーに感謝をと。

ライガーは踏んだり蹴ったりの人生だな。

「そして、今宵はテルマの友人の孫にあたる方が、
結婚をしたとの報告をしに来てくれた。
テルマの孫のようなものと聞く。
その伴侶があのニバーセルで剣のマティスと称えられた御仁だ。
テルマも驚いたそうだ。モウ殿?よき伴侶を得たな。
テルマの孫なら、私の娘だ。その伴侶もな。
トマイザー、マレイン?お前たちの妹、弟になるぞ?
が、実質は姉と兄だな。
ん?だってそうだろ?テルマは我が父なのだから。
はははは!」

他の客はルポイドの商人か、親戚筋か。
同じように笑っている。
トマイザー、マレイン?お前たちは笑うな。
お前たちが頼りないから笑いになってるんだぞ?

その時のドルガナ公の顔!
すごい!顎が落ちるってリアルで見たよ。
ほんとに知らなかったからか、糸の効果がなくなったからか。
糸は誰かが、不備を突けばほころびるのか?
テルマさんもにこやかに笑っていいるが、
冷たい視線はドルガナ公に。


料理が運ばれてくる。
お上品なお味だが、もうひとひねりほしい。
そして全体に甘い。テオブロマを使っているのか?
料理の甘味は食材そのものか、みりんの家で育った
わたしの味覚には甘すぎる。
メインは肉。そりゃそうだ。
なんのお肉なんだろう?うまい。
弾力があるのだ。
でも噛みしめれば肉汁があふれる。


かぶりつきたい。

マティスを見ると、品よく給仕を呼ぶ。
小声で聞いているようだ。
様になるな。

「愛しい人、クジラだそうだ。
私もこうして食べるのは初めてだ。討伐対クジラの大型獣だ。」
「・・・クジラ。あとで絵を書いてね。」
「モウ?すまなかったな、あのまま2人だけにして。」
「いいえ。おじい様。いえ、テルマ様。素敵なお部屋に、
2人して驚いてしまいました。
良き思い出ができました。ありがとうございます。
そして、元首エデト様。
このように晩餐会に招待していただき、ありがとうございます。
また、娘とお呼びいただけたことうれしく思います。」
「ははは、そうか。モウ殿、いや、モウと呼ぼうか。
モウはクジラは初めてか?うまそうに食するな。」
「ええ、初めてです。噛めば噛むほど味が溢れますね。
クジラ、どのような姿のでしょうか?大型?馬ぐらいですか?」
「あははは!それだと大型とは言わない。
そうだな、この部屋に1頭はいるか入らないくらいだ。」


へ?
わたしも顎が落ちそうだ。


「しかし、食せる肉はほんの少しだ。
これぐらい?日持ちはするからな。」


両手を広げる。


なんか、がっついて聞いてしまいそうなので
マティスを見る。


「愛しい人、その他のものは骨と皮とあとは固い。
石と言ってもいいな。
その外の肉だ。遠征時は専用の持ち帰り部隊がいる。
貴重なんだ。」
「マティス殿か。うわさはかねがね。
軍は独立した機関、
元首がおいそれと顔を出すわけはいかないからな。
2回の遠征で3頭仕留めたと聞くが?」
「それはその時所属していた小隊の成果です。
私個人の手柄ではありませんよ。」
「はは、なるほど。次回はニバーセル軍が参加するが、
その時は?」
「エデト殿、私はいま、一砂漠の民。
今回はモウの伴侶としてここに。
ニバーセルもそうですが、
コットワッツでの肩書なぞないのですよ。」

「は!ならばすぐに退席されよ。場違いだ。」
「ドルガナ公、彼らはマレインが招待したのだ。
わたしもテルマも歓迎している。
招待客のあなたがそのように言う権利はない。」

お局様がお怒りです。
そうだよね、じゃ、帰ろうか。
甘味まで食べたから。
定番の葡萄です。年中あるのかな?

