いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

文字の大きさ
327 / 869

327:領主の仕事

しおりを挟む
「お茶を飲んでる場合じゃなかったね。ちょっと準備するよ。
お風呂入ってくる。」



愛しい人が、扉君の家に帰った。
いつもと違う美しさを纏った姿を見れるのだな。楽しみだ。

さて。


「で?なにがあった?」
「ああ、本当に助かりましたよ。あれ、一人なら死んでましたね。」
「私たちがいるから、多少無理したんだろ?
彼女が気持ちが悪いといったぞ?この旅の間は彼女は
お前の弟子だというつながりがある。不本意だがな。
お前になにかあれば、彼女にいく。スーとホーにもだ。二度目はないぞ?
有ればつながりごと消すからな?」
「ええ。申し訳ない。」
「で?」
「メジャートの領主館と弟、あの土地の管理者の館と調べて、
ナソニールに。先に調べて、通知を渡すだけにしておこうとね。
そこで、ごみ処理場をみてきました。
5年であの広さの湿地が埋まるわけがない。
メジャート以外のごみも受け入れていたはずです。」
「ナソニールの?」
「ええ、もちろん、全領土ではないですよ。
メジャートは一手にゴミを引き受けています。それがワンカ州の仕事です。
ナソニールは3ヵ所に分散している。2ヵ所の浄化は譲渡で、
その地の管理者が行っている。
あとの1カ所は本人が行う。
その本人が行うゴミ収集場が機能していなかった。
モウにも言いましたが、領主の仕事をしているからこそ領主なのです。
浄化の力が使えないということはその時点で領主ではない。
領主だから使えるのではなく、領主の仕事をしているから使えるのですよ。」
「ああ、それは理解できる。」
「だから、ワンカ州の管理者は5年前ですか?そこから力が使えていない。
譲渡された力が使えないということは、譲渡の時に誓った
領主への忠誠心が揺るいでるんですよ。
ま、野心をもった、そんなところでしょうか?
領国に誓っていれば使えていたのかもしれませんがね。
ナソニールは領主そのものに力の衰えが出てきている。
実質ナソニールを管理しているものはあのツイミという人物だ。
管理していなくても領民の支持があれば別ですが、それも薄らいでいる。
メジャートの処理方法を見て、自分の分も廻していたんでしょうね。」
「ふん、そんなことはどうでもいい。
どこで、どうしてお前はあれだけズタボロになったんだ?
受け身もとれていない。」
「だから、そのゴミ処理場ですよ。ゴミは搬入されていないのに、
何十人かは働いていましてね。なにかを混ぜてるような?
それがまた、弾丸工場にいた人間のように精気がない。
糸かと思って、目を凝らしていたら、いつの間にか、ね。
気配を完全に消していなかったのも問題でした。
殴られ、蹴りを入れられている間、痛みは感じないんですよ。
冷静に、骨がいった、内臓が破裂した、と考えるだけで。
痛みつけられるということをすべて受け入れていました。
5人ほどでしょうか?投げ捨てられましたよ、ゴミ捨て場に。」
「・・・途中で呼ぶことはできなかったのか?」
「ダメですね。私ができることは、痛みを受けることと考えていましたので。
痛みを通り越して体がどんどん冷たくなっていくんですよ。
恐怖はないんですね。冷静に自分の終わりを考えるんですよ。
そしたら、懐にいれたカイロ?それが暖かくて、
それで、朝ごはんのことを思い出しましたよ。
それからモウとあなたのことを考えた。」
「呼べ!すぐに!」
「考えるだけで精一杯だったんですよ。呼ぶまでの思考がない。」
「・・・糸か?」
「来ていた服についてますか?元通りにはなってますが。」

『風よ、ここにある糸を紡いでおくれ』

右手をくるりと廻す。
少ないが糸になった。


「ほう!どうしてそうなるんですか?」
「わからん、彼女がそう言って紡いだ。同じしぐさ、同じ言葉を言えば
同じことが出来る。私はな。呼び寄せと彼女の力だろうな。
呼び寄せだけなら、お前にもできる。逆に移動もできたはずだ。
それを紡ぐまではわからんが。」
「はー、言われてから気付くのでは遅いですね。」
「そういうことだ。」


彼女が真っ赤なドレスを身にまとい、ゆるやかに流れる髪であらわれた。
ああ、その髪を一日中触っていたい。



「・・・・あ、これで耳飾りつくって。あと靴も!」
「わかった。なにかあればすぐ呼べ。」
「はーい。」


耳飾りか、金と組み合わせるか。


「あの姿を皆に見せるのですか?」
「問題か?」
「あくまでもあなた方2人はわたしの弟子だ。
聞かれれば、砂漠の民の夫婦でいいでしょう。
しかし、権力者は美しいものを欲しがる。」
「愛しい人を欲しがると?欲しがるのはかまわない。それだけだ。」
「そうですね。剣のマティスが戻ったということは皆が知るところです。
何かあれば、そう名乗ればいい。」
「ああ、わかった。」
「そうなると剣のマティスもわたしの弟子だということですね?」
「!!!」
「あはははは!そういうことですよ。わたしはロープを羽織るだけですが、
あなたは着替えなさい。それで、迎えに。
その時にセサミナ殿に伝言を。
トックスさんにこの糸を調べてもらってください。」
「わかった。」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

どたぬき
ファンタジー
 ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。  なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

処理中です...