いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

文字の大きさ
183 / 869

183:謁見

しおりを挟む




明るいといえど月明かりだ。
謁見の館の大広間は我こそはシャンデリアであーる!という
ラルトルガの数倍ある大きさと数でこちらのほうが明るい。
これもガラスなのだろうか?

皆がセサミン達を見て、息を漏らす。
襟と袖口のトカゲの皮が光にあたり、よりよく映えるのだ。
光の当たり具合で、色も変わり素敵になったと思う。

その後ろの悪役夫婦にギョっっと息を呑む。

「ダーリン、この赤はこの光の下では派手みたいだね。」
「そうかなハニー?黒髪によく合っている。
口布を外して、赤い唇に吸い付きたいぐらいだ。」
 「はいはい。」



「謁見者~前へ~。」

この言葉で皆が口を閉じる。
王様が出てきて玉座に座り、その後ろに、王族と呼ばれる人たちが並ぶ。
その近くにすっぽんぽんの妖精が座ったり寝そべったりしている。
小型妖精の時は気付かなかったが、よく見ると、その乳首と臍とおけけがない。
つるんとしている。鼻もだ!で、羽根がある。え?匂いはわかるの?
そうか、エロティシズムとは孔と毛と突起物だ。うん。



セサミンと合流後、小さな控室に案内された。
ここでも露骨に嫌がらせをされている。
セサミン曰く椅子があるだけましですよ?と。


謁見の簡単な説明をしてもらう。
問答のときのようなことがないように。
あれだって、ちゃんと聞いたのに、マティスがいらんことをいうからだ!

で、謁見は領国ごとに呼ばれて、黙って跪く。
そのとき雇われの護衛はしなくていいそうだ。
雇い主を守ることが仕事だし、雇われている間の主は王様ではないからだ。
領主、及び領民はみな王様に仕えているから、礼を取る。
なるほど。
セサミンがこれが嫌で仕方がないようだ。

「あはははは!そりゃ、セサミン、若いって言われても仕方がないよ?」
「姉さん!それはどういう意味ですか!!」
「ああ、怒んないで。だって、そんな膝の屈伸運動だけで、
向こうは納得するんでしょ?してあげなよ?
ああ、べつにルグとドーガーがそんな気持ちでしてないってわかってるよ?
気持ちが通じてるからね。わたしもわかってる。
でも、王様に対しては思ってもないし、向こうもわかってない。
だったらいいじゃん。屈伸運動。いかに優雅に膝を折るか。
そんなことをしたってセサミンの自尊心は傷つかないでしょ?
むやみやたらにしろと言ってるんじゃないよ?
理不尽なときはしなくていい。けど、これってお約束なんでしょ?
臣下の礼って。
かっこよく決めといでよ。優雅にね。
今日は一段とかっこいんだから。
ねーちゃんにいいところ見せて?
ルグとドーガーもだよ?」
「姉さん!姉さん!!その上着でなければ胸にうずもれるのに!!」
「セサミナ!やはりあれはわざとだな!二度と許さんからそう思え!」
「ふん!小心な!」
「あははは!あ、ガムかんどいてね。どんどんきつくなってる。
おまじないも、もう一度かけておこう」

『ちちんぷいぷい、ちちんぷいぷい、痛いの痛いの飛んでいけ!』

痛くないけど、痛くなることはないだろう。
心も体も。
それと必ず剣をもった4人組がどこかの領国を
襲ってくる。お約束というものだそうだ。
たぶん今回はコットワッツが襲われる。

「姉さん、絶対声を出さないで。」




なんの順番かわからないけど、馬車の順番のように
最後のようだ。

わたしたちの前はメジャート領国。
従者が4人減っている。

「メジャート領国 領主ワーサ様、従者12、え?8?従者8名、前へ~。」
領主を先頭に、その後ろに従者が並ぶと
一斉に跪く。
女性はカテーシーだった。

「よく来た。明日はよろしく頼む」
「畏まりました。」

ふーん。よろしく頼まれるからよろしくししちゃうのかな?

この流れが定番。これ以外の言葉は話してはいけないそうだ。
領主と従者はその後立上り、横に並んでいく。

次だ!