「しかし、場違いというのは正しい。
では、エデト殿、テルマ殿。歓待ありがたく。
モウ、愛しい人。会の途中だが失礼しよう。」
「ええ、あなた。」

「エデト殿、わたしもこれで。
なに、マティス殿とモウ殿は旧知の間柄。
久しぶりにこのようなところで顔を合わせたのだ。
少し話がしたい。場違いと言われればわたしもそうだ。
わたしもルカリアの肩書なぞないのだから。」

えー。もう帰りたいのに。

「それはいけない。ではこの会はこれで終わろう。
ドルガナ公、見舞いありがたく。
今後このような晩餐会に招待することはないが、
健やかにお過ごしください。」
「・・・それはどういう意味ですか?」
「わからぬと?そんなことはないでしょう?
前回の会食時の話は楽しいお話だったと言えばお分かりか?」
「・・・・。」
「そうだ!マティス殿!
肩書がなくともコットワッツ、セサミナ殿の実兄。
話がしたのだ。まずは内内でな。
紹介してもらえるだろうか?
砂漠石が枯渇した話は承知だ。
その後どのような対策を取っているのか
お教え願いたいのだ。
我が国も砂漠石の購入手段がなくなりましたので。」
「・・・・。失礼する。」

お局様と、横のご主人だろうか、
2人が帰っていく。
ご主人は苦笑いで会釈していった。

正面に座っているので、目がよく合った。
別に色目とかではない。
これうまい!と頷くタイミングが同じだったのだ。
あとは、目線を動かし、これは?とか、
これとこれの組み合わせ?おお!!とか。
あれは味覚の同士だ。
なかなかの食いしん坊と見た。




ドレス姿のわたしを、お客の女性が何人かがまとまって声を掛けていく。
その煌めくものはガラス?

「いえ、コットワッツの金剛石と緑玉です。
コットワッツの領主様が義理とはいえわたしの弟なるので、
こういう席で恥をかかぬようにと持たせてくれました。
まだ販売はしていないそうです。
しかし、高貴なものを身に付けていても、
心の中は今日頂いた、クジラのことでいっぱい。
ルポイド大公様が気を悪くするのは当然。
皆様に申すわけなく。
少し宣伝用の装飾があります。
後日になりますが、エデト様にお渡ししますので、
今回の詫びにお納めください。
そして、コットワッツの装飾をよろしくお願いいたします。」

何人?6人か?
セサミンに持ってきてもらおう。


「モウ。これから身内だけの集まりだ。
ライガー殿、モウたちを独り占めするのはよくない。
さ、もう一度中に。
皆皆さま、本日はありがとうございます。」

そう言われれば、ほかのお客さんは帰っていく。
今度はサロンのようなところに案内された。
んー、着替えたい。


「モウ殿。その節は。」
「ははは!敬称なぞいらん。このようなドレスを着ているが、
中身はお前が言う卑怯者だ。遠慮するな、ライガー?」
「モウとライガーはそのように軽口が言える間柄なのか?」
「ええ、おじい様。あの、着替えてきてもよろしいですか?
本当に、これ、大変なんです。」
「ん?」
「わたしはもともと、こういう席には不慣れ。
しかも、これ、脚もそろえないといけないし、
なんていうんですか、斜めに座る?
おじい様もやってみてください。新しい鍛錬ですよ?」
「うむ。脚をそろえて、斜めに。ご婦人方が座る体制だな。
・・・・なるほど。手はこのように添えているな。」
「父上?どうなのですか?」

私的な空間では父上なんだ。

「エデト、お前もやってみろ。」

元首、息子2人も同じように。

ある種の集団のようだ。
みんなで、しなを作る。
マティスも、ライガーも。

「ああ、それで、このように笑っているな。
オホホホ。」

オホホホホホ。

馬鹿だ。


「「「「「「「・・・・・。」」」」」」」


「んっ。」

控えてる女官が咳を我慢する声を出す。


「・・・そうだな。落ち着いて話したい。
着替えてこられよ。」

さすが元首だ。
よく気付いた。
これ以上やったらいろいろ危ない。

「ありがとうございます。」


女官さんの後ろをマティスと2人で歩く。
さっきの笑い上戸の人だ。
ふ、っとか、ぶっとか、思い出して笑いを我慢していた。
部屋の外で待っててくれるそうなので、
急いで着替えねば。

入ってすぐ防音はもう癖のようなものだ。

「どう?」
「そうだな、2人ほど入った形跡があるな。
背負子の中身は皆見たようだな。
音はどうだ?」


『だれか来たかな?教えて?』



・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・

お前は向こうに


・・・・


なにこれ 布

静かに


金も砂漠石もない
持ち歩いてるの


・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・







どう
そうだな



『ありがとう。もういいよ。』


「すごいな。」
「ね?とにかく着替えよう。
どこの人かな?ここの手癖が悪い人?
ルポイド?ドルガナ?」
「わからんな。
わかったところで何ともな。戻って、早々に退散しよう。」
「うん。」


月が昇って半分から始まった晩餐会。
合わさりの月までは1日16時間だ。
もうすぐにでも月が沈む。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

どたぬき
ファンタジー
 ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。  なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

処理中です...