「コットワッツ領国 領主セサミナ様、従者2名、護衛2名、前へ~。」

護衛なので、わたしたちの間にセサミン、
後ろに2人が続く。

横目でしか見れないが、セサミンは優雅に微笑を称え、
まっすぐ進んでいく。まぁ、素敵!

3人が跪くと同時にわたしたちは半歩下がる。
腕は後ろ。
これは一番最初に呼ばれた領国が護衛付きだったので真似してみた。
もちろん向こうは6人の護衛、14人の従者。
一番の大所帯だ。

「よく来た。明日はよろしく頼む」
「畏まりました。」

”変動!変動!そのせいで酒がない!”
”返せ!返せ!酒を返せ!”
”酒!酒!代わりの酒は持ってきたのか!”
”なかった!なかった!”
”燃やしちゃえ!燃やしちゃえ!”

妖精がずっと口と思しきものを動かしていたのは
こういうことを言っていたからだ。

(うわー、燃やすって。)
(1体なのに声は複数するな。)
(あれだよ、一つの体に何人かがはいってるんだよ。)
(怖い!)

小型妖精のように馬鹿なしゃべり方をする。
関わりたくないナンバーワンだ。

セサミンが立上り玉座のよこに並んでいるご婦人方に微笑んだのだろう、
声なき歓喜が上がってる。なるほど、セサミンはおば様キラーだな。
わたしもかわいがってしまうわけだ。


(愛しい人はセサミナを。)
(イエッサー)

横の一団に並ぶ前に4人が飛び出してくる。
お約束の襲撃者だ。
しかし、まさしく瞬殺ですね。
一応、わたしはセサミンの前を、後ろはルグとドーガーで守っている。

(前からくるけど、いい?これでどれだけ動ける確かめてみたい。)
(仕方がないな。上着は脱ぐな。)

前に踏み出して正拳付き。
姿を現し倒れ込んだ。石じゃなく自分の力なのね。
そのとき誰かが小さな悲鳴をあげた。
4人はお約束だからいいけど、5人目がいたことに驚いたのかな?

セサミンを振り返ると頷いたので問題なく、黙ってメジャート領国の横に並んだ。
倒れている5人は、どこからか現れた人によって回収される。

”うるさい!うるさい!イライラする!”
”ダメなのに!ダメなのに!”
”だれだ!だれだ!”
”こいつ!こいつ!”
”許さない!許さない!”
”塞いじゃえ!塞いじゃえ!”

え?何を?
妖精がない鼻先がくっつくほどに悲鳴を上げた女の人見つめている。
そのまま女の人は崩れて落ちてしまった。
廻りはうらやましそうにしてる。
(なにあれ?)
(姉さん!しゃべらないで!妖精に選ばれたんだ。)


そのまま気を失った女性を数人の男が運び出している。
異常だ。

「謁見者以上でございます。」
「明日の会合で再び、よろしく頼む。」
領主8人が答える。畏まりましたと。

それだけ言うと王様は退場していった。その後ろに妖精も続く。
王族もぞろぞろ退場。

その後ろ姿をに頭を下げるだけの礼を取り
これで解散となる。

始まる前のようにすぐに廻りは騒がしくなった。
「しゃべっても大丈夫ですよ?」
『セサミナ様?いままでに5人目というのはあったのですか?』
「いえ、初めてです。わたしは気付かなかった。
ルグ、ドーガー?お前たちは?」
「申し訳ありません、まったく。」
「同じです。」
「そうか。」
『セサミナ様、あれは赤い塊を狙った者。腕試しの類でしょう。』

マティスがセサミンのことを様付で読んだので4人が吹きそうになった。
腕試し、か。
謁見の館に入ってからメディングに5000リングもらい損ねたときの気をまとっている。
中途半端に強いものには同じように強いと感じてもらえるそうだ。
護衛仕様です。

「ぶ、ふ。そ、そうですか。とにかく、もうここには用はありません。
館に戻りましょう。」
『また、みなで帰るのですか?』
「いえ、戻りは各自です。」
『変わった習慣ですね。』
「言われてみればそうですね。さ、戻りましょう。」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

どたぬき
ファンタジー
 ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。  なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

処理中です...